- 2025年1月21日
膝靭帯を損傷した際の症状
膝の痛み、まさか靭帯損傷? スポーツや日常生活での不意な動作で、膝の靭帯を痛める人は少なくありません。実は、膝の靭帯には4つの種類があり、それぞれが重要な役割を担っています。この記事では、前十字靭帯(ACL)損傷をはじめとする4種類の膝靭帯損傷について、症状や原因、そして治療法までを分かりやすく解説します。ドイツではACL損傷が10万人あたり46件と報告されているように、決して他人事ではありません。痛みや違和感を感じたら、この記事を読んで適切な対処法を知り、健康な膝を取り戻しましょう。
膝靭帯損傷の4つの種類とそれぞれの役割
膝は、私たちの日常生活において歩く、走る、跳ぶといった動作を支える重要な関節です。この膝関節の安定性を保つために重要な役割を果たしているのが靭帯です。靭帯は、骨と骨を繋ぐ強靭な線維組織であり、膝の動きを制御し、過度な動きやねじれを防いでいます。
しかし、スポーツや日常生活での不意の動作、交通事故などによって、これらの靭帯が損傷してしまうことがあります。これを「膝靭帯損傷」と言います。膝靭帯損傷は、損傷する靭帯の種類によって症状や治療法が異なってきます。
代表的な膝靭帯には、前十字靭帯(ACL)、後十字靭帯(PCL)、内側側副靭帯(MCL)、外側側副靭帯(LCL)の4種類があります。それぞれの靭帯の役割と、損傷しやすい原因について詳しく見ていきましょう。
前十字靭帯(ACL): スポーツで損傷しやすい靭帯
前十字靭帯(ACL)は、大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)を繋ぎ、脛骨が前にずれたり、膝が内側にねじれたりするのを防ぐ役割をしています。ACL損傷はスポーツ中に発生しやすい損傷の一つで、バスケットボールやサッカー、バレーボール、スキーなど、ジャンプや急な方向転換、ストップ動作が多いスポーツで多く見られます。
例えば、バスケットボールの着地時にバランスを崩して膝が内側に入り込んだり、サッカーで急に方向転換しようとした際に足が地面に固定されたまま膝がねじれたりすると、ACLが損傷する可能性があります。
ACL損傷は、ドイツでは10万人あたり46件と報告されており、決して珍しい怪我ではありません。
後十字靭帯(PCL): 交通事故などで損傷しやすい靭帯
後十字靭帯(PCL)も、大腿骨と脛骨を繋ぐ靭帯ですが、ACLとは反対に、脛骨が後ろにずれるのを防ぐ役割を果たしています。また、膝を深く曲げた時の安定性にも寄与しています。PCLはACLよりも太く強いため、損傷は比較的少ないですが、交通事故や転倒、ラグビーやアメフトといったコンタクトスポーツでの激しい接触など、大きな力が膝に加わった際に損傷する可能性があります。
例えば、交通事故でダッシュボードに膝を強く打ち付けた場合や、ラグビーのタックルで膝に強い衝撃を受けた場合などにPCL損傷が起こり得ます。
内側側副靭帯(MCL): 膝の外側からの衝撃で損傷しやすい靭帯
内側側副靭帯(MCL)は、膝の内側にある靭帯で、膝が外側に開くのを防ぐ役割をしています。MCLは他の靭帯と比べて幅が広く、強いため、比較的損傷しにくい靭帯です。しかし、ラグビーやサッカーなど、コンタクトスポーツで膝の外側から強い衝撃を受けると損傷する可能性があります。
外側側副靭帯(LCL): 膝の内側からの衝撃で損傷しやすい靭帯
外側側副靭帯(LCL)は、膝の外側にある靭帯で、膝が内側に曲がるのを防ぐ役割をしています。LCLはMCLと比べると細く、損傷しやすい靭帯です。スキーで転倒した際に膝を内側にひねったり、柔道で足を引っ掛けられたりすると損傷する可能性があります。
これらの靭帯はそれぞれ重要な役割を担っており、どれか一つでも損傷すると、膝の安定性が損なわれ、痛みや腫れ、動揺性などの症状が現れます。日常生活にも支障をきたす可能性があるため、適切な診断と治療が必要です。
膝靭帯損傷の症状と程度
膝の靭帯は、スポーツや日常生活での急な動作、転倒などで損傷することがあります。靭帯が損傷すると、痛みや腫れ、動かしにくさなど様々な症状が現れます。これらの症状は、損傷の程度によって大きく異なります。
健康な膝は、まるで精密な機械のように滑らかに動きます。私たちは普段、何気なく歩いたり、走ったり、階段を上り下りしたりしていますが、これらは全て、膝関節の複雑な構造と靭帯の働きによって支えられています。しかし、一度靭帯を損傷してしまうと、この精巧なメカニズムが崩れ、日常生活に支障をきたすことがあります。
だからこそ、早期に適切な診断と治療を受けることが大切です。少しでも違和感を感じたら、放置せずに整形外科を受診しましょう。
損傷直後:激しい痛みと腫れ
靭帯損傷の直後は、損傷した部分で炎症反応が起こり、激しい痛みと腫れが生じます。これは、体内で損傷を修復しようと様々な物質が放出されるためです。まるで、膝の中に熱いものが詰まっているような感覚になり、ズキズキとした痛みが続きます。
このような場合は、応急処置としてRICE処置を行うことが重要です。RICE処置とは、Rest(安静)、Ice(冷却)、Compression(圧迫)、Elevation(挙上)の4つのステップからなる応急処置です。
- R(Rest:安静): 損傷した膝をできるだけ動かさず、安静を保つことが重要です。松葉杖などを使用して、膝への負担を軽減しましょう。
- I(Ice:冷却): 氷や保冷剤をタオルに包み、損傷部位に15~20分程度当てます。冷却は、炎症を抑え、痛みを和らげる効果があります。これを数時間おきに繰り返してください。
- C(Compression:圧迫): 弾性包帯などで損傷部位を圧迫することで、腫れや内出血の進行を抑えることができます。ただし、締め付けすぎると血行が悪くなるため、適度な圧迫を心がけてください。
- E(Elevation:挙上): 損傷した膝を心臓よりも高い位置に挙上することで、重力によって血液やリンパ液の還流を促し、腫れを軽減する効果が期待できます。クッションや枕などを利用して、楽な姿勢で膝を高く保ちましょう。
軽度損傷:運動時の軽い痛み、違和感
軽度の靭帯損傷の場合、日常生活ではほとんど痛みを感じないこともありますが、運動時や特定の動作で軽い痛みや違和感を感じることがあります。これは、損傷した靭帯が、運動による負荷に耐えられなくなっているサインです。
中等度損傷:安静時にも痛み、腫れ、歩行困難
中等度の靭帯損傷になると、安静時にも痛みを感じ、腫れも顕著になります。また、歩行が困難になることもあります。これは、損傷の程度が進行し、炎症が強まっているためです。
例えば、階段の上り下りや、立ち上がり、しゃがみ込みといった動作で強い痛みを感じたり、歩行時に膝が不安定になる場合は、中等度の靭帯損傷が疑われます。
重度損傷:激痛、著しい腫れ、膝の不安定感、関節の動揺
重度の靭帯損傷の場合、激痛を伴い、著しい腫れが見られます。また、膝の不安定感や関節の動揺(ぐらつき)を感じることもあります。これは、靭帯が完全に断裂している場合に多く見られる症状です。
前十字靭帯損傷は、スポーツ活動中の受傷が多く、特に若い世代に多く見られます。ドイツでは10万人あたり46件と報告されており、決して稀なケガではありません。適切な治療を行わないと、半月板や軟骨の損傷リスクが高まる可能性があるため注意が必要です。
例えば、交通事故で膝に強い衝撃を受けた際に、膝がグラグラと不安定になる、あるいは、階段を踏み外した際に膝関節が大きくずれる感覚がある場合は、重度の靭帯損傷が考えられます。
膝靭帯損傷の診断と治療法
膝の靭帯を損傷すると、歩くのも困難なほどの痛みや、正座ができないなど、日常生活に大きな支障が出ます。スポーツができなくなるかもしれないという不安も大きいでしょう。しかし、きちんと診断を受けて適切な治療を行えば、痛みや腫れなどの症状は改善し、スポーツへの復帰も目指せます。早期に適切な治療を開始することが大切ですので、少しでも膝に違和感を感じたら、ためらわずに整形外科を受診しましょう。
診断方法:問診、触診、画像検査(レントゲン、MRI)
医師は、どのように膝靭帯の損傷を診断するのでしょうか? まずは患者さんとの対話、つまり「問診」から始まります。いつ、どのように痛み始めたのか、スポーツ中だったのか、日常生活での動作だったのか、転倒したのか、あるいは何かが膝にぶつかったのかなど、詳しく状況を伺います。まるで探偵が事件を解決するように、痛めた状況を把握することで、どの靭帯が損傷しているのかを推測する手がかりを得るのです。問診では、受傷した状況や痛みの程度などを詳しく伺います。
次に「触診」を行います。医師は実際に膝に触れて、腫れや熱感、圧痛の有無、損傷部位の特定などを行います。皮膚の状態や関節の動き、靭帯の緊張具合などを確認することで、損傷の程度を推測します。触診で得られた情報は、問診の内容と合わせて、診断の重要な手がかりとなります。
さらに、レントゲンやMRIなどの「画像検査」を行います。レントゲン検査では、主に骨の状態を確認し、骨折の有無を調べます。靭帯自体はレントゲンに写りませんが、骨折を伴っている場合は、骨の状態から靭帯損傷の重症度を推測することができます。MRI検査では、靭帯や軟骨、半月板などの軟部組織の状態を詳しく見ることができます。どの靭帯が損傷しているのか、損傷の程度はどのくらいなのかを正確に診断するために欠かせない検査です。これらの検査結果と問診、触診の結果を総合的に判断して、最終的な診断を下します。場合によっては、関節の中にカメラを入れて直接観察する「関節鏡検査」を行うこともあります。関節鏡検査は、関節内の状態を直接確認できるため、より正確な診断が可能です。
保存療法:サポーター・装具、薬物療法、リハビリテーション
損傷の程度が軽度から中等度の場合は、手術をせずに保存療法で治療を行います。保存療法は、サポーターや装具の着用、薬物療法、リハビリテーションなど、患者さんの状態に合わせて適切な方法を組み合わせます。
サポーターや装具は、膝関節を安定させ、痛みを軽減する効果があります。日常生活での膝への負担を軽減し、さらなる損傷を防ぐのに役立ちます。薬物療法では、痛みや炎症を抑える薬を服用します。炎症が強い場合は、消炎鎮痛剤を使用します。
リハビリテーションでは、ストレッチや筋力トレーニングなどを行い、膝関節の機能回復を目指します。例えば、タオルを足の裏にかけて引っ張るストレッチは、膝の柔軟性を高めるのに効果的です。また、足をまっすぐ伸ばした状態で持ち上げる筋力トレーニングは、太ももの筋肉を強化し、膝関節の安定性を高めるのに役立ちます。これらの運動を、患者さんの状態に合わせて、無理なく行うことで、膝の動きをスムーズにし、再発を予防することができます。
手術療法:靭帯再建術、関節鏡手術
保存療法で効果がない場合や、損傷の程度が重度の場合は、手術が必要になることもあります。前十字靭帯損傷は、特に若い世代でスポーツ活動中に多く発生します。ドイツでは10万人あたり46件と報告されており、決して稀な怪我ではありません。適切な治療を行わないと、半月板や軟骨の損傷リスクが高まる可能性があるため注意が必要です。若年で運動性の高い患者さんにおいては、半月板や軟骨のさらなる損傷リスクを軽減できるため、手術治療が推奨されます。
手術には、靭帯再建術や関節鏡手術などがあります。靭帯再建術では、損傷した靭帯を、自分の体の他の部分から採取した腱などで再建します。ドイツでは、自家腱を用いた前十字靭帯再建術が標準的な手術治療となっています。関節鏡手術は、小さな切開部から関節鏡というカメラを入れて行う手術で、傷口が小さく、体に負担が少ないというメリットがあります。
術後のリハビリテーション:機能回復訓練
手術後も、リハビリテーションは非常に重要です。リハビリテーションでは、膝関節の可動域を広げ、筋力を取り戻すためのトレーニングを行います。初期のリハビリテーションでは、痛みや腫れを抑えるためのアイシングや、関節の動きをスムーズにするための可動域訓練などが中心となります。その後、徐々に筋力トレーニングやバランス訓練などを取り入れ、日常生活動作の改善、そしてスポーツ復帰を目指します。手術の種類や損傷の程度によって、リハビリテーションの内容や期間は異なりますが、焦らずに、根気強く続けることが大切です。スポーツ復帰を目指す場合、医師や理学療法士の指導のもと、段階的にトレーニング強度を上げていくことが重要です。従来の経過時間に基づいたリハビリテーションに代わり、機能に基づいた基準が術後ケアにますます取り入れられています。
まとめ
膝の靭帯損傷について、種類、症状、診断・治療法を解説しました。靭帯は膝関節の安定性に欠かせない組織で、損傷すると日常生活に支障をきたします。損傷の種類は、前十字靭帯、後十字靭帯、内側側副靭帯、外側側副靭帯の4種類があり、それぞれ役割が異なります。症状は損傷の程度によって異なり、軽度では運動時の軽い痛み、重度では激痛や歩行困難に至ることもあります。診断は問診、触診、画像検査で行い、治療は保存療法と手術療法があります。保存療法ではサポーターや薬物療法、リハビリテーションを行い、重度の場合は靭帯再建術などの手術を行います。術後もリハビリテーションは重要です。違和感を感じたら、整形外科を受診しましょう。早期の診断と適切な治療で、スポーツ復帰も可能です。
参考文献
- Kohn L, Rembeck E, Rauch A. Anterior cruciate ligament injury in adults: Diagnostics and treatment. Der Orthopade 49, no. 11 (2020): 1013-1028.
追加情報
[title]: [Anterior cruciate ligament injury in adults : Diagnostics and treatment].,
成人における前十字靭帯損傷:診断と治療
【要約】
前十字靭帯(ACL)は後十字靭帯とともに膝関節の中心的な安定性を担っており、脛骨の前方への過剰な移動と内旋を抑制している。
ドイツにおいては、ACL断裂の発生率は10万人あたり46件と、最も一般的なスポーツ傷害の一つである。新たな予防プログラムにより、ACL損傷のリスクを軽減できる可能性がある。
若年で運動性の高い患者においては、半月板や軟骨のさらなる損傷リスクを軽減できるため、手術治療が推奨される。
ドイツにおける標準的な手術治療は、自家腱を用いたACL再建術である。
選択された症例においては、関節鏡視下によるACL修復術が良好な結果を示す。
従来の経過時間に基づいたリハビリテーションに代わり、機能に基づいた基準が術後ケアにますます取り入れられている。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33084915,
[quote_source]: Kohn L, Rembeck E and Rauch A. “[Anterior cruciate ligament injury in adults : Diagnostics and treatment].” Der Orthopade 49, no. 11 (2020): 1013-1028.