• 2025年3月2日

膝の痛みは何科を受診する?症状別の適切な受診先と治療法

膝の痛みは、歩行や階段の昇降が困難になるなど、日常生活の質を大きく低下させる可能性がある症状です。原因は痛む部位によってさまざまで、適切な治療を受けないと症状が進行するリスクもあります。この記事では、以下の項目についてわかりやすく解説します。

  • 膝の痛みの代表的な原因
  • 適切な診療科の選び方
  • 膝の痛みの治療法
  • 膝の痛みのセルフケア

膝の痛みの原因4選と症状の特徴

膝の痛みは、日常生活において大きな負担となります。膝の痛みの代表的な原因4つと、それぞれの症状の特徴を、具体的な症例や最新の研究結果を交えながらわかりやすく説明します。

  • 変形性膝関節症
  • 半月板損傷
  • 靱帯損傷(じんたいそんしょう)
  • 腸脛靭帯炎(ちょうけいじんたいえん)

変形性膝関節症:加齢による軟骨のすり減り

変形性膝関節症は、膝関節の軟骨がすり減り、骨同士が直接こすれ合うことで炎症や痛みが生じる病気です。軟骨は、膝への衝撃を吸収する役割を果たしています。健康な軟骨は、弾力があり滑らかですが、加齢や肥満、過度な運動などによって徐々にすり減っていきます。

初期症状としては、歩き始めや立ち上がり時に膝に痛みを感じることが多く、少し休むと痛みが和らぐ傾向があります。病気が進行すると、安静時にも痛みを感じたり、膝が腫れたり、変形したりすることもあります。軟骨のすり減りが進むと、骨棘(こっきょく)と呼ばれる骨の突起物が形成され、神経を刺激してさらに強い痛みを引き起こすこともあります。

45歳以上で活動に伴う膝関節痛があり、朝のこわばりが30分未満の場合、変形性膝関節症の可能性の高いとする研究結果があります。

半月板損傷:スポーツ外傷や加齢による損傷

半月板は、大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)の間にあるC型の軟骨で、膝にかかる衝撃を吸収する役割を担っています。スポーツ中の急な方向転換やジャンプ、加齢による変性などが原因で損傷することがあります。

半月板が損傷すると、膝の曲げ伸ばしの際の痛みやクリック音、引っかかり感、あるいは膝に何かが挟まっているような違和感を感じることがあります。重症の場合、膝が動かなくなってしまう「ロッキング」という症状が現れることもあります。

半月板損傷は、スポーツをする若い世代だけでなく、加齢とともに軟骨が弱くなっている中高年にも起こり得ます。40歳未満では急性外傷、40歳以上では変性疾患として発生する傾向があり、成人の約12%に影響を与えています。

靭帯損傷:膝の捻挫や打撲で起こる靭帯の損傷

靭帯は、骨と骨をつなぎ、関節を安定させる役割を持つ丈夫な組織です。スポーツや事故などで膝を捻ったり、強い衝撃を受けたりすると、靭帯が損傷(断裂や伸び)することがあります。

靭帯が損傷すると、膝に鋭い痛みを感じ、腫れや内出血が現れることもあります。膝の関節が不安定になり、グラグラする、または脱臼する感じが生じることもあります。以下の主要な靭帯が損傷すると、歩行やスポーツ活動に大きな支障をきたす可能性があります。

  • 前十字靭帯(ACL)
  • 後十字靭帯(PCL)
  • 内側側副靭帯(MCL)
  • 外側側副靭帯(LCL)

靭帯損傷は、スポーツ選手に多く見られますが、日常生活での転倒や交通事故などでも発生する可能性があります。損傷の程度はさまざまで、軽度の場合は安静やアイシングで改善しますが、重度の場合は手術が必要になることもあります。

腸脛靭帯炎:ランニングなどによる膝の外側の痛み

腸脛靭帯は大腿骨の外側から膝の外側にかけて伸びる靭帯で、膝の安定性を保つ役割をしています。ランニングなどで膝を繰り返し曲げ伸ばしすると、腸脛靭帯と大腿骨外側顆がこすれ、炎症を起こすことがあります。腸脛靭帯炎やランナー膝とも呼ばれます。

腸脛靭帯炎では、膝の外側に痛みを感じることが多く、ランニング中やランニング後に痛みが強くなります。階段の上り下りや坂道、長時間の歩行でも痛みが増悪することがあります。

腸脛靭帯炎は、ランニングだけでなく、自転車や水泳、バスケットボールなど、膝を繰り返し曲げ伸ばしするスポーツで発生する可能性があります。O脚や扁平足、足底アーチの低下なども、腸脛靭帯炎のリスクを高める要因と考えられています。

膝の痛みは何科?適切な診療科3選

膝の痛みは、私たちの日常生活の質を大きく低下させてしまいます。膝の痛みに適切な診療科を3つご紹介し、それぞれの診療科の特徴や治療内容をわかりやすく解説します。主な診療科は以下のとおりです。

  • 整形外科
  • リウマチ科
  • ペインクリニック
  • 整骨院/接骨院

整形外科:保存療法から手術まで幅広く対応

整形外科は、骨や関節、筋肉、靭帯、腱、神経など、運動器の疾患全般を専門的に診る診療科です。膝の痛みで受診する場合、最初に思い浮かぶのは整形外科という方は多いです。

整形外科では、レントゲンやMRI、CTなどの画像検査や血液検査を通じて痛みの原因を詳しく調べます。問診では、以下のような項目を詳しく確認します。

  • 痛みの程度(安静時痛、動作時痛、夜間痛など)
  • 痛みの持続時間
  • どのような動作で痛みが悪化するか
  • 過去のけがの有無
  • 日常生活への影響

情報を総合的に判断し、患者さん一人ひとりに最適な治療方針を決定します。

治療法は大きく分けて保存療法手術療法の2種類があります。保存療法には、消炎鎮痛剤などの薬物療法、関節内にヒアルロン酸を注射するヒアルロン酸注射、関節内にステロイドを注射するステロイド注射、装具療法(サポーターやインソール)、リハビリテーション(理学療法、運動療法)などがあります。

手術療法には、人工関節置換術関節鏡視下手術などがあります。人工関節置換術は、損傷の激しい関節を人工関節に置き換える手術です。関節鏡視下手術は、小さな切開部から関節鏡(カメラ)と手術器具を挿入し、関節内の状態を観察しながら行う手術です。半月板損傷や靭帯損傷などの治療に用いられます。

手術が必要かどうかは、以下の項目を考慮しながら医師と相談のうえで決定します。

  • 痛みの原因
  • 症状の程度
  • 年齢
  • 生活スタイル
  • 仕事内容
  • 全身状態

リウマチ科:関節リウマチが疑われる場合

関節リウマチは、免疫系の異常により関節に炎症が起こり、痛みや腫れが生じる病気です。膝だけでなく、手足の関節にも症状が現れることが多く、朝起きたときに手のこわばりを感じることが特徴です。

関節リウマチが疑われる場合は、リウマチ科を受診します。リウマチ科では、血液検査(リウマチ因子、抗CCP抗体など)や画像検査(レントゲン、MRI、超音波検査など)を行い、関節リウマチかどうかを診断します。

関節リウマチと診断された場合は、病気の進行を抑える薬物療法(抗リウマチ薬、生物学的製剤など)やリハビリテーションを行います。関節リウマチは早期発見・早期治療が重要です。

関節リウマチを放置すると関節の破壊が進行し、日常生活に大きな支障をきたす可能性があります。当てはまる症状があれば、早めにリウマチ科を受診しましょう。

ペインクリニック:慢性的な痛みの緩和

ペインクリニックは、痛みを専門的に治療する診療科です。整形外科やリウマチ科で治療を受けていても痛みがなかなか改善しない場合、ペインクリニックの受診を検討しましょう。

ペインクリニックでは、神経ブロック注射や薬物療法、理学療法など、さまざまな方法で痛みを緩和する治療を行います。痛みが強いと日常生活にも支障が出て、精神的な負担も大きくなってしまいます。ペインクリニックでは、痛みを和らげるだけでなく、患者さんの精神的なケアにも力を入れています。

整骨院/接骨院:応急処置やリハビリテーション

整骨院や接骨院では、骨折や脱臼、捻挫、打撲などのケガの応急処置やリハビリテーションを行っています。健康保険が適用される場合もあります。急な膝の痛みやケガの場合、近くの整骨院や接骨院を受診するのも一つの選択肢です。

ただし、整骨院/接骨院ではレントゲン検査などができないため、痛みが長引く場合や原因がはっきりしない場合は、整形外科などの医療機関を受診するようにしましょう。

膝の痛みの治療法

膝の痛みに対する治療法を、保存療法と手術療法の2つの側面からわかりやすく解説します。どの治療法が自分に合っているのか、一緒に考えていきましょう。

保存療法:運動療法・薬物療法・装具療法

保存療法とは、手術を行わずに、痛みを軽減し膝の機能を改善するための治療法です。主な方法は以下で、単独で行う場合や組み合わせて行う場合があります。

  • 運動療法
  • 薬物療法
  • 装具療法

医師とよく相談し、ご自身の状態に最適な方法を選択することが重要です。

  • 運動療法
    スクワットやレッグプレスなどの筋力トレーニングは、膝関節周辺の筋肉を鍛える方法として役立つ可能性があります。ストレッチは、筋肉の柔軟性を高め、関節の可動域を広げる効果があります。適切な運動療法を行うことで、膝への負担を軽減し、痛みを和らげることができます。
  • 薬物療法
    痛みや炎症を抑えるためには、薬物療法が用いられます。一般的に使用される薬剤としては、痛みや炎症を抑える非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や、より強い鎮痛効果を持つオピオイド鎮痛薬などがあります。
    関節内の炎症を抑えるヒアルロン酸注射やステロイド注射なども行われます。痛みの程度や原因、患者さんの状態に合わせて医師が適切に選択し、処方します。
  • 装具療法
    装具療法は、サポーターやインソールなどを用いて膝関節をサポートする治療法です。装具は、膝関節の安定性を高め、負担を軽減する効果があります。変形性膝関節症の初期段階では、装具療法が効果的な場合が多く、日常生活での痛みを和らげ、活動性を維持するのに役立ちます。

手術療法:人工関節置換術・関節鏡視下手術

保存療法で効果が得られない場合や、重度の関節損傷がある場合、手術療法が検討されます。手術療法には、人工関節置換術や関節鏡視下手術など、さまざまな方法があります。

人工関節置換術は、損傷した関節を人工関節に置き換える手術です。変形性膝関節症の末期などで、日常生活に支障が出るほどの痛みがある場合に有効な治療法です。人工関節は、耐久性に優れた素材で作られており、膝の機能維持が期待されます。

関節鏡視下手術は、関節内に小さなカメラを挿入し、関節内の状態を直接確認しながら行う手術です。半月板損傷や靭帯損傷などの治療に用いられ、傷口が小さく、術後の回復が比較的早いというメリットがあります。

膝の痛みは、適切な治療を受けることで改善できる可能性があります。医療機関を受診し、医師に相談しましょう。

膝の痛みのセルフケア

セルフケアを正しく行うことで、膝の痛みを和らげ、快適な生活を取り戻せる可能性があります。早期の適切なケアが、将来の健康な膝を守ることにつながります。以下の項目について詳しく解説します。

  • ストレッチ
  • 筋力トレーニング
  • 温熱・冷却療法

紹介するセルフケアは、医療機関での治療と並行して行うことができるものですが、症状や状態によっては適さない場合もあるため、事前に医師に相談することをおすすめします。

ストレッチ

ストレッチは、膝の痛みを和らげる効果が期待でき、再発予防にも役立つ可能性があります。膝関節の柔軟性を高め、周囲の筋肉を強化することで、膝への負担を軽減し、スムーズな動きをサポートします。

ストレッチは、お風呂上がりなど体が温まっているときに行うのがおすすめです。温まっていることで筋肉がリラックスし、効果的にストレッチを行うことができます。反対に、体が冷えているときに行うと、筋肉が硬くなってしまい、けがのリスクが高まる可能性があります。

無理に伸ばすと逆効果になってしまうので、痛みを感じない範囲で、ゆっくりと呼吸をしながら行いましょう。それぞれのストレッチは15~30秒程度行い、深い呼吸を繰り返すことがポイントです。

  • 太ももの前のストレッチ (大腿四頭筋のストレッチ)
    立った状態で片方の足を後ろに曲げ、かかとをお尻に近づけるようにします。太ももの前側に伸びを感じることが大切です。左右の足を交互に行います。大腿四頭筋は、膝を安定させるために重要な筋肉であり、ストレッチによって柔軟性が向上し、膝の動きがスムーズになります。
  • 太ももの裏のストレッチ (ハムストリングスのストレッチ)
    椅子に座り、片方の足を伸ばします。伸ばした足のつま先をゆっくりと持ち上げ、ふくらはぎの裏側に伸びを感じます。左右の足を交互に行います。ハムストリングスも膝関節の安定に寄与する筋肉であり、柔軟性を高めることで、膝への負担を軽減することができます。
  • ふくらはぎのストレッチ
    壁に手をついて立ち、片方の足を後ろに引いて踵を地面につけたまま、ゆっくりと体重を前にかけます。アキレス腱からふくらはぎにかけて伸びを感じます。ふくらはぎの筋肉が硬いと、膝関節の動きにも悪影響を与えるため重要です。

筋力トレーニング

筋力トレーニングは、自重で行う方法と、器具を使う方法があります。自分の体力に合わせて、痛みを感じる場合はすぐに中止し、無理のない範囲で行いましょう。10回を1セットとして、1日に2~3セット行うのが目安です。痛みのある場合は事前に医師に相談することをおすすめします。

  • スクワット
    足を肩幅に開いて立ち、ゆっくりと膝を曲げます。椅子に座るように腰を落とすイメージで行うと良いです。膝がつま先よりも前に出ないように注意し、腰を反りすぎないように意識することが大切です。大腿四頭筋やハムストリングス、臀筋など、膝関節の安定に重要な筋肉を総合的に鍛えることができます。
  • レッグレイズ
    仰向けに寝て、片方の足をまっすぐ伸ばします。伸ばした足をゆっくりと持ち上げ、数秒間キープします。左右の足を交互に、それぞれ10~15回繰り返します。太ももの前の筋肉を鍛えることで、膝関節の安定性を高める効果が期待できます。

ストレッチや筋力トレーニングは、膝の機能維持に役立つ可能性があります。ただし、個々の状態によって適切な運動方法は異なるため、医師や専門家の指導を受けることが推奨されます。

温熱・冷却療法

温熱療法と冷却療法は、膝の痛みの原因や状態によって使い分けることが重要です。温めることで血行が促進され、筋肉の緊張がほぐれる効果があります。一方、冷やすことで炎症を抑え、痛みを和らげる効果があります。ご自身の症状に合わせて適切な方法を選択しましょう。

慢性的な痛みや、冷えによる痛みには温熱療法が効果的です。温熱療法には、蒸しタオルやカイロ、温浴など、さまざまな方法があります。40~42度くらいの温度で、15~20分程度温めるのがおすすめです。温めすぎると低温やけどの恐れがあるので、注意しましょう。

  • 蒸しタオル
    タオルを水で濡らし、軽く絞ってから電子レンジで温めます。温めたタオルを膝に当てて、冷めてきたら交換します。電子レンジの出力によって加熱時間が変わるため、様子を見ながら温めるようにしてください。
  • カイロ
    貼るタイプのカイロや、使い捨てカイロを膝に貼ります。低温やけどを防ぐため、必ず肌着の上から貼るようにしましょう。就寝時に使用することは避け、低温やけどに注意してください。
  • 温浴
    湯船に浸かることで、膝全体を温めることができます。全身の血行が促進されるため、リラックス効果も期待できます。

急性期の痛みや、炎症を伴う痛みには冷却療法が効果的です。冷却療法には、保冷剤や氷水などを使用します。保冷剤は必ずタオルで包んで使用し、凍傷を防ぎましょう。15~20分程度冷やすのがおすすめです。冷やしすぎると、血行が悪くなってしまうので、注意が必要です。

温熱療法と冷却療法は、痛みの種類や状態によって使い分けることで、膝の痛みを和らげる効果が期待できます。急性の痛みには冷却、慢性的な痛みには温熱と覚えておくと良いです。

セルフケアはあくまで補助的なものです。痛みが強い場合や長引く場合は、自己判断せずに医療機関を受診し、専門医の診断を受けるようにしましょう。

まとめ

膝の痛みは部位によって鵞足炎や変形性膝関節症、靭帯損傷などさまざまな原因が考えられます。症状に応じて以下のような治療法があり、医師の診断に基づいた適切な治療が重要です。

  • 保存療法
  • 手術療法
  • 運動療法
  • 装具療法

自宅でのケアとして、適度な運動やストレッチ、温熱・冷却療法なども症状緩和に役立つ可能性があります。痛みが続く場合は整形外科を受診し、専門的な診断を受けることをおすすめします。

参考文献

Vicky Duong, Win Min Oo, Changhai Ding, Adam G Culvenor, David J Hunter. Evaluation and Treatment of Knee Pain: A Review. JAMA, 2023, 330(16), p.1568-1580.

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