- 2025年3月9日
変形性膝関節症でしてはいけない運動と関節負担を減らす工夫
変形性膝関節症は、階段の上り下りや日常の動作さえも困難になる場合があります。体重が増加すると、膝への負担はさらに大きくなるため注意が必要です。適切な運動習慣と生活様式の改善を行うことで、症状の進行を抑え、生活の質を向上させることが期待できます。
この記事では、変形性膝関節症の方が避けるべき運動5選と推奨される運動4選、関節負担を軽減する工夫7選を解説します。膝の痛みから解放され、快適な日常生活を取り戻すためのヒントにしてください。
変形性膝関節症で避けるべき運動5選
変形性膝関節症になると、膝の痛みや違和感から、以前のように運動ができなくなる可能性があります。症状によっては運動を控える必要がありますが、すべての運動がNGなわけではありません。適切な運動は膝関節の安定性向上や痛みの軽減に役立ちます。
重要なのは、ご自身の膝の状態を理解し、避けるべき運動と推奨される運動を正しく見分けることです。変形性膝関節症の方が避けるべき運動5選を紹介します。
- 膝への衝撃が強い運動(ランニングやジャンプなど)
- 急な方向転換を伴う運動(スキーやバスケットボールなど)
- 膝を大きく曲げる動作(深くしゃがむ、正座など)
- 膝に負担がかかる動作の繰り返し(頻繁に立ち上がる動作など)
- 痛みを感じているときの運動
膝への衝撃が強い運動(ランニングやジャンプなど)
変形性膝関節症の方にとって、ランニングやジャンプなど膝に強い衝撃が加わる運動は避けるべきです。着地のたびに体重の数倍もの負荷が膝にかかり、すり減った軟骨をさらに傷つける可能性があります。
体重60kgの人がジョギングをする際、片足に約180kgもの負荷がかかります。健康な膝でも負担がかかる数値ですが、変形性膝関節症で軟骨がすり減っている膝には過剰な負担です。炎症の悪化や痛みの増強につながる恐れがあります。
バスケットボールやバレーボールのジャンプ動作にも注意が必要です。着地の衝撃は膝関節に深刻なダメージを与える可能性があります。変形性膝関節症の方は、高衝撃の運動を避け、膝への負担が少ない運動を選択することが重要です。
急な方向転換を伴う運動(スキーやバスケットボールなど)
変形性膝関節症の方は、急な方向転換を伴う運動を避けましょう。スキーやバスケットボールなどのスポーツは、膝関節にねじれの力が加わりやすく、靭帯(じんたい)や半月板を損傷するリスクを高めるため注意が必要です。
スキーは、斜面を滑り降りる際に膝に大きな負担がかかり、転倒のリスクも伴います。バスケットボールも、素早い方向転換やジャンプ動作が多く含まれるため、膝への負担が大きくなります。
急な方向転換を伴う運動は、膝関節への負担を増大させ、変形性膝関節症の症状を悪化させる可能性があり注意が必要です。急激な方向転換や着地の衝撃は、すでに弱っている軟骨や靭帯にさらなるダメージを与える恐れがあります。変形性膝関節症の方は、膝への負担が少ない運動を選択することが重要です。
膝を大きく曲げる動作(深くしゃがむ、正座など)
膝を大きく曲げる動作も、変形性膝関節症の方は避けてください。深くしゃがんだり、正座をしたりすることで、膝関節の隙間が狭まるためです。軟骨同士が強くこすれ合うことで炎症を悪化させ、痛みを増強させる原因になります。
正座は日本の伝統的な生活様式に根付いていますが、変形性膝関節症にとっては大きな負担になります。布団で寝る、床に座るといった習慣も、膝を深く曲げる動作を伴います。椅子やベッドを使う、和式トイレも膝への負担が大きいため、洋式トイレへ切り替えるなど、生活様式の変更をおすすめします。
日常生活の中で、膝を深く曲げる動作を意識的に減らすようにしましょう。
膝に負担がかかる動作の繰り返し(頻繁に立ち上がる動作など)
日常生活の中で、一見軽い動作でも繰り返すことによって、膝への負担は蓄積されます。椅子から立ち上がる動作には、体重を支えるために膝関節に大きな力が加わり、軟骨がすり減る可能性があり注意が必要です。
階段の上り下りでは、一段上がると体重の約3倍、一段降りると約6倍もの負荷が膝にかかります。膝に負荷がかかる動作を繰り返すことで、膝の軟骨や半月板に徐々にダメージが蓄積され、変形性膝関節症などの慢性的な問題につながる可能性があります。
加齢や体重増加は膝への負担が増大しやすく注意が必要な状態です。日常生活の動作を完全に避けることは難しいですが、手すりを使う、動作をゆっくり行うなど、膝への負担を軽減する工夫を意識的に行いましょう。
痛みを感じているときの運動
運動中に膝に痛みを感じた場合は、すぐに運動を中断してください。痛みは体からの重要なサインであり、無理に運動を続けると症状を悪化させる可能性があります。痛みによって正しい姿勢や動作が維持できず、他の部位に負担がかかるためです。炎症が慢性化し、変形性膝関節症の進行を早める可能性があります。
適切な治療や休養を経て、痛みが軽減してから徐々に運動を再開することが望ましいです。痛みを感じたら安静にし、痛みが続くようであれば医療機関を受診しましょう。自己判断で痛み止めを服用して運動を続けることは避け、専門家の適切なアドバイスを受けることが大切です。
変形性膝関節症におすすめの運動4選
変形性膝関節症の場合、適切な運動は症状の改善に重要です。適切な運動は、痛みを和らげ、膝の動きをスムーズにする効果が期待でき、心の健康や生活の質の向上にもつながる可能性があります。変形性膝関節症におすすめの運動は以下のとおりです。
- ウォーキングなどの有酸素運動
- 水泳などの水中運動
- 太ももの筋肉を鍛える筋力トレーニング
- ヨガやストレッチなどの柔軟性を高める運動
ウォーキングなどの有酸素運動
ウォーキングは特別な道具も必要なく、手軽に始められる有酸素運動です。膝への負担も比較的軽く、変形性膝関節症の方にもおすすめです。最初から長い距離を歩いたり、速いペースで歩いたりすると、膝を痛めてしまう可能性があります。ご自身のペースを守ることが大切です。
健康な方であれば、ウォーキングは心肺機能の向上や体力維持に効果的です。変形性膝関節症の方は、痛みや炎症の悪化を防ぐために、以下の点に注意しながら行う必要があります。
ウォーキングのポイント | 説明 |
時間 | 最初は10分程度から始め、徐々に時間を延ばします。30分を目標にしましょう。 |
頻度 | 週に3回程度を目安に、無理のない範囲で行いましょう。毎日行う必要はありません。 |
ペース | 少し息が弾む程度のペースが適切です。会話ができる程度のペースを維持しましょう。 |
場所 | 平坦な道や公園など、歩きやすい場所を選びましょう。段差や坂道は避け、舗装された道を歩くのがおすすめです。 |
服装 | 動きやすい服装と歩きやすい靴を選びましょう。靴はクッション性の高いものを選び、サイズが合っているか確認しましょう。 |
その他 | 痛みを感じたらすぐに中止しましょう。無理は禁物です。 |
ウォーキング中は、正しい姿勢を保つことも大切です。背筋を伸ばし、目線は前方に向けて歩きましょう。歩幅は小さく、かかとから着地するように意識すると、膝への負担を軽減できます。
水泳などの水中運動
水中は浮力によって体重が支えられるため、膝への負担が軽減され、変形性膝関節症の方におすすめの運動です。陸上での運動が難しい方でも、水中運動であれば比較的楽に行えます。
水中では、体重が約10分の1に軽減されるため、膝関節への負担を最小限に抑えながら運動できます。水中ウォーキングや水中エアロビクスなど、さまざまな水中運動があります。自分に合った運動を見つけてみましょう。
プールで行う水中運動は、水の抵抗を利用して筋力トレーニングを行え、膝関節の安定性を高める効果も期待できます。水温にも気を配り、冷えすぎないように注意しましょう。
太ももの筋肉を鍛える筋力トレーニング
膝関節を支える重要な役割を担っている太ももの筋肉(大腿四頭筋:だいたいしとうきん)を鍛えることで、膝関節の安定性が高まり、痛みを軽減する効果が期待できます。
大腿四頭筋は、膝を伸ばすときに働く筋肉で、弱くなると膝関節の負担が増加し、痛みや不安定感を引き起こす可能性があります。自宅で簡単に行えるレッグエクステンションやスクワットなど、さまざまな筋力トレーニングがありますので、以下の点に注意しながら行いましょう。
筋力トレーニングのポイント | 説明 |
回数 | 1日に100回を目標に行います。最初は少ない回数から始め、徐々に増やしましょう。 |
セット数 | 数回に分けて行いましょう。一度にたくさん行うのではなく、休憩を挟みながら行うことが大切です。 |
頻度 | 毎日続ける必要はなく、週に数回でも効果があります。無理のない範囲で続けましょう。 |
その他 | 痛みを感じない範囲で行いましょう。痛みが出た場合は、すぐに中止してください。 |
無理のない範囲で、徐々に運動量を増やしていきましょう。適切な負荷設定は、主治医や理学療法士に相談してください。
ヨガやストレッチなどの柔軟性を高める運動
ヨガやストレッチなどの柔軟性を高める運動は、筋肉の緊張をほぐし、関節の可動域を広げる効果があります。ヨガやストレッチは、自宅でも簡単に行えます。
お風呂上がりなど、体が温まっているときに行うとより効果的です。呼吸を意識しながら、ゆっくりとした動作で行いましょう。無理に伸ばすと怪我をする可能性があるので、痛みを感じない範囲で行うことが大切です。
適切な運動は、変形性膝関節症の症状の緩和や進行の抑制に役立つ可能性があります。自分に合った運動を見つけ、無理なく継続することで、より快適な日常生活を送りましょう。
運動療法は、薬物療法と並行して行うことが推奨されます。ご自身の症状や体力に合った運動プログラムを作成するために、医師や理学療法士に相談してください。
変形性膝関節症における関節負担を減らす工夫7選
変形性膝関節症の痛みにより、立ち上がったり、歩いたり、階段を上り下りしたりするなどの日常動作が困難になることがあります。進行すると、安静時にも痛みを感じるようになり、夜も眠れないほどの激痛に悩まされる方も少なくありません。
適切な対策を講じることで、進行を遅らせ、痛みを軽減し、生活の質を向上させることが可能です。変形性膝関節症における関節負担を減らす工夫は以下のとおりです。
- 適正体重の維持
- 洋式生活への切り替え(椅子、ベッドの使用)
- 杖や歩行補助具の使用
- 靴の選び方(クッション性、サイズ)
- サポーターの着用
- 膝を温める
- 日常生活での姿勢や動作の改善
今日からでも、すぐに始められるものばかりです。日常生活に取り入れて、少しでも快適に過ごせるようにしましょう。
適正体重の維持
体重と膝への負担は密接に関係しています。体重が増加すると、膝にかかる負担が増え、軟骨のすり減りが進行するため注意が必要です。階段の上り下りでは、体重の約3倍の負荷が膝にかかります。適正体重を維持することは、変形性膝関節症の予防と進行抑制に効果的です。
バランスの取れた食事と適度な運動を心がけ、健康的な体重管理を行いましょう。過度なダイエットは、かえって体に負担がかかり、逆効果になるため、医師や栄養士に相談しながら進めることが大切です。適切な指導のもと、長期的な視点で体重管理に取り組むことをおすすめします。
洋式生活への切り替え(椅子、ベッドの使用)
日本の伝統的な生活様式は、膝を深く曲げる動作を伴い、変形性膝関節症の方にとっては大きな負担となります。正座や和式トイレの使用、床に座るといった動作は、膝関節内部の圧力を高め、炎症を悪化させる可能性があります。
洋式の椅子やベッド、洋式トイレを使用することで、膝への負担を軽減することができます。椅子に座る際は、膝の角度が90度になるように調整し、長時間同じ姿勢を続けないように心がけましょう。立ったり座ったりする際には、肘掛けや手すりなどを利用して、膝への負担を軽減することも有効です。
和室でも低めの椅子やクッションを活用することで、正座を避けつつ和の雰囲気を楽しむことができます。日常生活の中で、膝への負担を意識的に減らす工夫を取り入れることが重要です。対策を継続的に実践することで、変形性膝関節症の症状緩和や進行抑制につながる可能性があります。
杖や歩行補助具の使用
杖や歩行器などの歩行補助具は、歩行時のバランスを安定させ、膝への負担を軽減する効果が期待できます。変形性膝関節症が進行し、歩行が困難な方にとっては、歩行補助具は日常生活を送るうえで欠かせないアイテムです。
杖を使用すると、体重の一部を杖で支えることができ、膝への負担を軽減できます。歩行時のバランスが安定するため、転倒のリスクも低減できます。歩行補助具の使用に抵抗がある方も、適切な補助具を使用することで、より安全で快適な歩行が可能です。
歩行補助具を選ぶ際は、個人の身体状況や生活環境に合わせることが重要です。医療専門家や理学療法士に相談し、最適な補助具を選びましょう。正しい使用方法を学ぶことで、より効果的に膝への負担を軽減できます。歩行補助具を活用することで、活動範囲が広がり、生活の質の向上にもつながる可能性があります。
靴の選び方(クッション性、サイズ)
適切な靴選びも、変形性膝関節症の症状緩和に貢献します。クッション性の高い靴は、歩行時の衝撃を吸収し、膝への負担を軽減する効果があります。自分の足にぴったり合ったサイズの靴を選ぶことも重要です。大きすぎる靴や小さすぎる靴は、歩行時のバランスを崩し、膝に余計な負担をかける可能性があります。
靴底が厚く、かかと部分に適度なクッション性のある靴を選びましょう。スポーツ用品店などで販売されているウォーキングシューズは、クッション性が高く、変形性膝関節症の方にもおすすめです。
靴の中敷きを使用することで、衝撃吸収効果を高めることができます。足のアーチをサポートする中敷きは、足の形状に合わせて作られたカスタムメイドのものが効果的です。靴選びの際は、専門店のスタッフに相談し、試し履きをしてから購入しましょう。適切な靴を選ぶことで、日常生活の快適性が向上し、膝の痛みの軽減にもつながります。
サポーターの着用
膝サポーターは、膝関節を外部から支え、安定させることで痛みを軽減する効果があります。変形性膝関節症の症状や生活スタイルに合わせて、適切なサポーターを選ぶことが重要です。サポーターは、スポーツ用品店やドラッグストアなどで購入できます。
保温効果のあるサポーターは、膝を温めることで血行を促進し、痛みを和らげる効果も期待できます。寒い時期や冷えやすい方は、保温効果のあるサポーターの使用を検討しましょう。
サポーターの種類は多岐にわたり、軽度の圧迫から強い固定まで、さまざまなタイプがあります。日常生活用やスポーツ活動用など、用途に応じて選択することが大切です。長時間の使用や就寝時の着用については、医師や専門家に相談することをおすすめします。
適切なサポーターの使用は、膝の安定性を高め、日常生活の質を向上させる可能性があります。しかし、サポーターに過度に依存せず、筋力トレーニングなど他の治療法と併用することが望ましいです。
膝を温める
膝を温めることで、血行が促進され、筋肉や関節の緊張が和らぎ、痛みが軽減されます。温湿布やカイロ、温熱療法などが効果的です。入浴も効果的で、湯船に浸かることで全身の血行が促進され、リラックス効果も得られます。
温熱療法を行う際は、適切な温度と時間を守ることが重要です。過度な加熱は皮膚のやけどや炎症の悪化を招く恐れがあります。一般的に、15〜20分程度の温めが適切とされていますが、個人の状態によって異なる場合もあります。
炎症が強い場合は、温めることで逆に炎症を悪化させる可能性があるので、痛みが強い場合は、冷湿布を使用するか医師に相談することをおすすめします。自身の症状や体調に合わせて、適切な方法を選択することが大切です。
日常生活での姿勢や動作の改善
日常生活の何気ない動作や姿勢も、変形性膝関節症の症状に影響を与えます。椅子に座るときは浅く腰掛け、足を組むのは避けましょう。重い物を持ち上げる際は、膝を曲げずに腰を落として持ち上げるように心がけることが大切です。
急に立ち上がる、急に方向転換するなど、膝に急激な負担がかかる動作は避け、ゆっくりとした動作を心がけましょう。階段の上り下りや坂道の歩行時は、手すりを使用するなど、膝への負担を分散させる工夫が効果的です。
長時間同じ姿勢を続けることも避けましょう。デスクワークなどで長時間座る場合は、定期的に立ち上がって軽い運動や伸びをすることで、膝の血行を促進し、こわばりを防ぐことができます。
睡眠時の姿勢にも注意が必要です。膝を曲げたまま寝ることは避け、膝の下に小さな枕を置くなどして、自然な状態を保つことが望ましいです。日常生活での姿勢や動作の改善をすることで、膝への負担を軽減し、症状の改善や進行の抑制につながる可能性があります。
まとめ
膝に負担をかける運動は、症状を悪化させる可能性があります。ランニングやジャンプ、急な方向転換を伴う運動は避け、ウォーキングや水泳、筋トレ、ヨガなど、膝への負担が少ない運動を選びましょう。
日常生活では、適正体重を維持し、椅子やベッドを使うなど、洋式生活に切り替える工夫をしましょう。杖や歩行補助具の使用、適切な靴選びやサポーターの着用なども効果的です。膝を温める、正しい姿勢や動作を意識することも大切です。
膝への負担を減らす工夫をすることで、痛みを和らげ、より快適な日常生活を送れるようにしましょう。 少しでも不安なことがあれば、医師や理学療法士に相談してみてください。
参考文献
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