- 2025年3月9日
変形性膝関節症と半月板損傷の関連性と複合的な治療方法を解説
あなたは、日常生活に支障をきたす膝の痛みを感じていますか?立ち上がるときや歩くときのズキズキとした痛みは、変形性膝関節症や半月板損傷が原因かもしれません。世界保健機関(WHO)の報告によると、世界では約5億2800万人が変形性膝関節症に罹患していると推定されています。変形性膝関節症と半月板損傷は密接に関連している場合があり、併発していることがあります。
この記事では、以下の内容を解説します。変形性膝関節症と半月板損傷の関連性を理解し、より適切な治療と予防につなげることが期待できます。
- 変形性膝関節症と半月板損傷の原因や症状
- 変形性膝関節症と半月板損傷の相互作用
- 検査方法と診断基準
- 治療方法
変形性膝関節症と半月板損傷の原因と症状
変形性膝関節症と半月板損傷は密接に関連している場合があり、併発していることもあります。原因と症状を理解し、変形性膝関節症と半月板損傷の関連性を知ることで、より適切な治療と予防につなげることが期待できます。2つの疾患について、以下の内容を解説します。
- 変形性膝関節症の原因と症状
- 半月板損傷の原因と症状
- 変形性膝関節症と半月板損傷の相互作用
変形性膝関節症の原因と症状
変形性膝関節症は、膝関節のクッションである軟骨がすり減ることで、骨同士が直接ぶつかり合い、痛みや炎症を引き起こす病気です。主な原因は、加齢による軟骨の摩耗です。肥満や激しいスポーツ、遺伝、過去のケガなども発症の原因となります。変形性膝関節症は、高齢者だけでなく若い方でも発症する可能性があります。初期段階では、以下の症状が現れます。
- 立ち上がるときに痛みを感じる
- 歩き始めるときに痛みを感じる
- 安静にすると痛みが治まる
病気が進行すると、以下の症状が現れます。
- 安静にしているときや夜間にも痛みを感じる
- 正座をすることが難しくなる
- 階段を上ったり下りたりすることが難しくなる
さらに病気が進行すると、以下の症状が現れます。
- 膝関節の変形が目立つ
- O脚やX脚になる
半月板損傷の原因と症状
半月板は、大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)の間にある軟骨で、膝関節にかかる衝撃を吸収したり、関節の安定性を保ったりしています。半月板は、スポーツや転倒などで膝を強くひねったり、強い衝撃が加わったりすることで損傷します。
若い世代では、スポーツ中の急激な動作による損傷が多いです。中高年以降では加齢とともに半月板が変性し、軽い動作で損傷することもあります。半月板が損傷すると、以下の症状が現れます。
- 膝が痛んだり腫れたりする
- 膝に引っかかりを感じる
- 膝が一定の角度から動かなくなる
変形性膝関節症と半月板損傷の相互作用
変形性膝関節症と半月板損傷は、互いに影響しあう場合があります。症状が現れた場合は、早期に適切な治療を受けることが重要です。
変形性膝関節症によって膝関節の構造が変化すると、半月板にも負担がかかりやすくなり、損傷のリスクが高まります。半月板を損傷すると、膝関節のクッション機能が低下して軟骨への負担が増加した結果、変形性膝関節症が進行する可能性があります。
検査方法と診断基準
変形性膝関節症や半月板損傷が疑われる場合、いくつかの検査と医師による問診を受けることが一般的です。検査方法と診断基準について、以下のポイントを解説します。
- レントゲン検査
- MRI検査
- 医師による問診
レントゲン検査の役割
レントゲン検査は、骨の状態を写し出す検査です。変形性膝関節症になると、軟骨のすり減り具合や、骨棘(こつきょく)の有無、関節裂隙(かんせつれつげき)の狭まり具合などがレントゲン写真に写ります。骨棘とは、骨の表面にできたトゲのようなものです。関節裂隙とは、関節の隙間のことです。
半月板損傷はレントゲン検査だけでは確認できません。半月板損傷と変形性膝関節症は合併しているケースがあるため、レントゲン検査で変形性膝関節症の有無を確認することが大切です。レントゲン検査では骨折など他の疾患も発見することができます。
MRIによる評価
MRI検査は、強力な磁場と電波を使って、体の内部を詳しく調べる検査です。MRI検査では軟骨や靭帯、半月板といった骨以外の組織の状態まで鮮明に確認できます。半月板損傷の場合、MRI検査によって損傷の場所や大きさ、形などを正確に把握できます。
変形性膝関節症の場合は、MRI検査で軟骨や骨の状態を詳細に評価できるため、レントゲン検査よりも早い段階で異常を発見できることがあります。MRI検査で軟骨や半月板などの状態を詳しく確認することで、年齢や症状、既往歴と合わせて総合的に判断し、より精度の高い診断が可能となります。
症状の確認と問診のポイント
医師による問診では、痛みの種類や場所、いつ痛むのか、日常生活での困りごとなどを患者さんから詳しく聞き取ります。変形性膝関節症と半月板損傷は、症状が似ている部分があるため、問診での情報が疾患の発見につながる可能性があります。問診では、現在感じている症状だけでなく、以下のような項目も確認します。
- 過去のケガの有無
- スポーツ歴
- 仕事内容
- 生活習慣
問診で聞き取った情報は、より正確な診断と適切な治療方針を決定するために重要です。
複合的な治療アプローチ
変形性膝関節症と半月板損傷の治療方法は一般的に以下の3つがあります。
- 保存療法
- 手術療法
- 生活習慣の改善
症状が軽い場合は保存療法で改善するケースが多いですが、症状が重い場合は手術が必要となるケースもあります。患者さんの状態や症状、年齢、生活習慣などを総合的に判断して治療方法を決定します。
保存療法
保存療法は、手術を行わずに痛みや炎症を抑え、膝の機能の改善を目指す治療方法です。保存療法は、変形性膝関節症と半月板損傷の初期段階や、症状が軽い場合に有効です。主な保存療法として以下の4つがあります。
- 薬物療法
- 理学療法
- 装具療法
- 注射療法
保存療法は、単独で行うこともありますが、組み合わせて行うことでより効果的な場合もあります。薬物療法と理学療法を併用することで、痛みをコントロールしながら膝関節の機能を改善していくことが期待できます。
薬物療法では、痛みや炎症を抑える薬を内服または外用します。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などがよく使用されます。胃腸の弱い方や持病のある方には、より副作用の少ない薬を選択することもあります。
理学療法では、専門の理学療法士による指導のもと、ストレッチや筋力トレーニングなどを行います。特に、太ももの前の筋肉を鍛えることは、膝関節の安定性を高め、痛みを軽減する効果が期待できます。患者さん一人ひとりの状態に合わせて、適切な運動プログラムを作成します。
装具療法では、膝関節をサポートする装具を装着することで、痛みを軽減し、関節の安定性を高めます。装具の種類や装着時間は、患者さんの状態に合わせて調整します。
注射療法では、ヒアルロン酸やステロイドを関節内に注射することで、炎症を抑えたり、関節の動きを滑らかにしたりします。ヒアルロン酸は、関節液の粘性を高め、関節のクッション機能を改善する効果が期待できます。ステロイドは、抗炎症作用があり、炎症や痛みを抑える効果が期待できます。
手術療法
保存療法で効果が得られない場合や症状が重い場合には、手術療法が検討されます。変形性膝関節症が進行している場合は、骨切り術や人工関節置換術が適応されることもあります。人工関節置換術は、損傷した膝関節を人工関節に置き換える手術で、痛みの軽減や関節機能の回復が期待できます。
半月板損傷の症状が重度の場合は、関節鏡視下手術が行われることが多く、損傷した半月板の一部を切除したり、縫合して修復したりします。手術療法を選択する際には、患者さんの年齢や全身状態、活動レベルなどを考慮し、十分な説明を行ったうえで、適切な治療方法を検討します。。
生活習慣の改善
変形性膝関節症と半月板損傷の治療や予防において、生活習慣の改善は重要です。膝の痛みを改善し、健康な生活を送るために、積極的に生活習慣を見直しましょう。生活習慣を改善するために、以下のことに気を配ってください。
- 体重の管理
- 適切な運動習慣
- 日常生活での注意点
肥満は膝関節への負担を増大させます。無理のない範囲で減量を目指し、適切な体重を維持することで膝関節への負担を減らすことが重要です。
筋力や柔軟性を維持するために、ウォーキングや水中運動など、膝への負担が少ない運動をしましょう。激しい運動やジャンプ動作などは、膝関節を痛める可能性があるため避けてください。
日常生活では、正しい姿勢を保ち、以下の動作をするときは膝関節への負担がかからないように注意してください。
- 重い物を持ち上げる
- 階段を上ったり下りたりする
- 膝を高く上げて座る
まとめ
変形性膝関節症と半月板損傷は、密接に関連する膝の疾患です。軟骨のすり減りや半月板の損傷によって痛みや機能障害を引き起こし、症状の悪化を招く可能性があります。治療には、薬物療法や理学療法、装具療法、注射療法などの保存療法と、関節鏡視下手術や人工関節置換術などの手術療法があります。
患者さんの年齢や症状の重さ、生活習慣などを総合的に考慮して治療方法を決定します。早期の診断と適切な治療が重要です。膝の痛みを感じたら整形外科を受診し、医師と相談して最適な治療を選択しましょう。 日常生活での体重管理や適切な運動、正しい姿勢を心がけることで、症状の悪化を防ぎ、より良い状態を維持することが期待できます。
参考文献
- Vicky Duong, Win Min Oo, Changhai Ding, Adam G Culvenor, David J Hunter. Evaluation and Treatment of Knee Pain: A Review. JAMA, 2023, 330(16), p.1568-1580.
- Jean W. Liew, Eva Petrow, Sarah Tilley, Michael P. LaValley, Frank W. Roemer, Ali Guermazi, Cora E. Lewis, James Torner, Michael C. Nevitt, John A. Lynch, David Felson. Comparison of definitions of early knee osteoarthritis for likelihood of progression at 2-year and 5-year follow-up: the Multicenter Osteoarthritis Study. Annals of the Rheumatic Diseases, 2025, 84(1), p.115-123.