- 2025年3月2日
膝の痛みから考える病名!症状別の特徴と治療法を解説
膝の痛みは放置すると悪循環に陥り、日常生活の質を大きく低下させてしまう深刻な問題です。原因も痛む場所によってさまざまで、放っておくと手術が必要になるケースもあります。この記事では、膝の内側や外側、お皿など、痛む部位別の原因を解説します。
鵞足炎(がそくえん)や変形性膝関節症、腸脛靭帯炎などの症状や、最新の治療法まで、医師の知見を交えて徹底解説します。変形性膝関節症の症状は、日本人の約2,500万人に見られるという報告もあり、決して他人事ではありません。この記事を通じて膝の痛みについて理解を深め、適切な対処法を知りましょう。
膝の痛みを感じる部位から想定される病名
膝の内側・外側・お皿の痛みによって、想定される症状は以下のように変わります。
- 膝の内側の痛み:鵞足炎・変形性膝関節症など
- 膝の外側の痛み:腸脛靭帯炎・外側半月板損傷など
- 膝のお皿の痛み:膝蓋軟骨軟化症・膝蓋骨脱臼など
痛む場所によって原因が異なる場合もありますので、まずは医療機関で診察を受け、専門医の診断を仰ぐことが重要です。
膝の内側の痛み:鵞足炎・変形性膝関節症など
膝の内側が痛む場合は、鵞足炎や変形性膝関節症、内側側副靭帯損傷、内側半月板損傷などが考えられます。鵞足炎は、膝の内側に付着する3つの筋肉(縫工筋、薄筋、半腱様筋)の部分である鵞足に炎症が生じる症状です。スポーツ活動やO脚、歩き方の癖が原因で発症しやすく、ランニングやジャンプで悪化することがあります。
変形性膝関節症は、膝関節の軟骨がすり減り、骨が変形することで痛みや炎症を引き起こします。階段の昇降時に痛みを感じることが多く、進行すると熱感や腫れ、水が溜まるなどの症状が現れます。
内側側副靭帯損傷は、膝の内側の靭帯が損傷することで起こり、スポーツ中の接触や転倒が原因となることが多いです。内側半月板損傷は、膝関節内のクッションの役割を果たす半月板の損傷で、急な方向転換やジャンプの着地時に発生しやすいです。損傷すると、膝の動きに引っかかりを感じたり、ロッキング症状が現れたりすることがあります。
膝の外側の痛み:腸脛靭帯炎・外側半月板損傷など
膝の外側が痛む場合は、腸脛靭帯炎や外側半月板損傷などが考えられます。腸脛靭帯炎は、太ももから膝の外側にかけての組織(腸脛靭帯)が膝の骨と擦れて炎症を起こす症状です。ランナー、特に長距離ランナーに多く見られ、走行中や走行後に痛みが強くなります。
外側半月板損傷は膝関節内の外側半月板が傷つくことで発生します。スポーツや転倒、急な動きが原因となることが多く、症状の程度によっては手術が必要になる場合もあります。両方の症状とも、膝の外側に痛みを感じますが、原因や治療法が異なるため、正確な診断が重要です。
膝のお皿の痛み:膝蓋軟骨軟化症・膝蓋骨脱臼など
膝のお皿(膝蓋骨)が痛む場合、膝蓋軟骨軟化症や膝蓋骨脱臼、離断性骨軟骨炎などが考えられます。膝蓋軟骨軟化症は、膝蓋骨裏側の軟骨が軟化して痛みを引き起こす疾患です。若い女性やジャンプ、ランニングなど膝に負担のかかるスポーツをする人に多く見られます。階段の上り下りや正座時に痛みが強くなります。
膝蓋骨脱臼は、膝のお皿が正常な位置からずれる状態です。スポーツ外傷や先天的な膝関節の不安定性が原因で発生し、激しい痛みと腫れを伴います。再発しやすいため、適切な治療とリハビリテーションが重要です。
離断性骨軟骨炎(OCD)は、膝蓋骨の軟骨下の骨が剥がれたり欠けたりする疾患です。原因は明確ではありませんが、繰り返しの負荷や血行障害が関係していると考えられています。思春期のスポーツ選手に多く、進行すると痛み、腫れ、ロッキングなどの症状が現れます。
膝の痛みに対する主な治療法4選
膝の痛みに対する主な治療法は、以下の4つです。
- 保存療法
- 手術療法
- 運動療法
- 装具療法
保存療法
保存療法は、手術をせずに膝の痛みを治療する方法です。薬物療法やリハビリテーション、注射療法、装具療法など、さまざまな方法があります。組み合わせて行うことで、より効果を高めることができます。薬物療法では、痛みや炎症を抑えるために、鎮痛剤や消炎鎮痛剤、軟骨の保護や再生を促進するヒアルロン酸などを内服または外用します。
どの薬が適切かは、痛みの原因や程度、患者さんの体質、既往歴や併用薬などを総合的に考慮して決定します。リハビリテーションでは、ストレッチや筋力トレーニング、関節可動域訓練などを通して、膝関節の機能回復を目指します。太ももの前の筋肉である大腿四頭筋の筋力トレーニングは、膝関節の安定性を高めるうえで重要です。
変形性膝関節症の患者さんの多くは、大腿四頭筋が弱化しているため、集中的にトレーニングを行うことで痛みの軽減や膝の機能改善につながることが期待できます。注射療法では、ヒアルロン酸やステロイド剤を関節内に直接注射します。ヒアルロン酸は関節液の粘性を高め、関節の動きをスムーズにする効果があります。
ステロイド剤は強力な抗炎症作用があり、炎症による痛みや腫れを迅速に抑えることができます。ステロイド剤は長期的に使用すると副作用のリスクがあるため、使用頻度や投与量には注意が必要です。
手術療法
保存療法で効果が得られない場合や、重度の関節損傷がある場合は、手術療法が選択されます。関節鏡手術や人工関節置換術、骨切り術など、さまざまな手術法があります。関節鏡手術は、小さな切開部からカメラや特殊な器具を関節内に挿入し、損傷した組織の修復や切除を行う手術です。
低侵襲手術であるため、患者さんの体への負担が少なく、術後の回復も比較的早いというメリットがあります。人工関節置換術は、損傷した関節面を人工関節に置き換える手術です。変形性膝関節症の末期などで、日常生活に支障をきたすほどの痛みがある場合に有効な治療法です。
骨切り術は、骨を切って変形を矯正する手術です。変形性膝関節症の初期や中期で、比較的若い患者さんで片側のみ症状がある場合に適応されることがあります。
運動療法
運動療法は、膝関節の柔軟性を高め、筋力を強化することで痛みの管理や膝の機能向上を目指す治療法です。ストレッチや筋力トレーニング、ウォーキング、水中ウォーキングなど、さまざまな運動が取り入れられます。
装具療法
装具療法は、サポーターやインソールなどを用いて膝関節を外部から支え、負担を軽減することで痛みを和らげる治療法です。サポーターは、膝関節を固定し、安定させることで痛みを軽減する効果があります。さまざまな種類があり、痛みの部位や程度、活動レベルに合わせて適切なサポーターを選択します。
インソールは、足底のアーチをサポートし、膝関節への負担を軽減する効果があります。扁平足やハイアーチなど、足部の形状に合わせたインソールを使用することで、膝への負担を軽減できる可能性があります。
自己判断で治療を行うのではなく、整形外科を受診し、専門医による適切な診断と治療を受けることが重要です。
自宅でできる予防とセルフケア
医療機関での治療に加えて、自宅での継続的な予防とセルフケアが重要です。自宅でできる予防とセルフケアについて、以下の3つを解説します。
- 運動とストレッチ
- 適切な体重管理
- 温熱療法や冷却療法
運動とストレッチ
適度な運動は、膝関節周囲の筋肉、特に太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)を強化し、関節を安定させるのに役立ちます。変形性膝関節症の患者さんの多くは、大腿四頭筋が弱っているため、鍛えることで痛みの軽減や膝の機能改善が期待できます。おすすめの運動は以下のとおりです。
- ウォーキング
無理のないペースで、平坦な道を歩きましょう。50歳以上の方で変形性膝関節症の症状が見られる場合、初期は特に階段の下りで痛みを感じることが多いため、無理のない範囲で歩きやすい道を選びましょう。 - 水中ウォーキング
水の浮力により膝への負担が軽減されるため、膝に痛みがある方でも比較的楽に行えます。水中での抵抗も利用できるので、筋力強化にも効果的です。 - サイクリング
自転車を漕ぐ運動も、膝への負担が少なく、効果的な有酸素運動です。ペダルをスムーズに回すことで、膝関節の動きを滑らかにし、柔軟性を高めることができます。
ストレッチは、筋肉の柔軟性を高め、関節の動きをスムーズにする効果があります。毎日続けることで、膝の痛みの予防や軽減につながります。
- 太ももの前側のストレッチ
椅子に座り、片方の足を後ろに曲げ、かかとをお尻に近づけるように持ち上げます。このとき、太ももの前側に伸びを感じることが大切です。 - 太ももの裏側のストレッチ
床に座り、片方の足を伸ばし、もう片方の足を曲げます。伸ばした足のつま先を手で持ち、上半身を前に倒します。ハムストリングスと呼ばれる太ももの裏側の筋肉が伸びているのを感じながら行いましょう。 - ふくらはぎのストレッチ
壁に手をついて立ち、片方の足を後ろに引き、かかとを床につけたまま、アキレス腱を伸ばします。ふくらはぎの筋肉の柔軟性を高めることで、歩行時の膝への負担を軽減することができます。
自宅で行ううえでの注意点は、以下のとおりです。
- 痛みのない範囲で行いましょう。痛みを感じたらすぐに中止してください。
- 呼吸を止めずに、ゆっくりと行いましょう。深呼吸をしながら行うと、リラックス効果も高まります。
- 反動をつけずに、静止した状態をキープしましょう。15~30秒程度保持するのが効果的です。
適切な体重管理
体重が増加すると、膝関節への負担が大きくなり、痛みが悪化しやすくなります。肥満は変形性膝関節症の大きな要因の一つです。適正体重を維持することは、膝の痛みを予防し、健康な状態を保つために重要です。体重管理をするための具体的な方法として、以下が挙げられます。
- バランスの良い食事
野菜や果物、たんぱく質、炭水化物をバランスよく摂取しましょう。骨や軟骨の健康維持に欠かせないカルシウムやビタミンDを積極的に摂取するように心がけましょう。 - 間食を控える
お菓子やジュースなどの間食は、カロリーオーバーの原因となります。どうしても間食がしたい場合は、ナッツやヨーグルトなど、栄養価の高いものを選びましょう。 - 規則正しい生活
睡眠不足や不規則な生活は、代謝を低下させ、体重増加につながりやすいため、生活リズムを整えましょう。質の高い睡眠は、体の修復にも重要です。
温熱療法や冷却療法
温熱療法は、血行を促進し、筋肉の緊張を和らげる効果があります。冷却療法は、炎症を抑え、痛みを軽減する効果があります。症状に合わせて使い分けましょう。急性期の炎症には冷却、慢性期の痛みには温熱が有効です。
温熱療法では、湯たんぽやホットタオルを使って、患部に当てて温めます。心地よいと感じる温度で行いましょう。温かいお風呂にゆっくりと浸かるのも効果的です。全身の血行が促進され、リラックス効果も期待できます。冷却療法では、保冷剤や氷嚢を使います。タオルに包んで患部に当てますが、凍傷を防ぐため、直接皮膚に当てないように注意しましょう。
市販の冷湿布を使用する際は、使用上の注意をよく読んでから使用しましょう。各療法を行ううえでの注意点は、以下のとおりです。
- 温熱療法と冷却療法は、同じ日に併用しないようにしましょう。
- 温熱療法は、炎症が強い場合は避けましょう。悪化させる可能性があります。
- 冷却療法は、冷やしすぎに注意しましょう。15~20分を目安に行いましょう。
セルフケアは、膝の痛みを和らげるための補助的な方法です。痛みが強い場合や長引く場合は、自己判断せずに、整形外科を受診し、適切な治療を受けるようにしましょう。
まとめ
膝の痛みは、場所や症状によってさまざまな原因が考えられます。鵞足炎や変形性膝関節症、靭帯損傷、半月板損傷など、痛みの部位からある程度原因を絞り込むことができます。 治療法は、以下のとおりです。
- 保存療法(薬物療法、リハビリテーション、注射など)
- 手術療法(関節鏡手術、人工関節置換術など)
- 運動療法
- 装具療法
自宅でのセルフケアとしては、適度な運動(ウォーキング、水中ウォーキング、サイクリングなど)やストレッチ、適切な体重管理、温熱療法・冷却療法などが有効です。 膝の痛みは日常生活に大きな影響を与えます。痛みを我慢せず、まずは整形外科を受診して適切な診断と治療を受けましょう。
医師の指導のもと、自宅でもセルフケアを継続することで、痛みを軽減し、快適な生活を取り戻しましょう。
参考文献
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- Yoshimura N, Muraki S, Oka H, Mabuchi A, En-Yo Y, Yoshida M, Saika A, Yoshida H, Suzuki T, Yamamoto S, Ishibashi H, Kawaguchi H, Nakamura K, Akune T. Prevalence of knee osteoarthritis, lumbar spondylosis, and osteoporosis in Japanese men and women: the research on osteoarthritis/osteoporosis against disability study. J Bone Miner Metab, 2009;27(5):620-628.