- 2025年3月2日
膝の手術後の痛みはいつまで?回復期間と改善のポイント
膝の手術後、痛みがどのくらい続くのか、いつ日常生活へ戻れるのか不安になるものです。手術後の痛みは患者さんの大きなストレスとなり、回復の妨げになる可能性があります。この記事では、以下についてわかりやすく解説します。
- 膝の手術後の痛みが続く期間
- 膝の手術後の痛みを和らげる方法
- 膝の手術後の回復を早めるためのポイント
術後の不安を解消し、痛みに対する適切な対処法を理解しましょう。
膝の手術後の痛みが続く期間はどれくらい?
手術の種類による痛みの違いや痛みが長引く原因と対処法を以下の項目に沿って詳しく解説します。
- 手術の種類と痛みの持続期間
- 術後の痛みのピークと回復の目安
- 痛みが長引く場合の原因と対処法
手術の種類と痛みの持続期間
膝の手術の種類と痛みの持続時間の目安は以下のとおりです。
手術の種類 | 手術の概要 | 痛みの持続期間の目安 |
人工膝関節全置換術 | 膝関節全体を人工関節に置き換える手術です。手術の規模が大きく組織への侵襲も大きいため、術後の痛みも強く長引く傾向があります。手術後には、傷の痛みだけでなく人工関節に慣れるまでの違和感や、周囲の筋肉や靭帯の炎症による痛みも生じることがあります。 | 3~4か月 |
人工膝関節単顆置換術 | 膝関節の一部を人工関節に置き換える手術です。人工膝関節全置換術と比べて手術侵襲が少ないため、術後の痛みが軽減されます。自分の組織が部分的に残っているため、関節の違和感も比較的軽いとされています。 | 1~2か月 |
関節鏡手術 | 小さな切開部からカメラや器具を入れて行う手術です。半月板損傷や靭帯損傷などの比較的軽度の損傷に対して行われます。人工関節置換術に比べて、組織の損傷が少ないため、術後の痛みが少なく、回復も早いことが多いです。 | 数週間~1か月 |
上記はあくまで目安であり、個々の患者さんの状態やリハビリの進捗状況によって異なります。
術後の痛みのピークと回復の目安
膝の手術後、痛みが最も強くなるのは手術当日から翌日にかけてです。強い痛みが起きるのは、手術による組織の損傷や炎症反応が最も強い時期であるためです。手術当日と翌日は、多剤併用鎮痛法(マルチモーダルアナジェジア)という、複数の種類の痛み止めや治療法を組み合わせる方法が用いられます。具体的には以下の方法です。
- 手術前に痛み止めを内服する
- 神経ブロック注射をする
- 手術後も痛み止めを内服する
- 手術後に痛み止めの点滴をする
痛みは徐々に軽くなっていき、1週間から10日ほどで日常生活動作に支障がない程度まで回復することが多いです。3か月程度で痛みがほぼ軽減し、日常生活に支障がなくなる程度まで回復します。痛みが気にならない程度になるまでには、半年から1年かかる場合もあります。
痛みが長引く場合の原因と対処法
多くの場合、膝の手術後の痛みは時間とともに軽快します。一方で、痛みが長引く場合や、新たに強い痛みが出現した場合は、以下の原因が考えられます。
原因 | 概要 | 対処法 |
---|---|---|
感染症 | 手術部位に細菌が感染することで起こり、発熱や腫れ、強い痛みなどの症状が現れます。 | 抗菌薬の投与 |
血栓症 | 手術後に血のかたまり(血栓)ができて血管を詰まらせてしまう病気で、ふくらはぎの痛みや腫れ、呼吸困難などの症状が現れることがあります。 | 抗凝固薬の投与 |
神経の損傷 | 手術中に神経が傷つけられることで起こり、しびれや痛み、感覚異常などの症状が現れます。 | 薬物療法、神経ブロック注射 |
リハビリテーションの問題 | 無理なリハビリテーションで膝関節に負担をかけると、痛みや炎症などの症状が現れます。 | リハビリテーション計画の見直し |
精神的な要因 | 手術に対する不安や、術後の生活への不安などが、痛みを強く感じさせてしまう原因となることがあります。 | カウンセリング、精神科医への紹介 |
適切な対処とリハビリテーションを行うことで、痛みの改善が期待でき、日常生活の質の向上につながる可能性があります。不安なことがあれば、いつでも医師に相談してください。
膝の手術後の痛みを和らげる方法5選
膝の手術後の痛みを軽減する以下の5つの方法を解説します。
- 痛み止めの使用
- 冷却療法で炎症を抑える
- 温熱療法で血行促進
- サポーターで膝関節を安定させる
- 適切なリハビリテーション
痛み止めの使用
痛み止めは術後の痛みを和らげるための最も基本的な方法です。痛み止めにはロキソニンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やアセトアミノフェン、オピオイド鎮痛薬などの種類があります。
痛みが強い場合は神経ブロックや硬膜外麻酔などの方法も用いられます。神経ブロックや硬膜外麻酔は、痛みを伝える神経の経路をブロックして痛みを軽減する効果があります。患者さんの体質や痛みの程度に合わせて医師が最適な方法を選択するので、安心して相談しましょう。
多剤併用鎮痛法(マルチモーダルアナジェジア)は、異なる種類の痛み止めを組み合わせて使用し、より効果的に痛みを抑える方法です。それぞれの薬剤の相乗効果によって少ない量でより高い鎮痛作用を得られ、副作用を抑える効果も期待できます。人工膝関節置換術においても、多剤併用鎮痛法が術後疼痛管理の有効な方法と考えられています。
冷却療法で炎症を抑える
冷却療法(アイシング)は、手術直後から数日間において効果的な方法です。手術によって生じた炎症を抑え、痛みを和らげる効果が期待できます。氷や保冷剤をタオルに包んで、手術部位に15〜20分程度当てます。
冷やしすぎると凍傷を起こす可能性があるので、感覚が鈍くなっている場合は注意が必要です。手術後1週間程度はベッドで安静にしているときにも冷却装置を使用すると効果的です。冷却装置は一定の温度で冷やし続けられるため腫れや熱感、痛みを軽減するのに役立ちます。
温熱療法で血行促進
温熱療法は手術後数日経過し、炎症が落ち着いてきた頃に効果的です。蒸しタオルを患部に当てたり温浴をしたりすると以下の効果が期待できます。
- 血行促進
- 痛みの緩和
- 筋緊張の緩和
- リラックス効果
熱すぎる温度は炎症を悪化させる可能性があるため、心地良いと感じる温度で行うことが大切です。熱いと感じる場合はすぐに中止し、温度を調整しましょう。
サポーターで膝関節を安定させる
サポーターは手術後の膝関節を安定させ、過剰な動きによる痛みを防ぐ効果があります。サポーターによる適度な圧迫は、手術部位の腫れを抑える効果も期待できます。サポーターの種類はさまざまです。医師や理学療法士の指導のもと、ご自身の状態に合ったサポーターを選ぶことが大切です。
適切なリハビリテーション
リハビリテーションは手術後の痛みを軽減し、膝の機能回復を促進するために重要です。理学療法士の指導のもとストレッチや筋力トレーニングなどの適切な運動を行い、関節の可動域を広げ、筋力を強化します。より効果的に回復を促進するために、リハビリテーションは術後早期から開始します。
手術後2日目くらいから立位訓練を開始し、順調であれば3〜5日目くらいで歩行器を使った歩行練習、1週間程度で杖を使った歩行練習へと進みます。自宅の生活環境に合わせた練習も入院中に行います。
退院後も筋力や持久力、膝の曲げ伸ばしの機能を維持するために、無理のない範囲で体を動かすように心がけましょう。リハビリテーションの継続は、痛みの軽減だけでなく再発予防にもつながります。
膝の手術後の回復を早めるためのポイント
膝の手術後の回復を早めるためのポイントを以下の項目に沿って具体的に説明します。
- リハビリテーション:進め方と目標
- 日常生活:階段の上り下り・歩行などの注意点
- 食事と栄養:回復を促進する食事のポイント
- メンタルケア:不安やストレスへの対処法
- 再発予防:適切な運動と生活習慣
リハビリテーション:進め方と目標
手術の種類や患者さんの状態に合わせて、適切なリハビリテーションプログラムが組まれます。リハビリテーションの目標は膝の機能回復や痛みの軽減、そして日常生活動作の改善で、内容は以下の3つに分類できます。
- 運動療法:膝関節の可動域を広げる運動や周囲の筋肉を強化するための筋力トレーニング
- 物理療法:痛みや炎症を抑えるための冷却療法や温熱療法
- 作業療法:日常生活動作の練習
痛みが強い場合もあるため、痛み止めを使用しながら進めることもあります。リハビリテーション中に痛みが強くなったり新しい痛みが出たりする場合は、我慢せずに主治医や理学療法士に相談しましょう。
日常生活:階段の上り下り・歩行などの注意点
手術後は日常生活でも注意が必要です。特に、階段の上り下りは膝に負担がかかりやすいため慎重に行いましょう。階段を上る際は手術していない方の足から上がり、降りる際は手術した方の足から降りるようにします。手すりや杖を使うとより安全です。
歩行距離は無理のない範囲で少しずつ伸ばしましょう。長時間の立ち仕事や重い荷物の持ち上げは、膝への負担が大きいためなるべく避けてください。入浴は手術後1週間程度シャワー浴にし、湯船に浸かる際は滑らないように注意しましょう。床に滑り止めマットを敷いたり、浴槽内に手すりを取り付けたりする工夫も有効です。
食事と栄養:回復を促進する食事のポイント
手術後の回復にはバランスの取れた食事を摂ることが大切で、特に以下の栄養素は組織の修復や免疫力の維持に不可欠です。
- タンパク質:肉、魚、卵、大豆製品
- ビタミン:野菜や果物
- ミネラル:海藻類や乳製品
水分を十分に摂ることも重要です。脱水症状を防ぎ血行を促進することで、回復を早める効果が期待できます。
メンタルケア:不安やストレスへの対処法
膝の手術後は痛みや日常生活の制限などから、不安やストレスを感じやすくなります。痛みに対する過剰なネガティブ思考(カタストロフィング)は、術後痛と関連するという研究結果もあります。
手術後の不安やストレスは回復を遅らせる要因となる場合があるため、適切な対処が必要です。一人で抱え込まずに家族や友人、医療従事者に相談しましょう。リラックスできる音楽を聴いたり、好きな趣味に没頭したりして気分転換することも効果的です。
再発予防:適切な運動と生活習慣
再発を防ぐためには、適切な運動と生活習慣が大切です。適度な運動は膝関節の安定性と柔軟性の維持に役立ちます。ウォーキングや水泳など膝に負担の少ない運動を選び、適切な体重管理をして膝関節への負担を避けましょう。禁煙も重要です。喫煙は血行を悪化させ回復を遅らせる可能性があります。
人工関節は適切に使用された場合、一般的には20〜30年機能するといわれています。一方で、膝関節に負担をかけすぎると、人工関節のポリエチレン部分が擦り減ってくる可能性があります。人工関節の摩耗が進行すると、摩耗粉による炎症反応を引き起こし、周囲の骨が吸収されることがあります(骨溶解)。
適切なケアと生活習慣の改善により再発を避けられる可能性が高まります。定期的な検査を受け、医師の指示に従って再発予防に努めましょう。
まとめ
手術の種類によって痛みの程度や持続期間は異なり、痛みが継続する期間の目安は以下のとおりです。
- 人工膝関節全置換術:3~4か月
- 人工膝関節単顆置換術:1~2か月
- 関節鏡手術:数週間~1か月
痛みのピークは手術直後から数日で、その後徐々に軽快します。痛みが長引く原因は感染症や血栓症、神経損傷などの合併症、リハビリテーションの進め方、精神的ストレスなどが考えられます。
痛みを和らげるには痛み止めの使用や冷却療法・温熱療法を行う、サポーターで膝関節を安定させる、適切なリハビリテーションをするなどの方法があります。不安な点があれば医師や理学療法士に相談しながら、焦らずに回復を目指しましょう。
参考文献
- Jing-Wen Li, Ye-Shuo Ma, Liang-Kun Xiao. Postoperative Pain Management in Total Knee Arthroplasty. Orthop Surg, 2019 Oct;11(5):755-761.
- Yael Conti, Jean-Jacques Vatine, Sigal Levy, Yulia Levin Meltz, Sami Hamdan, Odelia Elkana. Pain Catastrophizing Mediates the Association Between Mindfulness and Psychological Distress in Chronic Pain Syndrome. Pain Pract, 2020 Sep;20(7):714-723.