- 2025年3月22日
坐骨神経痛と間違える病気の特徴と正確な鑑別診断のポイント
腰から足にかけての痛みやしびれは坐骨神経痛の代表的な症状ですが、別の病気が原因の可能性があります。坐骨神経痛と酷似した症状を引き起こす「梨状筋症候群」や、妊娠・出産後に多い「仙腸関節障害」など、見分けが難しい病気もあります。坐骨神経痛だと思って放置していると、病気が進行してしまうケースもあるため注意が必要です。
この記事では、坐骨神経痛と間違えやすい病気の特徴と鑑別診断のポイント、画像検査や血液検査を含む正確な診断方法を解説します。痛みの原因には、思いがけない要因が隠れていることがあります。正しい診断と適切な治療への第一歩を、この記事で見つけましょう。
坐骨神経痛と間違えやすい病気5選
坐骨神経痛と間違えやすい5つの病気は以下のとおりです。
- 梨状筋症候群
- 仙腸関節障害
- 椎間関節障害
- 閉塞性動脈硬化症
- 臀皮神経障害
梨状筋症候群
梨状筋症候群は、お尻の奥深くにある「梨状筋」という筋肉が、すぐ近くを通る坐骨神経を圧迫することで、坐骨神経痛に似た痛みやしびれを引き起こす病気です。長時間座っていると症状が悪化し、立って歩くと楽になることが多いのが特徴です。股関節を内側に回したり、ストレッチをしたりすると痛みが強くなることもあります。
梨状筋症候群は、他の疾患との鑑別が難しく、特に腰痛や臀部痛の多くの鑑別診断が存在し、症状が重複することも少なくありません。正確な診断には、解剖学的知見や病歴、身体診察、電気診断学的検査、画像検査など、多角的な検査を用います。
梨状筋症候群は比較的まれな病気ですが、坐骨神経痛との鑑別において重要な疾患です。梨状筋症候群と間違えやすい後臀部筋筋膜痛症候群にも注意が必要です。
仙腸関節障害
仙腸関節障害は、骨盤の一部である仙骨と腸骨をつなぐ仙腸関節に異常が生じ、腰や臀部、脚に痛みやしびれが現れる病気です。坐骨神経痛の症状とよく似ているため、見分けるのが難しい場合もあります。仙腸関節障害の特徴としては、姿勢を変えたり、腰をひねったり、中腰の姿勢を取ると痛みが増すことがあります。
妊娠中や産後に症状が現れる場合も多いです。妊娠・出産によって骨盤周囲の組織が緩むことで、仙腸関節に負担がかかりやすくなるためと考えられています。産後に腰痛が出た場合、化膿性仙腸関節炎の可能性も考慮しなければなりません。
レントゲンやMRI検査で仙腸関節の状態を調べることで診断できますが、産後の腰痛の原因は多岐にわたるため、医師の診察と適切な検査が必要です。出産後数週間で腰痛や下肢の神経症状が現れた場合は、化膿性仙腸関節炎の可能性を念頭に置き、迅速な診断と治療が重要です。
椎間関節障害
背骨は、椎骨と呼ばれる骨が積み重なってできており、それぞれの椎骨の間には椎間関節という関節があります。椎間関節障害とは、椎間関節に炎症や変形が生じる病気です。腰痛だけでなく、脚にも痛みやしびれが走るため、坐骨神経痛と間違われることがあります。
椎間関節障害の特徴は、急に激しい痛みが走ることです。重いものを持ったり、急に身体をひねったりしたときに起こりやすいとされています。いわゆる「ぎっくり腰」も、椎間関節障害の一種です。神経ブロック注射で痛みが和らぐ場合は、椎間関節障害の可能性が高いと言えます。
閉塞性動脈硬化症
閉塞性動脈硬化症は、動脈硬化が原因で足の血管が狭くなり、血流が悪くなる病気です。血流が悪くなると、神経に十分な酸素や栄養が供給されなくなり、痛みやしびれが生じ、坐骨神経痛と似た症状が現れます。
閉塞性動脈硬化症の特徴は、歩いているとふくらはぎが痛くなり、休むと痛みが和らぐ「間欠性跛行(はこう)」と呼ばれる症状です。足が冷たく感じたり、青白く変色したりすることもあります。
血管エコーやABI検査(足関節上腕血圧比)で、足の血管の状態を調べることで診断できます。動脈硬化は生活習慣病と密接に関連しているため、早期発見と適切な治療が重要です。
臀皮神経障害
臀部の皮膚には、上殿皮神経や下殿皮神経などの感覚神経が分布しています。臀皮神経が筋肉や靭帯によって圧迫されると、腰からお尻にかけて痛みやしびれが生じ、坐骨神経痛と間違われることがあります。
臀皮神経障害の特徴は、お尻の表面がピリピリと痛むことです。ズボンのベルトが当たる部分や、お尻の割れ目の周辺を押すと、痛みが増すことがあります。神経ブロック注射や安静にすることで症状が改善することが多いです。
腰から足にかけての痛みやしびれの原因は多様であり、自己判断は危険です。症状が気になる場合は、医療機関を受診し、専門医による適切な診断と治療を受けましょう。
坐骨神経痛の診断に必要な診察と検査
坐骨神経痛の診断に必要な診察と検査について解説します。
問診と身体診察:SLRテストなど
医師は、患者さんの症状について詳しく問診を行います。痛みやしびれが始まった時期や症状が強くなるタイミング、痛みの種類などを聴く場合が多いです。具体的な痛みの状況を説明することで、より正確な診断が可能になります。
問診の次に、身体診察を行います。代表的な検査はSLRテスト(ストレートレッグレイズテスト)です。SLRテストは、仰向けに寝た状態で、足をまっすぐ伸ばして持ち上げる検査です。坐骨神経痛がある場合、足を持ち上げたときに痛みやしびれが強くなります。
SLRテストは、腰痛患者の神経学的検査において坐骨神経の圧迫を評価する重要な検査法です。腰椎椎間板ヘルニアなどが原因で陽性となりますが、SLRテスト単独での診断精度は高くありません。他の身体所見や画像検査の結果と合わせて総合的に判断する必要があります。
画像検査:レントゲン・MRI・CT
問診や身体診察である程度原因が絞り込めたら、レントゲンやMRI、CTなどの画像検査を行います。レントゲンは、骨の状態を確認する検査です。腰の骨が変形していたり、骨折していたりする場合、レントゲン検査で発見できます。
MRI検査は、骨だけでなく、椎間板や神経、筋肉などの軟部組織の状態も詳しく調べられる検査です。椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症など、坐骨神経痛の原因となる病気を診断するうえで、MRI検査は重要な役割を果たします。CT検査は、レントゲン検査と同様に骨の状態を詳しく調べる検査です。骨折や腫瘍などの診断に特に役立ちます。
画像検査は、それぞれ得意とする分野が異なるのが特徴です。複数の画像検査を組み合わせて行うことで、痛みの原因をより正確に特定できます。
血液検査
血液検査は、炎症の有無や、痛みの原因となっている病気がないかを調べる検査です。リウマチなどの膠原病や感染症が疑われる場合、血液検査で炎症反応の値が上昇することがあります。糖尿病などの病気が隠れていないかを確認することもあります。
坐骨神経痛の診断は、患者さんの協力が不可欠です。医師に正確な情報を伝え、指示に従って検査を受けることで、早期診断・早期治療につながります。
坐骨神経痛の治療法
坐骨神経痛の治療法は以下のとおりです。
- 薬物療法:痛み止め、神経障害性疼痛治療薬
- 理学療法:ストレッチ、運動療法
- 神経ブロック注射
- 手術療法
薬物療法:痛み止め、神経障害性疼痛治療薬
薬物療法は、坐骨神経痛の痛みを和らげるための基本的な治療法です。薬物療法では、痛み止めや神経障害性疼痛治療薬などが用いられます。
痛み止め(非ステロイド性抗炎症薬:NSAIDs)は、炎症を抑え、痛みを和らげる薬です。炎症は、患部を熱くさせ、痛みを増幅させる原因です。NSAIDsは、炎症反応を抑えることで、痛みを鎮静化させます。ロキソプロフェンナトリウム(商品名:ロキソニン)やイブプロフェンなどが主に使われます。胃腸障害などの副作用もあるため、医師の指示に従って服用することが大切です。
神経障害性疼痛治療薬は、神経の損傷や炎症によって引き起こされる痛みを軽減する薬です。神経が損傷を受けると、異常な信号が脳に送られ、痛みとして認識されます。神経障害性疼痛治療薬は、異常な信号伝達を抑えることで、痛みを軽減します。眠気やめまいなどの副作用が生じる可能性があるので、運転などの作業には注意が必要です。
筋弛緩薬は、筋肉の緊張を和らげ、痛みを軽減する薬です。筋肉が緊張すると、血管が圧迫されて血流が悪くなり、神経への酸素供給が不足し、痛みやしびれが生じます。筋弛緩薬は、筋肉の緊張を和らげることで、血流を改善し、痛みを軽減します。エペリゾン塩酸塩、チザニジン塩酸塩などは代表的な筋弛緩薬です。
オピオイド鎮痛薬は、強い痛みがある場合に使用されることがあります。モルヒネやオキシコドン、トラマドールなどがあります。オピオイド鎮痛薬は、脳内の痛みを伝える経路に作用し、強力な鎮痛効果を発揮します。便秘や眠気などの副作用、依存性があるため、医師の指示に従って慎重に使用してください。
理学療法:ストレッチ、運動療法
理学療法は、身体の機能回復や痛みの軽減を目的とした治療法です。硬くなった筋肉を柔軟にし、弱くなった筋肉を鍛えることで、坐骨神経への負担を軽減し、再発を予防します。
ストレッチは、硬くなった筋肉を伸ばし、神経の圧迫を軽減することで、痛みやしびれを和らげる方法です。梨状筋ストレッチやハムストリングスストレッチ、大腿四頭筋ストレッチなど、さまざまなストレッチ方法があります。
運動療法は、腰や体幹の筋肉を鍛えることで、姿勢を改善し、坐骨神経への負担を軽減する方法です。ウォーキングや水中運動、バランスボールを使ったトレーニングなど、患者さんの状態に合わせた運動プログラムが組まれます。
理学療法は、痛みを軽減するだけでなく、再発予防にも効果的とされています。医師や理学療法士の指示に従い、継続的に行うことが重要です。
神経ブロック注射
神経ブロック注射は、痛みの原因となっている神経に直接薬剤を注射する治療法です。局所麻酔薬やステロイド薬などが用いられます。神経ブロック注射を行うことで、炎症を抑え、痛みを速やかに軽減することが期待できます。
神経ブロック注射は、梨状筋症候群の診断にも使用されます。神経ブロック注射によって梨状筋の緊張が和らぎ、痛みが軽減されれば、梨状筋症候群の可能性が高いと判断できます。
手術療法
手術療法は、保存療法(薬物療法、理学療法など)で改善しない場合や、排尿・排便障害などの重篤な症状がある場合に検討されます。代表的な手術療法は椎間板ヘルニアに対する椎間板摘出術、脊柱管狭窄症に対する脊柱管拡大術などです。
梨状筋症候群に対しては、梨状筋を切離する手術を行う場合もあります。手術療法は、最終的な手段として選択されます。
まとめ
腰から足にかけての痛みやしびれには以下の病気が隠れている可能性があるため注意が必要です。
- 梨状筋症候群
- 仙腸関節障害
- 椎間関節障害
- 閉塞性動脈硬化症
- 臀皮神経障害
自己判断は危険なので、まずは医療機関を受診しましょう。医師は問診や身体診察、画像検査、血液検査などを通して原因を特定し、適切な治療法を選択します。治療法は、薬物療法や理学療法、神経ブロック注射、手術療法などです。どの治療法が適切かは、症状や原因によって異なります。安心して治療を受けるためにも、医師とよく相談することが大切です。
参考文献
Daniel Probst, Alison Stout, Devyani Hunt. Piriformis Syndrome: A Narrative Review of the Anatomy, Diagnosis, and Treatment. PM R, 2019, 11(Suppl 1), S54-S63