- 2025年1月21日
肩こりは何科を受診すればいい?
肩こり、経験したことのない人は少ないのではないでしょうか? ズーンと響く重だるさ、ガチガチに固まった肩、そして肩甲骨周りの不快感… 実はその肩こり、放置すると吐き気やめまい、腕のしびれといった深刻な症状に発展する可能性も潜んでいます。 厚生労働省の国民生活基礎調査によると、肩こりは男性の訴える自覚症状の第2位、女性の自覚症状ではなんと第1位! もはや国民病とも言える肩こり、その原因や症状、そして適切な治療法を知っていますか? この記事では、肩こりの原因3つ(姿勢不良、長時間作業、運動不足)を詳しく解説。 さらに、悪化するとどうなるのか、家庭でできる対処法、そして適切な診療科の選び方まで網羅的にご紹介します。 つらい肩こりとサヨナラするために、ぜひ読み進めてみてください。
肩こりの原因3つと症状
肩こりは、多くの人が経験する身近な症状です。子供から大人まで、誰しも一度は肩が重だるく、辛い思いをしたことがあるのではないでしょうか。まるで肩に重いリュックサックを背負っているような感覚、肩がガチガチに固まって動かしにくい感覚、ズーンと響くような痛みなど、肩こりの感じ方は人それぞれです。
この肩こり、実は放置すると日常生活に大きな支障をきたすこともあるため、原因と症状を正しく理解し、適切な対処をすることがとても重要です。
肩こりの主な原因:姿勢不良、長時間作業、運動不足など
肩こりは、大きく分けて「姿勢不良」「長時間作業」「運動不足」の3つの原因によって引き起こされます。
まず「姿勢不良」ですが、例えば猫背でパソコン作業をしている人の肩をよく観察してみてください。肩が内側に入り込み、首が前に突き出ているはずです。この姿勢を長時間続けると、肩や首の筋肉に大きな負担がかかり、筋肉が緊張して血行が悪くなります。その結果、肩こりの原因となるのです。私自身も、長時間の手術中に無理な姿勢を続けると、手術後には激しい肩こりに悩まされることがあります。
次に「長時間作業」についてですが、デスクワークなどで長時間同じ姿勢で作業を続けることも、肩こりの大きな原因となります。同じ姿勢を長時間続けることで、特定の筋肉に負荷がかかり続け、筋肉が疲労して硬くなってしまいます。特にパソコン作業は、画面に集中するあまり、無意識のうちに肩に力が入ってしまうため、肩こりになりやすいのです。私のクリニックでも、長時間のパソコン作業による肩こりを訴える患者さんを多く診ています。
最後に「運動不足」ですが、運動不足によって筋肉が衰えると、姿勢が悪くなりやすく、肩への負担も大きくなります。例えば、同じ姿勢を長時間続けることになっても、しっかりとした筋肉があれば、その負担を軽減することができます。しかし、運動不足で筋肉が弱っていると、すぐに筋肉が疲労し、肩こりになってしまうのです。
デスクワークで肩こりが悪化するメカニズム
現代社会において、デスクワークは肩こりを悪化させる最大の要因の一つと言えるでしょう。長時間のパソコン作業、猫背になりやすい椅子の形状、不適切な机の高さなど、デスクワーク環境には肩こりのリスクが潜んでいます。
例えば、パソコンの画面の位置が低すぎるとどうなるでしょうか。自然と頭が前に出てしまい、猫背の姿勢になってしまいます。この姿勢は、肩や首の筋肉に大きな負担をかけるため、肩こりを悪化させる原因となるのです。
また、キーボードを打つ際に腕を高く上げていると、肩の筋肉が緊張しやすくなります。長時間この姿勢を続けると、肩こりが悪化するのは言うまでもありません。
さらに、休憩時間をほとんど取らずに長時間作業を続けると、筋肉の疲労が蓄積し、血行不良が悪化して肩こりがさらにひどくなります。1時間に1回程度は立ち上がって軽いストレッチをする、遠くの景色を見るなど、筋肉の緊張をほぐす工夫を心がけることが大切です。
猫背、ストレートネックなどの姿勢と肩こりの関係
猫背やストレートネックは、肩こりと密接な関係があります。猫背になると、頭が前に出て肩が内側に入り、肩甲骨が外側に広がります。この姿勢は、肩や首、背中の筋肉に常に負担をかけ続け、肩こりを誘発する大きな原因となります。
ストレートネックとは、本来緩やかなカーブを描いているはずの頸椎(首の骨)がまっすぐになっている状態です。この状態では、頭の重さを支えるために首や肩の筋肉に過剰な負担がかかり、肩こりや頭痛の原因となります。
正しい姿勢を維持することは、肩こりの予防と改善に非常に重要です。立っているときは、耳、肩、腰、膝、くるぶしが一直線になるように意識しましょう。座っているときは、背筋を伸ばし、あごを引いて、パソコンの画面を目線よりやや下に設定すると良いでしょう。
肩こりの症状:肩の痛み、こり、重だるさ、頭痛、吐き気など
肩こりの症状は、肩の痛みやこり、重だるさだけにとどまりません。頭痛、吐き気、めまい、腕のしびれなど、多岐にわたる症状が現れることがあります。
肩の痛みは、鋭い痛みや鈍痛など、その種類は様々です。肩の筋肉が硬く張っている感じ(こり)、肩が重くだるい感じも、肩こりの代表的な症状です。
肩こりがひどくなると、頭痛や吐き気を伴うこともあります。重症化すると、吐き気だけでなく、嘔吐することもあります。また、肩や首の筋肉の緊張が神経を圧迫すると、腕や手のしびれが生じることもあります。初期は軽いしびれでも、放置すると、腕が上がらなくなる、字が書きにくいなどの症状に進行することもあります。
これらの症状は、他の病気が隠れている可能性もあります。症状が続く場合は、自己判断せずに医療機関を受診することが大切です。
放置するとどうなる?肩こりの悪化で起こる症状
肩こりを放置すると、様々な症状が現れ、日常生活に大きな影響を及ぼす可能性があります。
初期の肩こりは、肩の筋肉が緊張している状態ですが、放置すると筋肉の緊張が慢性化し、肩こりがさらに悪化します。
肩こりが悪化すると、頭痛やめまい、吐き気などの症状が現れることがあります。さらに、肩や首の筋肉の緊張が神経を圧迫することで、腕や手のしびれや麻痺などの神経症状が現れることもあります。
また、慢性的な肩こりは自律神経のバランスを崩し、不眠や倦怠感、イライラなどの症状を引き起こすこともあります。肩こりは放置せずに、早めに対処することが大切です。
肩こりに適切な診療科と受診の目安
肩こりは、多くの人が経験するありふれた症状です。ですが、その辛さは人それぞれで、日常生活に支障をきたすこともあります。どの診療科を受診すれば良いのか迷う方も多いでしょう。そこで、今回は肩こりに適した診療科と受診の目安について、詳しく解説します。
肩こりで受診を検討すべき症状
肩こりは、同じ姿勢での作業や運動不足、冷え、ストレスなどが原因で起こることが多く、多くは生活習慣の改善や市販薬で軽快します。しかし、中には放置すると悪化したり、他の病気が隠れている場合もあります。
例えば、私のクリニックにも、最初は軽い肩こりだったのに、放置した結果、腕にしびれが出て日常生活に支障が出てきたという患者さんが来院されるケースが少なくありません。
また、肩こりは他の病気のサインである場合もあります。例えば、五十肩は肩の関節の炎症が原因で起こり、肩こりのような症状が現れることがあります。心臓や肺の病気でも、肩に痛みやしびれが現れることがあります。
下記のような症状がある場合は、自己判断せずに早めに医療機関を受診しましょう。
- 普段とは違う痛み方や強さの肩こり
- 肩の痛みとともに、腕や手のしびれ、脱力感がある
- 首を動かすと痛みが悪化する
- 発熱、吐き気、めまいなどの症状を伴う
- 2週間以上症状が続いている
- 肩こりのせいで日常生活に支障が出ている(家事、仕事、睡眠など)
整形外科、ペインクリニック、神経内科など、肩こりに適した診療科
肩こりで受診できる診療科は複数あります。それぞれの診療科の特徴を理解し、ご自身の症状に合った診療科を選びましょう。
整形外科: 骨、関節、筋肉、神経などの異常が原因の肩こりを診断し、治療します。レントゲン検査などで原因を特定し、薬物療法、注射、リハビリテーションなど適切な治療を行います。例えば、私のように整形外科医であれば、レントゲン検査で骨の状態を確認したり、MRI検査で筋肉や神経の状態を詳しく調べることができます。
ペインクリニック: 痛みに特化した診療科です。肩こりだけでなく、頭痛や腰痛など様々な痛みの治療を行います。神経ブロック注射など専門的な治療も提供しています。整形外科で原因が特定できない肩こりでも、ペインクリニックでは痛みの緩和に焦点を当てた治療を受けることができます。
神経内科: 脳、脊髄、神経の病気が原因の肩こりを診断し、治療します。しびれや麻痺を伴う肩こりの場合は、神経内科の受診が適切です。神経内科では、神経伝導検査や筋電図検査など、神経の機能を調べる検査を行うことができます。
その他、内科、脳神経外科、心療内科などでも症状に応じて肩こりの診療を行っています。
肩こりの症状別、適切な診療科の選び方
症状によって適切な診療科は異なります。
- 肩や首のこり、痛み:整形外科
- 強い痛み、しびれ、麻痺:整形外科、神経内科
- 頭痛、めまい:脳神経外科、神経内科
- 吐き気、発熱:内科
- 精神的なストレス:心療内科
- 慢性的な痛み:ペインクリニック
医療機関の選び方:専門医、口コミ、設備、アクセスなどを考慮
医療機関を選ぶ際には、専門医の有無、口コミや評判、設備、アクセスなどを総合的に考慮しましょう。
専門医: 肩こりの治療に精通した専門医がいるかを確認しましょう。「日本整形外科学会認定 整形外科専門医」「日本ペインクリニック学会認定 ペインクリニック専門医」などがいます。
口コミ: インターネット上の口コミや評判も参考になります。
設備: レントゲン、MRI、CTなどの検査設備が整っているか確認しましょう。精密な検査が必要な場合に、適切な検査機器が備わっている医療機関を選ぶことが重要です。
アクセス: 自宅や職場から通いやすい場所にある医療機関を選びましょう。特に慢性的な肩こりの場合は、定期的に通院する必要があるので、アクセスの良さは重要なポイントです。
受診前の準備:症状の記録、服用中の薬の情報など
受診前に、症状の記録や服用中の薬の情報などをまとめておくとスムーズです。
症状の記録: いつから肩こりが始まったのか、どのような痛みか、痛みの程度、他に症状があるかなどをメモしておきましょう。
服用中の薬の情報: 現在服用している薬があれば、薬の名前をメモしておきましょう。お薬手帳があれば持参しましょう。
健康保険証: 必ず持参しましょう。
紹介状: 他の医療機関からの紹介状があれば持参しましょう。
急性頸部痛の多くは2ヶ月以内に治癒しますが、痛みが長引く場合は、適切な医療機関を受診することが大切です。
肩こりの治療法と予防策
肩こりは、誰もが一度は経験する身近な症状です。放っておくと日常生活に支障をきたすこともあるため、適切な治療と予防策を知っておくことが重要です。
肩こりの治療法:薬物療法、物理療法、運動療法、手術など
肩こりの治療法は、肩こりの原因や症状の重さによって異なります。
- 薬物療法: 痛みや炎症を抑える薬を用います。例えば、痛み止めや筋肉の緊張を和らげる薬などがあります。整形外科を受診すると、症状に合わせて適切な薬を処方してもらえます。私のクリニックでは、痛みが強い患者さんには、まず痛みを抑える薬を処方し、痛みが落ち着いてきたら、肩こりの根本的な原因に対処するための治療を検討していきます。
- 物理療法: 温熱療法、電気療法、牽引療法などがあります。温熱療法は、温罨法(おんあんぽう)とも呼ばれ、患部を温めることで血行を促進し、筋肉の緊張を和らげる効果があります。電気療法は、低周波や高周波の電気を用いて、筋肉の痛みを和らげます。牽引療法は、首や肩を引っ張ることで、神経の圧迫を軽減します。それぞれの治療法にメリット・デメリットがあるため、医師と相談して最適な方法を選択することが大切です。
- 運動療法: ストレッチや筋力トレーニングなど、肩や首周りの筋肉を動かすことで、筋肉の柔軟性を高め、血行を促進します。運動療法は、肩こりの再発予防にも効果的です。私のクリニックでは、理学療法士が患者さん一人ひとりに合った運動療法のプログラムを作成し、指導しています。
- 手術: ほとんどの肩こりは保存療法で改善しますが、神経が強く圧迫されているなど、特殊なケースでは手術が必要となる場合があります。例えば、頸椎椎間板ヘルニアなどで神経が圧迫されている場合は、手術によって神経の圧迫を取り除く必要があります。
家庭でできる肩こりの対処法:ストレッチ、マッサージ、温罨法など
家庭でできる肩こりの対処法としては、ストレッチ、マッサージ、温罨法などがあります。
- ストレッチ: 肩や首、肩甲骨周りの筋肉を伸ばすストレッチは、筋肉の緊張を和らげ、血行を促進します。入浴後など、体が温まっている時に行うとより効果的です。無理に伸ばすと逆効果になる場合があるので、痛みを感じない範囲でゆっくりと行うようにしましょう。
- マッサージ: 肩や首の筋肉を優しくもむことで、筋肉の緊張をほぐし、血行を良くします。マッサージは、専門家に行ってもらうのも良いですが、自分で行うこともできます。
- 温罨法: 温かいタオルや蒸しタオル、使い捨てカイロなどで肩や首を温めることで、血行が促進され、筋肉がリラックスします。温罨法は、家庭で手軽に行える方法ですが、低温やけどに注意する必要があります。温度が高すぎると、皮膚を傷つけてしまう可能性があるので、適温で行うようにしましょう。
肩こりの再発予防:正しい姿勢、適度な運動、ストレス管理など
肩こりを再発予防するためには、正しい姿勢を保つこと、適度な運動をすること、ストレスを管理することが重要です。
- 正しい姿勢: デスクワークやスマートフォンを使用する際は、猫背にならないように意識しましょう。猫背は、肩や首の筋肉に負担をかけ、肩こりの原因となります。
- 適度な運動: ウォーキングや水泳など、適度な運動は、肩や首周りの筋肉を強化し、血行を促進します。激しい運動は逆効果になる場合があるので、無理のない範囲で行いましょう。
- ストレス管理: ストレスは、筋肉の緊張を高め、肩こりを悪化させる要因となります。趣味やリラックスできる活動を通して、ストレスを上手に発散するようにしましょう。十分な睡眠時間を確保することも大切です。
市販薬やサプリメント:効果と注意点
ドラッグストアなどで購入できる市販薬やサプリメントの中には、肩こりの症状を和らげる効果が期待できるものもあります。
- 市販薬: 痛みや炎症を抑える効果のある市販薬は、一時的な痛みの緩和に役立ちますが、根本的な解決にはなりません。また、市販薬を長期間服用すると、副作用が現れる可能性もあるため、注意が必要です。症状が改善しない場合は、医療機関を受診するようにしましょう。
- サプリメント: 栄養バランスを整えることで、肩こりの改善に役立つ場合もありますが、サプリメントだけで肩こりが完全に治るわけではありません。効果には個人差があり、過剰摂取は体に悪影響を及ぼす可能性があるので注意が必要です。
具体的なストレッチ方法と回数
肩こりに効果的なストレッチとして、肩甲骨を寄せるストレッチを紹介します。
- タオルを使ったストレッチ: タオルの両端を持ち、腕を伸ばした状態で頭の上を通して肩甲骨を寄せるように引っ張ります。10秒程度キープし、これを5~10回繰り返します。痛みが長引く場合は、整形外科、ペインクリニック、神経内科などの専門医に相談しましょう。
これらのストレッチは、朝起きた時やお風呂上がり、寝る前など、1日に数回行うと効果的です。痛みのない範囲で、無理なく行いましょう。
まとめ
肩こりは、姿勢不良や長時間作業、運動不足など、様々な原因で起こります。肩こりを感じたら、まずは家庭でストレッチやマッサージ、温罨法などを試してみましょう。症状が重い場合や長引く場合は、整形外科、ペインクリニック、神経内科などの受診を検討し、専門医の適切な診断と治療を受けることが大切です。正しい姿勢を保ち、適度な運動を心がけ、ストレスを溜めないようにすることで、肩こりの予防と再発防止に繋がります。つらい肩こりから解放されて、快適な毎日を送りましょう。
参考文献
- Popescu A, Lee H. “Neck Pain and Lower Back Pain.” The Medical clinics of North America 104, no. 2 (2020): 279-292.
追加情報
[title]: Neck Pain and Lower Back Pain.,
頸部痛と腰痛
【要約】
頸部痛は障害原因の第4位を占める。
急性頸部痛の多くは2ヶ月以内に治癒する。
頸部痛のより深刻な原因を除外するために、病歴聴取と身体診察が重要な役割を果たす。
急性および慢性筋骨格性頸部痛に対する薬物療法のエビデンスは限られている。
腰痛は障害と生産性低下における主要因である。
急性痛の場合は48時間以内、全ての腰痛患者に対しては10日以内に理学療法とリハビリテーションの脊椎専門医への受診を行うことで、手術介入率を大幅に減らし、患者の満足度を高める可能性がある。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32035569,
[quote_source]: Popescu A and Lee H. “Neck Pain and Lower Back Pain.” The Medical clinics of North America 104, no. 2 (2020): 279-292.