• 2025年4月23日

慢性腰痛の特徴と改善法!長引く痛みの原因と対策ポイント

腰痛は、国民病と言われるほど多くの人が経験する、ありふれた症状です。研究によると、米国成人の腰痛の年間罹患率は10〜30%、生涯罹患率は65〜80%とされており、世界的に多くの人が腰痛に悩んでいます。

ぎっくり腰のように急に痛みが起こることもあれば、じわじわと痛みが続いて慢性化し、日常生活に大きな影響を与えてしまうこともあります。慢性腰痛は、仕事や趣味を楽しめなくなるなど、生活の質(QOL)を低下させてしまう深刻な問題です。

この記事では、慢性腰痛の特徴や急性腰痛との違い、なりやすい人の特徴を解説します。代表的な5つの原因疾患と改善法、自宅でできる効果的なケアまで、慢性腰痛に悩む方へ、具体的な対策をお届けします。

慢性腰痛を知る3つのポイント

慢性腰痛を知るポイントについて、以下の3つを解説します。

  • 慢性腰痛とは何か?
  • 急性腰痛との違い
  • 慢性腰痛になりやすい人の特徴

慢性腰痛とは何か?

慢性腰痛とは、3か月以上腰が痛む状態です。痛みの強さや感じ方は人それぞれで、鈍い痛みや鋭い痛み、ときにはしびれを伴うこともあります。慢性腰痛の痛みについては、以下の表現や訴えがあります。

  • 腰に重りが乗っているような感覚
  • 電気が走るような鋭い痛み
  • ズーンと重い痛み
  • ズキズキと脈打つような痛み
  • チクチク刺されるような痛み

腰痛全体の約80%は、原因がはっきりと特定できない「非特異的腰痛」と呼ばれるものです。レントゲンやMRIなどの画像検査を行っても、骨や神経に異常が見つからないケースが多く、痛みの原因の特定が難しい場合もあります。

痛みが骨や神経といった器質的な問題ではなく、筋肉の緊張や炎症、姿勢の問題、心理的なストレスなど、さまざまな要因が複雑に絡み合って発症するためです。慢性腰痛になると、以下の動作が困難になることがあります。

  • 朝、起き上がるのがつらい
  • 長時間座っているのが苦痛
  • 立っているのもつらい
  • 寝返りを打つのも痛い
  • 重いものを持ち上げることができない
  • 歩くことさえ困難

慢性腰痛は、日常生活にさまざまな影響を及ぼすため注意が必要です。仕事や家事、趣味などの活動に支障が出て、生活の質が低下するだけでなく、精神的な負担も大きくなってしまいます。

急性腰痛との違い

急性腰痛と慢性腰痛の大きな違いは、痛みが続く期間です。急性腰痛は、いわゆる「ぎっくり腰」で、くしゃみや咳をした瞬間など、何気ない動作がきっかけで突然激しい痛みが生じます。多くの場合、2日〜1週間程度で痛みが治まります。重いものを持ち上げたときや、急に体をひねったときなどに起こる筋肉や靭帯の損傷が原因です。

一方で、慢性腰痛は3か月以上痛みが続くのが特徴です。急性腰痛が慢性化することもありますが、慢性腰痛ははじめから慢性的に痛む場合もあります。急性腰痛のように、はっきりとしたきっかけがない場合も多く、原因を特定することが難しいケースが多いです。

急性腰痛を繰り返すうちに慢性化してしまうケースも少なくありません。ぎっくり腰になったからといって軽く考えずに、しっかりと治療することが大切です。

慢性腰痛になりやすい人の特徴

慢性腰痛になりやすい人の特徴は以下のとおりです。

  • 長時間同じ姿勢
  • 運動不足
  • 肥満
  • ストレス
  • 加齢

デスクワークや車の運転など、同じ姿勢を続けることで、腰を支える筋肉に負担がかかり、筋肉が緊張しやすくなります。デスクワークで猫背になっている方は要注意です。猫背の姿勢は、腰椎に大きな負担をかけ、慢性腰痛の原因となることがあります。

運動不足は、腹筋や背筋などの体幹を支える筋力の低下につながり、腰への負担を増加させます。肥満も同様に腰への負担を増大させるため、慢性腰痛のリスクを高めます。適正体重の維持が重要です。

ストレスを感じると、自律神経のバランスが崩れ、筋肉が緊張しやすくなります。ストレスによって睡眠の質が低下すると、体の回復力が落ちて、腰痛が悪化しやすくなります。日常生活の中で、姿勢に気をつけたり、適度な運動を心がけたり、ストレスをうまく管理することが、慢性腰痛の予防につながります。

加齢も慢性腰痛の原因の1つです。年齢を重ねるとともに、骨や椎間板、筋肉、靭帯などが老化し、腰痛を起こしやすくなります。変形性腰椎症などは加齢とともに進行し、慢性腰痛の原因となることが多いです。

慢性腰痛の原因

慢性腰痛の5つの原因は以下のとおりです。

  • 椎間板ヘルニア
  • 脊柱管狭窄症
  • 変形性腰椎症
  • 筋筋膜性腰痛症
  • 仙腸関節障害

椎間板ヘルニア

椎間板ヘルニアは、背骨の骨と骨の間にあるクッションの役割をする椎間板の一部が、本来あるべき場所から飛び出し、神経を圧迫して腰痛や足のしびれを引き起こす病気です。重いものを持ち上げたときや、くしゃみをしたとき、顔を洗おうと前かがみになったときなど、急な動作がきっかけで発症することもあります。

腰痛以外の主な症状は、お尻や太もも、ふくらはぎにかけての痛みやしびれ、足の感覚が鈍くなる、力が入りにくくなるなどです。足の指先にまでしびれが及ぶこともあります。神経の通り道が狭窄することで、神経の血流が悪くなり、神経を栄養する酸素やブドウ糖が末端まで届かなくなります。神経の機能が低下することが、しびれや麻痺の原因です。

脊柱管狭窄症

背骨の中を通る神経の通り道として、脊柱管があります。脊柱管狭窄症は、脊柱管が加齢による骨の変形や靭帯の肥厚で狭くなり、神経を圧迫することで、腰痛や足のしびれなどを引き起こす病気です。加齢による背骨の変形などが原因で起こることが多く、50代以降の中高年の方に多くみられます。

脊柱管狭窄症の特徴的な症状として、間欠性跛行というものがあります。しばらく歩くと足がしびれたり、痛くなったりして歩けなくなり、少し休むとまた歩けるようになるという症状です。

変形性腰椎症

変形性腰椎症は、加齢とともに背骨や椎間板が変形したり、すり減ったりすることで、腰痛や足のしびれなどを引き起こす病気です。加齢が主な原因となるため、高齢者に多くみられます。長年、腰に負担がかかり続けることで、徐々に症状が現れることが多いです。

腰椎や周囲の関節の軟骨がすり減ると、骨同士が直接こすれ合うようになり、炎症や痛みの原因になります。主な症状は、腰の痛みやお尻・足のしびれ、長い距離を歩いたときの間欠性跛行などが挙げられます。朝起きた直後や、長時間同じ姿勢でいた後に痛みが強くなることが多いのが特徴です。

筋筋膜性腰痛症

筋筋膜性腰痛症は、腰の筋肉や筋膜にトリガーポイントと呼ばれる痛みの発生源が生じ、腰痛を引き起こす病気です。同じ姿勢を長時間続けたり、無理な姿勢をしたりすることが原因で起こります。

デスクワークや長時間の運転などで、同じ姿勢を長時間続けることはトリガーポイント形成の原因です。同じ姿勢を続けると、筋肉の血行が悪くなり、老廃物が蓄積されるためです。特徴的な症状として、腰の特定の部位を押すと痛みを感じたり、痛みが他の場所に広がったりすることがあります。

仙腸関節障害

仙腸関節障害は、骨盤の一部である仙骨と腸骨をつなぐ仙腸関節に炎症や損傷が起こり、腰痛を引き起こす病気です。妊娠や出産、転倒などが原因で起こることがあります。特に妊娠中は、リラキシンというホルモンが分泌され、靭帯が緩むため、仙腸関節が不安定になりやすく、障害を起こしやすくなります。

特徴的な症状は、腰の下の方やお尻に痛みを感じることです。体を動かしたり、長時間立っていたりすると痛みが増すこともあります。

慢性腰痛の原因は多岐にわたり、上記以外にもさまざまな病気が考えられます。腰痛が長引く場合は、自己判断せずに医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが大切です。

慢性腰痛を改善するための対策

慢性腰痛を改善するための対策については、以下のとおりです。

  • 薬物療法
  • 理学療法
  • 手術療法

痛みの原因や状態は人それぞれですが、適切な治療法を選択することで、症状を和らげ、快適な生活を取り戻すことが可能です。

薬物療法

慢性腰痛の薬物療法は、痛みや炎症を抑え、日常生活を楽にする重要な選択肢の一つです。慢性腰痛の痛みには段階があり、程度に合わせて、以下の表のように薬が処方されます。

痛みの種類や程度薬の種類薬の期待できる作用
比較的軽い痛みアセトアミノフェンなどの鎮痛薬市販薬にも含まれている成分で、比較的副作用も少ないため、第一選択として使われることが多い
中等度の痛み非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)鎮痛作用と抗炎症作用があるため、炎症を伴う腰痛に用いる
筋肉の緊張が強い場合筋弛緩薬緊張した筋肉を緩めることで痛みを和らげる
神経の痛みやしびれが強い場合神経障害性疼痛治療薬(プレガバリンやデュロキセチンなど)神経の興奮を抑えることで痛みを軽減する
痛みが強い、あるいは他の治療で効果がない場合オピオイド鎮痛薬強力な鎮痛作用がある

効果や副作用には個人差があるため、医師と相談しながら治療を進めることが重要です。慢性的な痛みは精神的な負担も大きく、日常生活にも支障をきたします。精神的なケアも重要で「抗うつ薬」を使って心のケアをすることもあります。

理学療法

理学療法は、運動や物理療法を用いて、体の機能回復や痛みの軽減を目指す治療法です。慢性腰痛においても、理学療法は重要な役割を担っています。理学療法で用いられるさまざまな方法について、以下の表でまとめています。

方法期待できる効果
ストレッチ硬くなった筋肉を伸ばし、柔軟性を高めることで、腰への負担を軽減する
筋力トレーニング腹筋や背筋などの体幹を強化することで、腰を安定させ、痛みの予防に役立つ
マッサージ筋肉の緊張を和らげ血行を促進することで、腰痛の一時的な緩和やリラクゼーションをする
温熱療法患部を温めることで血行を促進し、痛みを和らげる
電気刺激療法微弱な電流を流すことで、痛みの抑制や筋肉の刺激などの作用がある

理学療法は、痛みを軽減するだけでなく、腰の柔軟性や筋力を向上させ、再発予防にも効果が期待できます。理学療法士は、患者さんの状態に合わせて適切な治療プログラムを作成し、指導を行います。患者さん自身も積極的に治療に参加し、日常生活での姿勢や動作にも気を配ることで、より効果的な改善が期待できます。

手術療法

手術療法は、保存療法で効果が得られない場合や、神経の麻痺やしびれが進行している場合などに検討されます。椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症など、原因となっている病態に応じて、さまざまな手術方法があります。

椎間板ヘルニアでは、飛び出した椎間板を切除する手術が行われます。脊柱管狭窄症では、狭くなった脊柱管を広げる手術が行われます。手術療法は最終手段であり、医師とよく相談したうえで決定しましょう。

家庭でできるケア

慢性腰痛の改善には、医療機関での治療だけでなく、家庭でのセルフケアも大切です。日常生活の中で、少しの工夫を積み重ねることで、症状の改善や再発予防につながります。家庭でできるケアは以下のとおりです。

ケアの方法ポイント
正しい姿勢を意識する立っているときも座っているときも、背筋を伸ばし、猫背にならないように気をつける。長時間同じ姿勢を続ける場合は、こまめに休憩を取り、軽いストレッチを行う。
適度な運動をするウォーキングや水泳など、腰に負担をかけすぎない有酸素運動は、血行を促進し、筋肉を強化する効果が期待できる。痛みがある場合は無理せず、医師や理学療法士に相談しながら行う。
ストレッチをする入浴後など、体が温まっているときに行うと、筋肉がリラックスしやすくなる。腰だけでなく、背中や太もも、ふくらはぎなど、全身の筋肉を伸ばすように心がける。
睡眠の質を高める自分に合ったマットレスや枕を選び、快適な睡眠環境を整える。
ストレスを溜め込まない趣味やリラックスできる活動を通して、心身のリフレッシュを図る。

家庭でのケアを継続的に行うことで、慢性腰痛の症状が軽減される可能性があり、より快適な日常生活につながることが期待されます。

まとめ

腰痛は、多くの人が経験する症状であり、3か月以上続く場合は慢性腰痛と診断されます。慢性腰痛の原因は、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症、変形性腰椎症、筋筋膜性腰痛症、仙腸関節障害などさまざまです。

慢性腰痛の治療法として、薬物療法や理学療法、手術療法などが挙げられます。痛みの程度や原因に合わせて適切な治療法を選択することが重要です。日常生活では、正しい姿勢を保つ、適度な運動をする、ストレッチをするなどの工夫を行いましょう。質の高い睡眠やストレス管理も、症状の改善や再発防止につながる可能性があります。

参考文献

Ivan Urits, Aaron Burshtein, Medha Sharma, Lauren Testa, Peter A. Gold, Vwaire Orhurhu, Omar Viswanath, Mark R. Jones, Moises A. Sidransky, Boris Spektor, Alan D. Kaye. Low Back Pain, a Comprehensive Review: Pathophysiology, Diagnosis, and Treatment. Current Pain and Headache Reports, 2019 Mar 11;23(3):23.

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