- 2025年3月2日
60代の膝の痛みの特徴!年齢による原因と効果的な対策
60代になると、階段の昇り降りや立ち上がり動作で膝に痛みを感じることはありませんか?実は、世界中で約6億5400万人が変形性膝関節症に悩まされているという推計もあり、決して他人事ではありません。加齢とともに膝関節は変化し、さまざまな原因で痛みが生じやすくなります。
この記事では、以下の項目について詳しく解説します。
- 60代に多い膝の痛みの原因4選
- 60代の膝の痛みを効果的に対策する方法5選
- 60代の膝の痛みを予防するための3つのポイント
60代に多い膝の痛みの原因4選
60代になると、今まで何気なくできていた階段の上り下りや立ち上がり動作で、膝に違和感や痛みを感じる機会が増えてきます。若い頃は平気だったのに、最近急に痛み出した、という方もいます。加齢とともに、膝関節内の構造や機能が変化し、さまざまな問題を引き起こしやすくなるためです。
60代に多い膝の痛みの原因として、以下の4つを解説します。
- 変形性膝関節症
- 半月板損傷
- 靭帯損傷
- その他の疾患:関節リウマチ・痛風など
変形性膝関節症
60代以降の膝の痛みで最も多い原因は、変形性膝関節症です。膝関節を覆っている軟骨がすり減り、クッションの役割を果たせなくなることで、骨と骨が直接ぶつかり合うことで炎症や痛みを引き起こす病気です。加齢は軟骨のすり減りを促進する大きな要因となります。
若い頃は、軟骨はみずみずしく弾力性がありますが、年齢を重ねるごとに水分が失われ、弾力性が低下していきます。すり減った軟骨では膝の動きがスムーズでなくなり、痛みや炎症を引き起こすのです。
初期症状としては、立ち上がりや歩き始めに痛みを感じることが多く、朝起きたときや長時間座っていた後に痛みが強くなる傾向があります。関節液の分泌が減少し、軟骨の滑りが悪くなっていることが原因です。
症状が進むと、安静時にも痛みを感じるようになり、膝の曲げ伸ばしが困難になることもあります。関節内に水が溜まり、膝が腫れることもあります。変形性膝関節症は、45歳以上の患者さんで活動に伴う膝関節痛があり、朝のこわばりが30分未満の場合に疑われることが多く、画像検査などで総合的に診断されます。
変形性膝関節症で損傷した軟骨を完全に元通りにすることは、現代の医学では難しいとされています。適切な治療とケアを継続することで、多くの人が痛みを軽減し、日常生活の質を向上させることが期待できます。進行した変形性膝関節症の場合でも、人工膝関節置換術という手術で痛みの軽減が期待できるケースもあります。
半月板損傷
半月板は、膝関節にあるC型の軟骨で、クッションの役割を果たしています。激しいスポーツなどで膝を捻ったり、強い衝撃を受けたりすることで損傷することがあります。若い世代では、外傷性の損傷が多い一方、60代では加齢による変性で半月板がもろくなり、ちょっとした動作で損傷してしまうケースが増えてきます。
半月板が損傷すると、膝の曲げ伸ばしの際に痛みや引っ掛かりを感じることがあります。損傷した半月板が関節の動きを妨げていることが原因です。「ロッキング」と呼ばれる症状が現れることもあります。膝の関節が急に動かなくなり、伸びなくなってしまう状態です。膝に水が溜まって腫れることもあります。
半月板損傷は、放置すると変形性膝関節症に進行するリスクも高まるため、早期の診断と適切な治療が重要です。半月板損傷は成人の約12%に影響し、40歳未満の人では急性外傷(例:ねじれによる怪我)後に発生する可能性があります。
靭帯損傷
靭帯は、骨と骨をつないで関節を安定させる役割を持つ、丈夫な組織です。スポーツや転倒などで膝を強く捻ったり、打撲したりすることで損傷することがあります。60代では、加齢とともに靭帯の強度や柔軟性が低下するため、損傷しやすくなります。
靭帯は、コラーゲンという線維が束になった構造をしており、加齢とともにコラーゲンの生成が減少するため、靭帯がもろくなりやすいのです。靭帯損傷の症状は、損傷した靭帯の種類によって異なります。前十字靭帯損傷では、膝が不安定になり、ぐらついたり、ずれたりする感覚を生じることがあります。
重症例では脱臼を伴うこともあります。前十字靭帯が膝関節の前後方向の安定性を保つ役割を担っているためです。内側側副靭帯損傷や外側側副靭帯損傷では、損傷した部分に痛みや腫れが現れます。膝関節の側方への動きを制限する役割を担っているためです。
その他の疾患:関節リウマチ・痛風など
膝の痛みは、変形性膝関節症や半月板損傷、靭帯損傷以外にも、さまざまな原因で起こることがあります。関節リウマチは、免疫システムの異常によって関節に炎症が起こる病気で、膝の痛みや腫れ、朝のこわばりなどの症状が現れます。
痛風は、尿酸が関節に蓄積することで激しい痛みや腫れを引き起こす病気で、膝以外にも足の親指の付け根などに症状が現れることが多いです。膝の痛みが長引く場合は、原因がさまざまであるため、自己判断せずに整形外科などの医療機関を早めに受診し、適切な診断と治療を受けることが重要です。
60代の膝の痛みを効果的に対策する方法5選
加齢とともに変化する体のメカニズムを理解し、適切な対策を講じることで、痛みを軽減し、活動的な毎日を取り戻せる可能性があります。60代の膝の痛みを効果的に対策する方法を、以下の5つの側面から解説します。
- 運動療法:ストレッチ・筋力トレーニング
- 装具療法:サポーター・インソール
- 薬物療法:ヒアルロン酸注射・鎮痛剤
- 生活習慣の改善
- 食事療法
運動療法:ストレッチ・筋力トレーニング
膝の痛みの改善を目指すには、膝関節周辺の筋肉を強化し、関節への負担を軽減することが重要です。適度な運動は、膝の痛みの軽減が期待できるだけでなく、全身の健康増進にもつながります。
ストレッチは、筋肉の柔軟性を高め、関節の可動域を広げる効果が期待できます。太ももの前側のストレッチは、膝を伸ばしたまま足を後ろに持ち上げることで、大腿四頭筋の柔軟性を向上させます。ふくらはぎのストレッチは、壁に手をついて片足を後ろに伸ばし、アキレス腱を伸ばすことで、ふくらはぎの筋肉の柔軟性を高めます。
筋力トレーニングは、膝関節を支える筋肉を強化し、関節の安定性を高める効果が期待できます。代表的なトレーニングとして、スクワットがあります。スクワットは、椅子に浅く腰かけるように、ゆっくりと膝を曲げ伸ばしする運動です。大腿四頭筋やハムストリングスといった膝関節周辺の筋肉を効果的に鍛えることができます。
レッグレイズという筋力トレーニングも有効です。仰向けに寝て、片足をまっすぐ上に持ち上げることで、下腹部の筋肉や股関節の柔軟性を高めることができます。ストレッチや筋力トレーニングは、無理のない範囲で行うことが大切です。痛みを感じた場合は、すぐに中止し、医師に相談してください。
装具療法:サポーター・インソール
装具療法は、サポーターやインソールを用いて膝関節を外部からサポートする治療法です。運動療法が難しい場合や、痛みが強い場合に有効です。サポーターは、膝関節を固定することで痛みや不安定感を軽減する効果があります。スポーツ用のサポーターではなく、日常生活で使えるものを選ぶようにしましょう。
サポーターの種類によっては、膝関節の動きを制限するものもありますので、ご自身の症状に合ったサポーターを選ぶことが大切です。インソールは、足底のアーチをサポートすることで、膝への負担を軽減する効果が期待できます。
市販のインソールもありますが、個々の足の形や症状に合わせたオーダーメイドのインソールを作成することで、より効果的に膝の痛みを軽減できる可能性があります。整形外科医に相談することで、適切なサポーターやインソールを選んでもらうことができます。
薬物療法:ヒアルロン酸注射・鎮痛剤
痛みが強い場合は、ヒアルロン酸注射や鎮痛剤などの薬物療法が有効な手段となる場合があります。ヒアルロン酸は、関節液の主成分であり、関節の動きをサポートする役割を担っています。加齢とともにヒアルロン酸の分泌量は減少するため、膝関節の動きが悪くなり、痛みが生じやすくなります。
ヒアルロン酸注射は、関節内にヒアルロン酸を直接注入することで、関節の動きを滑らかにし、痛みの軽減に役立つ可能性があります。鎮痛剤は、痛みを抑える薬です。炎症を抑える効果のあるものもあります。痛みを感じているときは、日常生活にも支障が出てしまうため、鎮痛剤を使用して痛みをコントロールすることは重要です。ご自身の症状に合った鎮痛剤を医師と相談の上、使用しましょう。
生活習慣の改善
日常生活の中で、膝への負担を意識的に減らす工夫をすることも、痛みの軽減に大きく貢献します。以下の4つのポイントを押さえることが重要です。
- 体重管理
体重が増加すると、膝関節への負担も増大します。適正体重を維持することで、膝への負担が軽減され、痛みの予防や軽減に役立つ可能性があります。バランスの取れた食事と適度な運動を心がけ、健康的な体重管理を行いましょう。 - 適度な運動
適度な運動は、膝周りの筋肉を強化し、関節の柔軟性を維持するのに役立ちます。ウォーキングや水中ウォーキングなど、膝への負担が少ない運動がおすすめです。無理のない範囲で、継続して行うことが大切です。 - 靴選び
靴選びも膝の痛みに影響を与えます。かかとが高すぎる靴や、足に合わない靴は、膝への負担を増大させます。クッション性があり、歩きやすい靴を選ぶようにしましょう。 - 姿勢
姿勢も膝の痛みに関係しています。猫背などの悪い姿勢は、膝への負担を増大させます。正しい姿勢を意識することで、膝への負担を軽減することができます。
食事療法
バランスの良い食事は、健康な体を維持するために重要と考えられています。以下のような膝の健康をサポートする栄養素を積極的に摂り入れることで、痛みの軽減や予防につながる可能性があります。
- コラーゲン
コラーゲンは、軟骨の主成分です。鶏肉や魚、ゼラチンなどに多く含まれています。 - グルコサミン・コンドロイチン
グルコサミンとコンドロイチンは、軟骨の構成成分です。エビやカニなどの甲殻類に多く含まれています。サプリメントとしても販売されています。 - ビタミンD
ビタミンDは、カルシウムの吸収を助ける働きがあります。魚やきのこ類、卵などに多く含まれています。
5つの対策を参考に、ご自身の状態に合った方法で膝の痛みを和らげ、快適な生活を送れるようにしましょう。
60代の膝の痛みを予防するための3つのポイント
60代の膝の痛みを予防するための3つのポイントについて、医師の視点から詳しく解説します。
- 適切な運動を継続する
- 適切な体重管理を心がける
- 早期に専門医に相談する
適度な運動を継続する
膝の痛みを予防するためには、適度な運動が重要と考えられています。特に、太ももの前側の筋肉(大腿四頭筋)を鍛えることは、膝関節の安定性を高め、負担を軽減するうえで効果的です。
具体的な運動としては、椅子に座ったまま足をまっすぐ伸ばす「レッグエクステンション」や、壁に寄りかかって行う「壁スクワット」など、自宅で簡単に行えるものから始めるのがおすすめです。水中ウォーキングも、膝への負担が少ないためおすすめです。プールの中という非日常的な空間は、気分転換にもなります。
運動を行う際には、決して無理をしないことが大切です。痛みを感じたらすぐに中止し、休憩するようにしてください。運動前には、準備運動としてストレッチを行い、筋肉や関節を温めておきましょう。入浴後など、体が温まっているときに行うのも効果的です。
日常生活の中でも、意識的に体を動かす習慣を身につけることが重要です。エレベーターやエスカレーターではなく階段を使う、短い距離でも歩くなど、日常生活の中で「運動する機会」を積極的に作っていきましょう。
適切な体重管理を心がける
体重管理は、膝の痛みを予防するうえで重要な要素です。体重が増加すると、膝関節への負担が大きくなり、軟骨のすり減りが加速する可能性があります。変形性膝関節症は、体重増加が大きなリスク要因の一つです。
健康的な体重を維持するためには、バランスの取れた食事と適度な運動が重要と考えられています。1日の摂取カロリーと消費カロリーを把握し、必要に応じて食事内容や運動量を調整しましょう。具体的な目標を設定することで、モチベーションを維持しやすくなります。
早期に専門医に相談する
膝の痛みを軽視して放置すると、症状が悪化し、日常生活に大きな支障をきたす可能性があります。以下のような症状が現れた場合は、すぐに専門医に相談することが重要です。
- 安静にしていても痛む
- 膝に腫れや熱感がある
- 階段の昇り降りが困難になる
整形外科を受診すると、医師による問診や視診、触診、画像検査(レントゲン検査など)などを通して、痛みの原因を詳しく調べることができます。痛みの原因が特定できれば、適切な治療を受けることができます。
自己判断で市販薬を使用したり、民間療法に頼ったりするのではなく、専門家の適切なアドバイスを受けることが大切です。
まとめ
60代の膝の痛みは、加齢による軟骨のすり減りや靭帯の衰えなどが原因で起こることが多く、変形性膝関節症や半月板損傷などが代表的な疾患です。膝の痛みを和らげる対策として、以下のような方法が考えられます。
- 運動療法
- 装具療法
- 薬物療法
- 生活習慣の改善
- 食事療法
膝の痛みを予防するには、適度な運動の継続や適切な体重管理、早期に専門医に相談することが大切です。医師と相談しながらさまざまな対策を行い、快適な日常生活を送れるようにしましょう。
参考文献
Vicky Duong, Win Min Oo, Changhai Ding, Adam G Culvenor, David J Hunter. Evaluation and Treatment of Knee Pain: A Review. JAMA, 2023, 330(16), p.1568-1580