• 2025年1月22日
  • 2025年3月20日

肩の痛みとがんの関係性|症状の種類と適切な治療法を専門医が解説

肩の痛み、その原因はただの筋肉疲労? まさか、がんのサイン…? 誰もが経験する肩の痛み。実はその裏には、五十肩や頸椎ヘルニアといったよくある疾患から、がんの骨転移といった深刻な病気が隠れている可能性も。肩の痛みを「そのうち治る」と安易に考えて放置すると、取り返しのつかない事態になるかもしれません。統計によると、日本人の約7割が生涯に一度は肩の痛みを経験すると言われています。この記事では、肩の痛みの原因4つを医師の視点から解説し、適切な治療法やセルフケアについてもご紹介します。肩の痛みを根本から理解し、健康な毎日を取り戻すためのヒントがここにあります。

当院では、肩の痛みをはじめ、膝や肘、骨、交通事故、スポーツ障害などさまざまな診療を行っています。専門的な診療とリハビリテーションを提供し、患者様一人ひとりに最適な治療プランを提案しています。詳しい診療内容やアクセス方法については、公式サイトをご覧ください。
>>もり整形外科の公式サイトはこちら

肩の痛みの原因4つ

肩の痛み。誰もが一度は経験するありふれた症状ですが、その原因は実に多岐にわたります。単なる筋肉の疲れや寝違えで済む場合もあれば、深刻な病気が潜んでいるケースもあるのです。肩の痛みを軽く見ずに、適切な対処をするためには、まずその原因を正しく理解することが重要です。ここでは肩の痛みの主な原因を4つご紹介し、それぞれの原因によってどのような症状が現れるのか、医師の視点から詳しく解説していきます。

五十肩、頸椎ヘルニアなど

肩の痛みでまず思い浮かぶのは五十肩ではないでしょうか。正式には肩関節周囲炎といい、肩関節の周囲に炎症が起こり、強い痛みと動きの制限が生じる病気です。まるで肩が凍りついたように動かせなくなることから、凍結肩とも呼ばれます。その名の通り、50歳前後の方に多く発症しますが、40代や60代で発症する方もいます。

五十肩と似た症状を引き起こす病気の一つに、頸椎ヘルニアがあります。これは首の骨の間にあるクッション(椎間板)が飛び出し、神経を圧迫することで肩や腕に痛みやしびれを起こす病気です。長時間のデスクワークやスマートフォンの使いすぎで姿勢が悪くなりがちな現代人に多く見られます。最近では、小学生でも頸椎ヘルニア予備軍といえるような首の湾曲が失われた状態の子どもが増えてきており、将来的な発症リスク増加が懸念されています。

胸郭出口症候群、肩甲上神経麻痺など

胸郭出口症候群は、首から腕へと伸びる神経や血管が、胸郭出口と呼ばれる狭い場所で圧迫されることで、肩や腕、手に痛みやしびれ、冷感などを引き起こす病気です。つり革につかまる、洗濯物を干すなど、腕を長時間上げた姿勢で症状が悪化しやすいのが特徴です。

肩甲上神経麻痺は、肩甲骨の上を走る神経が損傷することで、肩の痛みや腕を外側に上げる動きの弱化を引き起こす病気です。ラグビーや柔道などのコンタクトスポーツで肩に強い衝撃を受けた際に発症することがあります。先日、高校生のラグビー選手が激しいタックルを受けた後、肩に力が入らなくなったと来院されました。診察の結果、肩甲上神経麻痺と診断し、適切な治療を行いました。

乳がん術後の腋窩ウェブ症候群

乳がんの手術後、脇の下から腕にかけて伸びる皮膚や組織が硬くなり、肩の痛みや動きの制限を引き起こすことがあります。腋窩ウェブ症候群と呼ばれ、手術によってリンパの流れが変化することが原因の一つと考えられています。最近では、この腋窩ウェブ症候群に対して、理学療法と手技的リンパドレナージを組み合わせた治療法が、肩の機能や生活の質を改善するだけでなく、腕のリンパ浮腫も軽減することが報告されています(Cho et al., 2016)。

がんによる骨転移

がんが骨に転移することで肩の痛みを引き起こすこともあります。転移とは、がん細胞が血液やリンパ液の流れに乗って体の他の部位に移動し、そこで増殖し始めることです。骨転移は、上腕骨、肩甲骨、鎖骨、頸椎など、肩周辺の骨に起こりやすく、痛みだけでなく、骨折のリスクも高まります。安静時にも痛みを感じることが多く、夜間にも痛みが増強するのが特徴です。

肩の痛みは、その原因によって適切な治療法が異なります。自己判断で放置したり、間違った対処法を行うと、症状が悪化したり、慢性化する可能性もあります。肩の痛みが続く場合は、医療機関を受診し、専門医による適切な診断と治療を受けることが大切です。

肩の痛みの症状と種類

肩の痛みは、その症状や種類によって原因が様々です。単なる筋肉痛から、放っておくと大変なことになる病気まで、実に多様な原因が潜んでいる可能性があります。肩の痛みを「歳のせいだから」「そのうち治るだろう」と軽く見ず、適切な対処をするためには、まずご自身の痛みがどのようなものなのかを正しく把握することが重要です。

痛みの種類:鈍痛、鋭い痛み、しびれるような痛み

肩の痛みは、大きく分けて「鈍痛」「鋭い痛み」「しびれるような痛み」の3種類に分けられます。

  • 鈍痛: 重苦しい、なんとなく痛い、といったように、痛みの場所が漠然として捉えにくい痛みです。例えば、パソコン作業で長時間同じ姿勢を続けた後や、重い荷物を持った後に感じる、ジワジワとした痛みのようなものを想像してみてください。

  • 鋭い痛み: 針で刺されたような、チクッとした瞬間的な痛みです。例えば、転んで肩を強打した時や、急に腕を引っ張られた時などに感じる激しい痛みです。先日、交通事故に遭われた患者さんが、肩に鋭い痛みを訴えて来院されました。診察の結果、鎖骨骨折と診断。このような鋭い痛みは、腱板断裂や脱臼など、組織の損傷を伴う場合に多く見られます。

  • しびれるような痛み: ビリビリ、ジンジンとした、電気が走るような不快な痛みです。腕がしびれたり、指先に力が入らなかったりするような感覚を伴うこともあります。これは、神経が圧迫されているサインです。例えば、先日来院された60代男性の患者さんは、肩から腕にかけてジンジンとしたしびれと痛みがあり、握力が低下していました。精密検査の結果、頸椎ヘルニアによる神経圧迫が原因だとわかりました。胸郭出口症候群も、このようなしびれるような痛みを引き起こす病気の一つです。

これらの痛みの種類は、単独で現れることもあれば、組み合わさって現れることもあります。例えば、鈍痛としびれるような痛みが同時に現れることもあります。

以下の記事では、肩の痛みの場所ごとに考えられる病気や、自宅でできるケア方法を詳しく解説しています。セルフケアと医療機関の受診を上手に組み合わせながら、肩の健康を維持しましょう。
>>【医師監修】肩の痛みの場所でわかる!考えられる病気と自宅でできるケア方法

痛みが出る動作:腕を上げる、後ろに回す、重いものを持つ

肩の痛みは、特定の動作によって引き起こされたり、悪化したりすることがあります。その動作に着目することで、痛みの原因を特定する手がかりになります。

  • 腕を上げる: 腕を真上に上げたり、横に広げたりする動作で痛みが出ます。例えば、洗濯物を干す、高い所の物を取ろうとする時などに痛みが強まるようであれば要注意です。肩関節周囲の筋肉や腱の炎症、あるいは肩関節自体の異常が疑われます。

  • 腕を後ろに回す: 腕を後ろに回す動作で痛みを感じます。例えば、ブラジャーのホックを留める、後ろポケットに手を入れるといった動作で痛みが増す場合です。肩関節の可動範囲が狭くなっていたり、関節が不安定になっている可能性があります。

  • 重いものを持つ: 重い荷物を持ったり、運んだりする動作で肩に痛みが出ます。これは、肩関節や周囲の筋肉に過度の負担がかかっていることが原因です。単なる筋肉疲労であれば休めば回復しますが、痛みが長引く場合は他の原因も考えられます

これらの代表的な動作以外にも、スポーツや仕事などで特定の動作を繰り返すことで痛みが出ることもあります。例えば、野球のピッチャーやバレーボールのアタッカーなど、特定の動作を繰り返し行うスポーツ選手に多いです。

以下の記事では、肩こりや肩の痛みがある場合に「何科を受診すべきか?」を症状別に詳しく解説しています。受診の目安を知ることで、適切な診療を受ける手助けとなるでしょう。
>>肩こりは何科に行けばいい?専門医が教える症状別の適切な診療科と受診の目安

症状:腫れ、熱感、発疹、感覚異常

肩の痛みとともに、腫れ、熱感、発疹、感覚異常といった症状が現れることがあります。これらの症状は、痛みの原因を特定するための重要な手がかりとなります。

  • 腫れ: 肩の関節が腫れている場合は、炎症や外傷が原因として考えられます。

  • 熱感: 肩の関節が熱を持っている場合は、炎症が起きている可能性が高いです。

  • 発疹: 肩や腕に発疹が出ている場合は、皮膚の病気やアレルギー反応なども考慮する必要があります。

  • 感覚異常: 肩や腕にしびれや感覚の鈍さがある場合は、神経が圧迫されている可能性があります。

放散痛:首、背中、腕、指にしびれや痛みが広がる

肩の痛みは、肩だけにとどまらず、首、背中、腕、指などに広がることもあります。これを「放散痛」といいます。放散痛は、神経が圧迫されたり、刺激されたりすることで起こります。例えば、頸椎ヘルニアで首の神経が圧迫されると、肩や腕に痛みやしびれが広がることがあります。

随伴症状:発熱、倦怠感、体重減少

肩の痛みに加えて、発熱、倦怠感、体重減少といった全身症状が現れる場合は、注意が必要です。これらが肩の痛みと同時に起こる場合、がんが原因で肩の痛みが出ている可能性も否定できません。特に原因不明の発熱や体重減少を伴う場合は、速やかに医療機関を受診し、精密検査を受けることをお勧めします。

肩の痛みの治療法とセルフケア

肩の痛み。その辛さは、日常生活のあらゆる場面で影を落とします。朝、服を着ようとして腕が上がらない。夜、寝返りを打つたびに痛みが走る。大好きな趣味のスポーツも楽しめない。そんな経験、ありませんか?

肩の痛みを放置すると、痛みが慢性化したり、肩の関節が変形して動かなくなる可能性も出てきます。肩の痛みを軽く見ずに、適切な治療とセルフケアを行うことで、痛みを和らげ、快適な日常生活を取り戻しましょう。

薬物療法:鎮痛剤、消炎鎮痛剤、筋弛緩薬

肩の痛みを抑える薬には、大きく分けて3つの種類があります。

まず、痛みそのものを抑える「鎮痛剤」です。鎮痛剤は、痛みを感じにくくする効果があります。例えるなら、火災報知器のベルを一時的に止めるようなイメージです。根本的な原因を解決するわけではないので、他の治療法と併用することが一般的です。

次に、炎症を抑えることで痛みを和らげる「消炎鎮痛剤」です。炎症は、ケガをしたときなどに起こる体の反応で、発赤、腫れ、熱感、痛みなどを引き起こします。消炎鎮痛剤は、この炎症を抑えることで、痛みを根本から改善しようとします。

3つ目は、肩の筋肉の緊張を和らげる「筋弛緩薬」です。肩の筋肉が緊張すると、肩がこわばり、痛みが出やすくなります。長時間のデスクワークや精神的なストレスなどで肩が凝り固まっていると感じる方は多いのではないでしょうか。筋弛緩薬は、肩の筋肉をリラックスさせることで、痛みを和らげます。

これらの薬は、痛みの原因や症状に合わせて使い分けられます。例えば、炎症が強い場合は消炎鎮痛剤、筋肉の緊張が強い場合は筋弛緩薬が選択されます。どの薬が自分に合うかは、医師に相談しましょう。自己判断で市販の鎮痛剤を長期間服用し続けると、胃腸障害などの副作用が生じる可能性もあります。

理学療法:温熱療法、冷却療法、電気刺激療法、マッサージ、ストレッチ、運動療法、リンパドレナージ

理学療法とは、温熱や冷却、電気刺激、マッサージ、ストレッチ、運動など、様々な物理的な刺激を用いて、体の機能を回復させる治療法です。肩の痛みにも、様々な理学療法が有効です。

温熱療法は、温湿布やホットパックなどで肩を温めることで、血行を良くし、筋肉の緊張を和らげます。温めることで、筋肉が柔らかくなり、肩の動きがスムーズになります。自宅でのお風呂も効果的です。

冷却療法は、氷嚢などで肩を冷やすことで、炎症や痛みを抑えます。炎症が起きている急性期には、冷却療法が有効です。

電気刺激療法は、低周波や高周波の電気を用いて、筋肉や神経を刺激することで、痛みを和らげたり、筋肉を鍛えたりします。

マッサージは、肩の筋肉をほぐすことで、血行を良くし、痛みを和らげます。肩こりがひどい方には効果的です。

ストレッチは、肩周りの筋肉を伸ばすことで、柔軟性を高め、痛みを予防します。肩甲骨を動かすストレッチは、肩周りの筋肉の柔軟性を高めるのに効果的です。

運動療法は、肩周りの筋肉を鍛えることで、肩関節を安定させ、痛みを予防します。チューブトレーニングやダンベルを用いたトレーニングなど、様々な運動療法があります。

リンパドレナージは、リンパの流れを良くすることで、むくみや痛みを改善します。特に、乳がんの手術後などに起こるリンパ浮腫による肩の痛みには効果的です。Cho et al.(2016)の研究では、理学療法と手技的リンパドレナージを組み合わせることで、肩の機能や生活の質(QOL)を改善し、腕のリンパ浮腫も軽減することが報告されています。

以下の記事では、リンパの流れを意識したマッサージ方法や改善のポイントについて詳しく解説しています。自宅で簡単にできるケアを取り入れ、肩の不調をスッキリ解消しましょう。
>>肩の痛みはリンパの流れが原因?専門医が教えるマッサージ法と改善のポイント

手技療法:関節モビライゼーション、マニピュレーション

手技療法は、理学療法士や医師などの専門家が行う、手を使った治療法です。関節モビライゼーションは、関節をゆっくりと動かすことで、関節の動きを滑らかにし、痛みを和らげます。マニピュレーションは、関節を瞬間的に動かすことで、関節のずれを矯正します。

注射療法:超音波ガイド下末梢神経ブロック、ステロイド注射、ヒアルロン酸注射

注射療法は、薬を直接患部に注射する治療法です。超音波ガイド下末梢神経ブロックは、超音波を用いて神経の位置を確認しながら、神経に局所麻酔薬などを注射することで、痛みをブロックします。例えば、肩甲上神経ブロックは、肩の痛みを効果的に和らげることができます。超音波ガイドを用いることで、リアルタイムで針の位置を確認できるため、精度と安全性が向上します(Lew and Strakowski, 2016)。ステロイド注射は、炎症を抑える効果の高いステロイド薬を注射することで、痛みを和らげます。ヒアルロン酸注射は、関節の動きを滑らかにするヒアルロン酸を注射することで、痛みを和らげます。

手術療法

肩の痛みが他の治療法で改善しない場合、手術が必要になることもあります。手術には、関節鏡手術や人工関節置換術など、様々な種類があります。手術が必要かどうかは、医師とよく相談しましょう。

セルフケア:安静、アイシング、温罨法、ストレッチ

セルフケアは、自分でできるケアのことです。肩の痛みのセルフケアには、安静、アイシング、温罨法、ストレッチなどがあります。安静にすることは、炎症を悪化させないために重要です。アイシングは、炎症を抑える効果があります。温罨法は、血行を良くし、筋肉の緊張を和らげる効果があります。ストレッチは、肩周りの筋肉の柔軟性を高める効果があります。これらのセルフケアを適切に行うことで、肩の痛みを和らげることができます。どのようなセルフケアが適切かは、痛みの原因や状態によって異なりますので、医師や理学療法士に相談してみましょう。

以下の記事では、肩の痛みを軽減するためのストレッチ方法や、症状別の対処法を詳しく解説しています。こまめなストレッチや姿勢の調整を取り入れることで、肩の負担を減らし、痛みの予防・改善につなげましょう。
>>肩の痛みはストレッチで改善が期待できる!5つの症状別おすすめ対処法と予防のコツ

まとめ

肩の痛みは、様々な原因で起こり、その症状も多岐にわたります。五十肩や頸椎ヘルニアといった比較的よく知られているものから、がんの骨転移といった深刻な病気まで、可能性は幅広いのです。痛みの種類や痛む動作、腫れや熱感といった付随する症状、そしてしびれや痛みが広がる範囲など、様々な手がかりから原因を推測することができます。

自己判断で放置せず、医療機関を受診し、専門医による適切な診断と治療を受けることが大切です。肩の痛みを和らげ、快適な日常生活を取り戻すために、今回ご紹介した情報が少しでもお役に立てれば幸いです。

当院では、四十肩や五十肩、肩脱臼や肩関節の痛みなど、あらゆる肩の診療も可能です。症状に応じた治療法を提案し、リハビリや運動療法も含めた包括的なケアを提供しています。肩の痛みが気になる方は、お気軽にご相談ください。
>>もり整形外科の公式サイトはこちら

参考文献

もり整形外科 079-562-5169 ホームページ