- 2025年3月9日
変形性膝関節症の手術による改善効果と適切な治療選択のポイント
変形性膝関節症は、あなたの日常生活を大きく阻害する悩みの種ではないでしょうか?日本では実に2500万人以上が変形性膝関節症に悩まされているというデータも存在します。手術は最終的な手段ではなく、痛みから解放されるための選択肢の一つです。
本記事では、手術の選択肢や効果、手術を選ぶポイントを解説します。変形性膝関節症の手術には複数の選択肢があり、症状の程度や患者さんの年齢などによって、適切な手術方法が異なります。記事の内容を参考に、自分に合った治療法を選びましょう。
変形性膝関節症における手術の選択肢4選
変形性膝関節症は、歩行時の痛みや階段の上り下りの困難さ、正座ができないなど、日常生活動作に支障をきたすことがある疾患です。多くの患者さんにとって、生活の質に影響を与える要因です。
保存的治療で効果が得られず、日常生活に支障をきたすほどの痛みを抱えている場合、手術を選択する価値は大いにあります。変形性膝関節症の主な手術の選択肢は、以下のとおりです。
- 人工膝関節置換術(TKA)
- 高位脛骨骨切り術(HTO)
- 関節鏡視下手術
- 人工膝関節単顆置換術(UKA)
人工膝関節置換術(TKA)
人工膝関節置換術(TKA)は、傷んでしまった膝関節の表面を人工関節に置き換える手術です。傷んだ軟骨や骨を削り、金属やプラスチックでできた人工関節を埋め込みます。60歳以上の方で、他の治療法で痛みが改善しない重度の変形性膝関節症の方におすすめです。2024年の研究でも保存的治療に反応しない高度の膝関節症を患い、活動に伴う痛みと機能制限を経験している患者さんや60歳以上の患者さんに有効であるとされています。
TKAのメリットは、痛みの軽減が期待できる点です。手術後、早期からリハビリを開始することで、多くの患者さんが歩行や日常生活の動作が楽になる傾向があります。デメリットは、人工関節の寿命により将来的な再手術の可能性があることです。感染症などの合併症のリスクもゼロではないため、医師とよく相談することが重要です。
高位脛骨骨切り術(HTO)
高位脛骨骨切り術(HTO)は、膝の骨を切って変形を矯正する手術です。O脚によって膝の内側に負担がかかり、痛みが生じている場合に有効です。比較的若い40代〜60代で仕事やスポーツを続けたい活動的な方に適しています。
HTOのメリットは、自分の骨を残せるため人工関節のように寿命を気にする必要がなくスポーツなどの激しい運動も可能な点です。一方でHTOのデメリットとして、術後の痛みや腫れが挙げられます。骨を切る手術であるため、回復にもある程度の期間がかかることもデメリットの1つです。骨が完全に治癒するまでは日常生活に制限が生じる可能性があります。
関節鏡視下手術
関節鏡視下手術は、内視鏡を用いて関節内を直接観察しながら行う手術です。小さな傷で手術ができるため体への負担が少ないのが特徴です。初期の変形性膝関節症で半月板や軟骨が部分的に損傷している場合に適応できます。
関節鏡視下手術では、損傷した半月板や軟骨の一部を取り除き炎症を起こしている滑膜を切除します。関節内の炎症を取り除くことで、一部の患者さんでは一時的な痛みの軽減が期待できる場合があります。一方で、関節鏡視下手術は変形を治す手術ではないため、根本的な解決にはなりません。進行した変形性膝関節症の場合は他の手術を選択する必要があります。
人工膝関節単顆置換術(UKA)
人工膝関節単顆置換術(UKA)は人工膝関節置換術の一種ですが、膝関節全体ではなく傷んでいる部分だけを人工関節に置き換える手術です。膝の内側や外側のどちらか一方だけが損傷している場合に適応となります。
UKAは、手術部位が小さく術後の回復が早いことが特徴です。膝の曲げ伸ばしも比較的スムーズになります。UKAは変形が軽度から中等度で、特定の条件を満たす場合にのみ実施されます。
変形性膝関節症の手術を選択するポイント
階段の上り下りや立ち上がるときなど体重がかかるとズキズキと痛む場合は変形性膝関節症が進行している可能性があります。手術を受けることは、痛みから解放され、活動的な生活を取り戻すための大切な選択肢の一つです。
手術を選択する際のポイントは、以下のとおりです。
- どの手術方法が自分に合っているか
- 手術のメリット・デメリット
- 手術を受ける医療機関の選び方
どの手術方法が自分に合っているか
変形性膝関節症の手術は、大きく分けて人工膝関節置換術や高位脛骨骨切り術、関節鏡視下手術、人工膝関節単顆置換術の4種類です。他にも近年ではロボット支援手術やナビゲーションシステムを用いた手術など精密な手術も可能になってきています。どの手術方法が適切かは変形性膝関節症の進行度や年齢、活動レベル、痛みの程度によって異なります。
患者さん一人ひとりの状態に合わせて最適な手術方法を選択することが重要です。どの手術方法が自分に合っているのか、医師と相談し納得したうえで手術を受けましょう。
手術のメリット・デメリット
手術には、メリットとデメリットの両方が存在します。メリットとデメリットを理解したうえで手術を受けるかどうかを判断することが大切です。
手術のメリットとしては、痛みが軽減されることが挙げられます。変形性膝関節症の痛みは日常生活動作に大きな支障をきたすだけでなく精神的な負担も大きいものです。手術によって痛みが軽減されれば、日常生活が楽になるだけでなく、精神的な負担も軽減されます。膝の機能が回復することでスポーツや趣味などを楽しめるようになることもあります。
手術のデメリットは、感染症や出血、神経損傷、血栓症などです。リハビリテーションに時間がかかる場合や、手術後も完全に痛みがなくならない場合もあります。手術を受けるかどうかはメリットとデメリットを比較検討し最終的には患者さん自身が決定することが必要です。医師は、患者さんの状態や希望を考慮しながら最適な治療法を提案します。疑問や不安があれば遠慮なく医師に相談しましょう。
手術を受ける医療機関の選び方
変形性膝関節症の手術は、高度な技術と経験を要する手術であるため、手術の実績が豊富な医療機関を選びましょう。経験豊富な医師が在籍している医療機関であれば専門的な知識と技術にもとづいた治療を受けられます。
リハビリテーションは手術後の回復に欠かせません。リハビリテーション設備が充実している医療機関を選ぶことでスムーズな回復が期待できます。セカンドオピニオンを活用することで複数の医師の意見を聞くことができます。信頼できる医師とよく相談し納得のいくまで説明を受けてから手術を受けましょう。
手術の効果
変形性膝関節症の手術がもたらす効果は、以下のとおりです。
- 痛みや腫れの軽減効果
- 関節可動域の改善効果
- 歩行能力や日常生活動作の改善効果
痛みや腫れの軽減効果
変形性膝関節症の代表的な症状である痛みや腫れは関節内の炎症や軟骨の損傷、骨棘(こっきょく)の形成などによって引き起こされます。骨棘とは、関節面の軟骨が肥大増殖し、次第に固くなって「とげ」のようになった状態です。手術によって原因を取り除くことで痛みや腫れの軽減が期待できます。それぞれの効果は、以下の表のとおりです。
手術名 | 効果 |
人工膝関節置換術 | 損傷した関節面を人工関節に置き換えることで、炎症の発生源を取り除きます。 |
高位脛骨骨切り術 | 骨の軸を矯正することで、異常な負荷がかかっていた関節面への負担を軽減し、痛みを和らげます。 |
関節鏡視下手術 | 炎症を起こしている滑膜や損傷した半月板などを切除することで、関節内の炎症を抑え、痛みや腫れを軽減します。 |
人工膝関節単顆置換術 | 痛みを軽減し、可動域を改善します。低侵襲で回復が早く、生活の質向上や骨の温存が可能です。 |
手術の種類によって効果の発現速度や持続期間は異なりますが、多くの場合、術後すぐに痛みが軽減し始め、日常生活が楽になります。
関節可動域の改善効果
手術によって関節可動域の改善が期待できます。手術によって期待できる改善は、以下の表のとおりです。
手術名 | 期待できる改善 |
人工膝関節置換術 | 人工関節によってスムーズな関節運動が可能になります。 |
高位脛骨骨切り術 | 骨の軸を矯正することで、関節にかかる負担を軽減し、可動域の改善を促します。 |
関節鏡視下手術 | 関節内の癒着や滑膜の肥厚などを取り除くことで、関節の動きをスムーズにします。 |
人工膝関節単顆置換術 | 関節の損傷部分のみを置換することで、膝の自然な動きを維持しやすくなります。 |
歩行能力や日常生活動作の改善効果
変形性膝関節症による膝の痛みや可動域制限は、歩行能力や日常生活動作に大きな影響を及ぼします。手術によって症状が改善すると、歩行が楽になったり、階段の昇降や立ち上がりなどの動作がスムーズに行えるようになったりします。
人工膝関節置換術は、歩行能力や日常生活動作の改善に効果的であり、多くの患者さんが術後に活動的な生活を取り戻しています。高位脛骨骨切り術も効果的ですが、骨の癒合に時間を要するため、日常生活への復帰には少し時間がかかります。関節鏡視下手術は、初期の変形性膝関節症に対しては効果的ですが、進行した変形性膝関節症には効果が限定的です。
まとめ
手術は最終手段ではなく痛みから解放され活動的な人生を取り戻すための有効な手段です。ご自身の状態や生活スタイル、将来の活動レベルに合った最適な手術方法を選びましょう。医師に相談し、納得したうえで手術を受けることが重要です。
手術によって、痛みの軽減や関節可動域の改善、歩行能力、日常生活動作の改善といった効果が期待できます。日ごろの膝の痛みが和らぐことで、QOL(生活の質)の向上につながり充実した毎日を送ることも期待できます。適切な治療を選び、前向きな人生を取り戻す手段として、手術を検討しましょう。
参考文献
- Siri Heijbel, Annette W-Dahl, Josefine E-Naili, Margareta Hedström. Patient-Reported Anxiety or Depression Increased the Risk of Dissatisfaction Despite Improvement in Pain or Function Following Total Knee Arthroplasty: A Swedish Register-Based Observational Study of 8,745 Patients. The Journal of Arthroplasty, 2024, 39(11), p.2708-2713.
- T Tampere, N Arnout, J Victor. Total knee arthroplasty: The need for better patient selection. Knee Surgery & Related Research, 2025, 33(3), p.784-788.
- Noriko Yoshimura, Shigeyuki Muraki, Hiroyuki Oka, Akihiko Mabuchi, Yoshio En-Yo, Munehito Yoshida, Akihiko Saika, Hideyo Yoshida, Takao Suzuki, Seizo Yamamoto, Hideaki Ishibashi, Hiroshi Kawaguchi, Kozo Nakamura, Toru Akune. Prevalence of knee osteoarthritis, lumbar spondylosis, and osteoporosis in Japanese men and women: the research on osteoarthritis/osteoporosis against disability study. Journal of Bone and Mineral Metabolism, 2009, 27(5), p.620-628.