- 2025年3月9日
変形性膝関節症を自力で治すことはできる?専門医が教える効果的なケア方法
膝の痛みは、年齢だけが原因ではなく、変形性膝関節症の初期症状の可能性があります。軟骨がすり減り、骨同士がぶつかり合うことで、階段の上り下りや立ち上がり時に痛みを感じ、進行すると安静時でも痛みが発生する可能性があります。
変形性膝関節症を自力で治すことは難しいですが、症状の改善や進行の抑制は可能です。この記事では、変形性膝関節症を自力でケアする方法と専門医による効果的なケア方法まで、幅広く解説します。膝の痛みを我慢せず、快適な日常生活を取り戻す第一歩を踏み出しましょう。
変形性膝関節症を自力でケアする方法4選
変形性膝関節症は、軟骨がすり減ってしまう疾患です。自然に元の状態に戻ることは、一般的に難しいとされています。軟骨は、骨と骨の間のクッション材の役割を果たしていて、すり減ると骨同士がぶつかり合い、炎症や痛みを引き起こします。
変形性膝関節症を自力で治すことは難しいですが、適切なケアを続けることで、痛みを和らげ、進行を遅らせられる可能性があります。下記で紹介する4つのケア方法を参考にしてみてください。
- 運動療法で筋肉を鍛え膝をサポートする
- ストレッチで柔軟性を高め痛みを軽減する
- 生活習慣の改善で膝への負担を減らす
- サポーター着用で膝関節を安定させる
改善が見られない、痛みが強い場合は、専門医に相談することをおすすめします。
運動療法で筋肉を鍛え膝をサポートする
変形性膝関節症のケアで最も大切なのが、膝周りの筋肉を鍛えることです。特に、太ももの前の筋肉である大腿四頭筋(だいたいしとうきん)は、膝を支える重要な役割を担っています。大腿四頭筋が弱ると、膝への負担が増し、痛みが悪化しやすくなるのです。以下、自宅で簡単にできる運動療法を3つご紹介します。
- 椅子に座って足を上げる
椅子に浅く腰掛け、片足をまっすぐ前に伸ばし、10秒間キープします。その後、ゆっくりと足を下ろします。これを左右10回ずつ繰り返しましょう。ポイントは、足を上げるときに膝が伸びていることを意識することです。 - つま先立ち
壁などに手を添え、ゆっくりとつま先立ちになります。数秒間キープしたら、ゆっくりとかかとを下ろします。これを10回繰り返しましょう。ふくらはぎの筋肉も鍛えられ、膝の安定性向上につながります。 - ウォーキング
無理のない範囲で、1日30分程度のウォーキングを心がけましょう。平坦な道を選び、背筋を伸ばし、顎を引いた正しい姿勢で歩くことが大切です。猫背にならないように注意しましょう。
これらの運動は、膝への負担が少なく、変形性膝関節症の方に適しています。運動療法は、毎日少しずつでも続けることで、膝周りの筋肉が鍛えられ、痛みの軽減につながる可能性があります。プールでの水中運動も、浮力によって膝への負担が少ないため効果的です。ただし、痛みを感じる場合は無理せず中止し、医師に相談しましょう。
ストレッチで柔軟性を高め痛みを軽減する
ストレッチは、筋肉や関節の柔軟性を高めることで膝への負担を軽減し、痛みを和らげる効果があります。以下、おすすめのストレッチを2つご紹介します。
- 太ももの前側のストレッチ
立った状態で、片方の足を後ろに曲げ、手で足首を掴みます。太ももの前側に伸びを感じながら、20~30秒間キープしましょう。反対側も同様に行います。バランスを崩しやすい場合は、壁や椅子に掴まりながら行いましょう。 - 太もも裏側のストレッチ
床に座り、片方の足を伸ばし、もう片方の足は軽く曲げます。伸ばした足の方へ上体を倒し、太もも裏側に伸びを感じながら、20〜30秒間キープします。腰が丸まらないように注意しましょう。
ストレッチは、お風呂上がりなど体が温まっているときに行うと、筋肉がリラックスしているためより効果的です。毎日継続して行うことで、筋肉の柔軟性が向上し、膝関節の動きがスムーズになります。血行が促進され、むくみや冷えの改善にもつながります。痛みを感じる場合は無理をせず、医師や専門家に相談することをおすすめします。
生活習慣の改善で膝への負担を減らす
変形性膝関節症のケアには、運動やストレッチだけでなく、日常生活の改善も重要です。肥満は膝への負担を大きく増加させるため、適切な体重管理が不可欠です。体重が増えると、膝への負担は数倍にもなると言われています。
体重管理に加えて、日常生活の中で膝への負担を減らす工夫も大切です。和式トイレではなく洋式トイレを使用する、椅子に座る際は深く腰掛けすぎない、正座を避けるなど、小さな工夫を積み重ねることで、膝への負担を軽減できます。
生活環境を洋式に変えることも効果的です。ベッドでの寝起きや、テーブルと椅子を使用した食事スタイルの導入により、膝関節への負担を軽減できます。適度な運動も重要ですが、膝に負担のかかる運動は避け、水泳や軽いウォーキングなどの低負荷の運動を選びましょう。日常的に実践することで、変形性膝関節症の症状改善や進行予防につながります。
サポーター着用で膝関節を安定させる
膝サポーターは、膝関節を安定させ、痛みの軽減に役立ちます。サポーターの種類は、さまざまです。変形性膝関節症の方には、膝のお皿の下を支えるタイプのサポーターがおすすめです。サポーターは、ドラッグストアやスポーツ用品店などで購入できます。自分に合ったサポーターを選ぶことが大切です。
締め付けすぎると血行が悪くなる可能性があるので、適切なサイズを選びましょう。適切なサポーターを選ぶことで、膝の安定性や日常生活での動作が楽になり、痛みを軽減する効果も期待できます。サポーターは、あくまで補助的な役割を果たすものです。根本的な治療にはなりません。サポーターに頼りすぎることなく、運動療法やストレッチ、生活習慣の改善などを総合的に行うことが大切です。
変形性膝関節症の症状について
変形性膝関節症は、加齢とともに罹患率が高まる病気であり、適切な理解と対策が重要です。膝関節のクッション材である軟骨がすり減り、骨と骨が直接ぶつかり合うことで炎症や痛みを引き起こします。初期のうちは、日常生活に大きな支障がないため対処が遅れがちですが、症状が進行すると痛みが増し、歩行が困難になる場合があります。
変形性膝関節症の症状は、初期・中期・末期の3段階に分けられます。以下を参考に、ご自身の症状がどの段階に当てはまるか、確認しましょう。
- 初期症状:歩き始めの痛みや違和感
- 中期症状:階段昇降時の痛み・正座が困難
- 末期症状:安静時でも痛む・変形による歩行困難
症状に気づいたら、早めに専門医に相談することをおすすめします。
初期症状:歩き始めの痛みや違和感
初期症状では、歩き始めや立ち上がり時に膝に軽い痛みや違和感を感じます。朝起きたときや、しばらく椅子に座っていた後に立ち上がろうとした際に、膝に軽い痛みを感じる程度です。この痛みは、しばらく歩いているうちに軽減することが特徴です。
階段の上り下りや正座をするときに、違和感や軽い痛みを覚えることもあります。正座時の軽い痛みや違和感、長時間歩いた後の軽い痛み、膝の軽い違和感やこわばりなど、初期症状は一時的なものとして見過ごされがちです。初期の段階では、レントゲン検査でも異常が見られない場合もあります。
この時期は、自覚症状が乏しく、日常生活にもほとんど支障がないため、放置してしまう方が多くいます。初期症状の段階で適切なケアを始めると、症状の進行を遅らせることができます。少しでも痛みを感じたら、ストレッチや軽い運動などの適切なケアを取り入れ、専門医に相談することをおすすめします。
中期症状:階段昇降時の痛み・正座が困難
中期症状は、初期に比べて痛みが増強し、日常生活にも支障が出始めます。立ち上がるときだけでなく、常に膝が痛む状態や、階段の上り下りがつらくなる状況が見られます。特に、階段の昇降や正座が困難になることが多く、膝の腫れや水が溜まる関節水腫(かんせつすいしゅ)といった症状も現れるようになります。
その他、膝を曲げ伸ばしにくくなりスムーズに歩けなくなったり、膝がカクカクして音が鳴ったり、長時間立っているのがつらくなります。中期になると、痛みのために日常生活に支障をきたすようになります。医療機関を受診し、適切な治療を受けることが重要です。医師の指示に従って、運動療法や薬物療法、注射療法などを適切に組み合わせることで、症状の改善を図りましょう。
末期症状:安静時でも痛む・変形による歩行困難
末期症状では、安静にしていても膝に強い痛みを感じるようになります。軟骨がほとんどすり減ってしまい、骨同士が直接摩擦を起こしているためです。膝の変形も顕著になり、O脚やX脚に変形することもあります。
歩行が困難になり、杖や歩行器が必要になる場合や夜間に痛みで目が覚めるようになり睡眠不足に悩まされるなど、日常生活の質は著しく低下します。痛みを軽減し、再び自分の足で歩けるようにするためには、手術療法が必要になるケースも少なくありません。
人工関節置換術は、末期の変形性膝関節症に対して有効な手術法の一つです。変形性膝関節症の進行は患者さん一人ひとり異なり、生活習慣や体質なども影響します。早期の適切なケアや治療で進行を遅らせ、症状を和らげることができる可能性があります。少しでも気になる症状があれば、我慢せずに医療機関に相談しましょう。
専門家による治療法と最新情報
自己ケアで十分な改善が見られない場合や、症状が気になる場合は、専門医への相談をおすすめします。以下、保存療法、手術療法、そして最新の再生医療について解説します。それぞれの治療法にはメリット・デメリットがありますので、ご自身の症状や生活スタイル、将来設計などを考慮し、医師とよく相談しながら最適な治療法を選択することが重要です。
保存療法:薬物療法・注射・装具療法
保存療法とは、手術を行わずに痛みや炎症を抑え、膝関節の機能を維持・改善するための治療法です。具体的には、薬物療法や注射療法、装具療法などがあります。これらの治療法は、単独で行われることもありますが、組み合わせて行われる場合が多いです。
薬物療法は、痛みや炎症を抑える薬を内服または外用します。内服薬としては、痛み止めや炎症を抑える薬などがあり、外用薬としては、湿布や塗り薬などがあります。薬物療法は、比較的簡単に始められるというメリットがありますが、副作用が生じる可能性もあるため、医師の指示に従って服用することが大切です。
注射療法は、ヒアルロン酸などを膝関節内に注射します。ヒアルロン酸は、関節液の主成分であり、関節の動きを滑らかにする潤滑油の役割を果たします。変形性膝関節症では、ヒアルロン酸が減少していることが多いため、注射によって補うことで痛みを軽減し、関節の動きをスムーズにする効果が期待できるためです。注射療法は、効果の持続期間に個人差があるため、定期的な注射が必要となる場合があります。
装具療法は、膝サポーターや装具を装着して膝関節を保護・安定させます。装具療法は、日常生活での活動や運動時に装着することで、膝関節への負担を軽減し、症状の悪化を防ぎます。サポーターは、ドラッグストアなどでも手軽に購入できますが、症状に合った適切なサポーターを選ぶことが重要です。医師や理学療法士に相談しながら、自分に合ったサポーターを選びましょう。
手術療法:人工関節置換術・高位脛骨骨切り術
保存療法で十分な効果が得られない場合や、症状が進行している場合は、手術療法が検討されます。手術療法には、人工関節置換術(じんこうかんせつちかんじゅつ)と高位脛骨骨切り術(こういけいこつこつきりじゅつ)などがあります。
人工関節置換術は、損傷した関節を人工関節に置き換える手術です。変形性膝関節症が進行し、日常生活に支障が出るほど痛みが強い場合に有効な治療法です。痛みが軽減され、日常生活の活動性が向上することが期待できます。手術に伴うリスクや合併症の可能性も存在するため、医師と十分に相談し、手術のメリット・デメリットを理解したうえで決定することが重要です。
高位脛骨骨切り術は、脛骨(すねの骨)を切って角度を変え、膝への負担を軽減する手術です。比較的若い患者さんや人工関節に抵抗がある患者さんに適しており、膝関節の変形を矯正することで、体重のかかり方を調整し、痛みを軽減する効果があります。人工関節置換術に比べて、自分の関節を温存できるというメリットがありますが、適応となる患者さんは限られます。
最新の再生医療:PRP療法・幹細胞治療
再生医療は、変形性膝関節症の新しい治療法として注目されています。代表的なものとして、PRP療法と幹細胞治療があります。PRP療法は、患者さん自身の血液から血小板を多く含むPRP(血漿:けっしょう)を抽出し、膝関節に注射する治療法です。比較的新しい治療法であり、その効果や安全性については、まだ十分に解明されていない部分もあります。
幹細胞治療は、患者さん自身の脂肪組織や骨髄などから幹細胞を採取し、培養して膝関節に注射する治療法です。幹細胞は、さまざまな細胞に分化する能力を持つため、損傷した軟骨の再生を促進する効果が期待できます。幹細胞治療も、まだ研究段階であり、効果や安全性、長期的な影響については、さらなる研究が必要です。
患者さんの症状や年齢、生活スタイルなどによって、選択する治療法は異なります。それぞれの治療法にはメリット・デメリットがあるため、医師とよく相談し、ご自身にとって最適な治療法を選択することが大切です。
まとめ
変形性膝関節症への対応として、自分の膝の状態を把握することが大切です。膝の痛みに悩んでいる方は、初期・中期・末期の症状を見比べて、ご自身の状態を把握するところから始めてみましょう。症状に合った適切なケアを実践することが大切です。自宅でできる運動療法やストレッチは、症状の進行を遅らせるのに効果的です。
自己流ケアで改善が見られない場合や、痛みが強い場合は、迷わず専門医に相談しましょう。専門家の適切な診断と指導を受けることで、症状の悪化を防ぎ、より快適な日常生活を送ることができます。
参考文献
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