半月板損傷の軽度症状と自然治癒の可能性について専門医が解説

膝の痛みや違和感があり、半月板損傷かもしれないと不安を感じている方も多いのではないでしょうか？ 日常生活に支障がない軽度の症状の場合、放置してしまうことが多いですが、早期発見と早期治療が重要です。

適切な対応をしない場合、症状が悪化し、日常生活に影響を及ぼす可能性があります。この記事では、以下の内容について、専門医が解説します。

• 半月板損傷の軽度症状
• 自然治癒の可能性
• 自然治癒を促すケア方法
• 治療法

軽度の半月板損傷は、適切なケアで症状が改善する可能性があります。正しいケア方法や治療法を理解することで、膝の健康を維持できます。

半月板損傷の軽度症状

半月板は膝関節の中にある軟骨で、大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)の間でクッションの役割を果たしています。膝にかかる衝撃を吸収したり、関節の動きを滑らかにしたりします。半月板損傷の軽度の症状は、以下のとおりです。

• 膝の鈍痛
• 膝のこわばり
• 運動後の不快感
• 膝を動かした際のクリック音

初期症状は軽いことが多く、日常生活に支障がない場合もありますが、症状の悪化を防ぐために早期発見と早期治療が大切です。

膝の鈍痛

軽度の半月板損傷では、膝に鈍い痛みを感じることがあります。常に痛みを感じる場合もあれば、特定の動作をしたときにだけ痛みを感じる場合もあります。半月板を損傷するとクッション機能が低下し、骨と骨がぶつかりやすくなることで鈍い痛みが生じます。

以下の動作は半月板に負担をかけ、損傷部位を刺激するため、痛みを感じることが多いです。

• 階段を上ったり下りたりする
• しゃがむ
• 立ち上がる
• 長時間同じ姿勢でいる
• 運動する

膝のこわばり

半月板が損傷すると、膝関節の動きが悪くなり、こわばりを感じることがあります。こわばりは、半月板の損傷で炎症が起きたり、炎症で生じた関節液が溜まったりすることで生じます。関節液が長時間同じ場所に滞留すると、朝起きたときや長時間座った後にこわばりを感じることがあります。

スムーズに動かせず、引っかかる感覚を覚える場合もあります。こわばりを放置すると関節が固まって動かなくなる可能性があります。

運動後の不快感

軽度の半月板損傷の場合、運動後に膝に不快感や違和感、軽い痛みを感じることがあります。運動後すぐに不快感が現れる場合もあれば、数時間後や翌日になって現れる場合もあります。

不快感は、損傷した半月板への負担が増し、炎症が生じたり関節液が溜まったりすることで生じます。運動により半月板への負荷が増すと、損傷部位で炎症が悪化し、不快感や違和感として感じられます。

膝を動かした際のクリック音

膝を曲げ伸ばししたときに、クリック音やポキポキという音が発生することがあります。クリック音自体は、必ずしも痛みを伴うわけではありません。クリック音とともに痛みや不快感がある場合は、半月板損傷の可能性が高いと考えられます。

半月板を損傷すると、骨と半月板や半月板同士が擦れ合い、関節がスムーズに動かなくなることで、クリック音やその他の異音が生じます。損傷した半月板が関節内を移動することで、膝に引っかかりを感じたり、急に膝が動かなくなる「ロッキング」という症状が生じたりします。

半月板損傷が自然治癒する可能性

半月板には、内側半月板と外側半月板の2種類があります。内側半月板は外側半月板よりも損傷しやすい傾向があります。半月板には以下の表のように血管が通っている部分とそうでない部分があり、血管の有無が部分的な自然治癒の可能性を大きく左右します。

半月板の部分	説明
外縁部	血流が豊富なため、損傷が軽度であれば部分的に自然治癒する可能性があります。
中心部	血流が乏しいため、損傷した場合、自然治癒は難しく、手術が必要となる場合があります。

自然治癒を目指す場合も、損傷の程度を正確に把握し、適切な対応をすることが重要です。自己判断で放置してしまうと、症状が悪化したり、変形性膝関節症などの他の病気を引き起こしたりする可能性があります。加齢による変性で半月板を損傷する可能性があるため、高齢の方も注意が必要です。

定期的に医師の診察を受けることも重要です。自然治癒が難しい場合や症状が改善しない場合は、関節鏡手術などの外科的治療が必要になることもあります。

自然治癒を促すケア方法3選

軽度の半月板損傷の自然治癒を促進し、回復の可能性を高めるために、以下の3つのケア方法について解説します。

• 安静
• アイシング
• リハビリテーション

安静

損傷した半月板に負担をかけないよう、安静にしてください。適切な安静を保つことで、炎症が早期に治まり、部分的に自然治癒する可能性が高まります。安静に過ごすために推奨される動作は以下のとおりです。

• 椅子に座って過ごす
• 横になる
• 重いものを持たない
• 長時間同じ姿勢でいない

損傷直後は炎症が強く出ている時期のため、安静にして炎症を抑えることが重要です。無理に動かすと、症状が悪化したり慢性化したりする可能性があります。以下のような動作はできるだけ避けましょう。

• 激しい運動をする
• 膝を深く曲げ伸ばしする
• 階段を上ったり下りたりする
• 正座を長時間続ける

安静にする期間は、損傷の程度や症状によって異なり、痛みが強い場合は数日間安静にすることが推奨されます。痛みが治まってきたら、徐々に活動量を増やしていくようにしましょう。

アイシング

アイシングは、炎症を抑え、痛みを和らげる効果を期待できます。血管を収縮させることで内出血を抑え、局所麻酔に似た効果も期待できます。以下の内容を理解したうえで適切なアイシングを行いましょう。

• ビニール袋に氷と水を入れてタオルで包んだものを患部に当てる
• 1回15～20分間行う
• 1日に数回行う
• 損傷直後に行う
• 痛みが強いときはこまめに行う
• 凍傷にならないよう適宜休憩を挟む

リハビリテーション

リハビリテーションは、膝の機能回復を促すために重要です。専門家である理学療法士の指導のもと、以下のようなリハビリテーションを行います。

• 損傷の程度や症状によって異なるメニューを行う
• 初期は関節の可動域を広げるためのストレッチや筋力トレーニングを行う
• 痛みが軽減してきたら徐々に負荷を上げる

リハビリテーションを中断すると、一度回復した機能が低下してしまう可能性があります。医師や理学療法士の指示に従い、継続して行うことが重要です。リハビリテーションは以下の効果を期待できます。

• 損傷した半月板を回復させる
• 膝関節全体の機能を改善する
• 膝関節を支える筋肉を強化する
• 正しい姿勢や歩き方・運動時のフォームが身につく

軽度の半月板損傷の治療法

軽度の半月板損傷の治療法は、大きく分けて以下の3つがあります。

• 保存療法
• 理学療法
• 運動療法

複数の治療法を組み合わせて治療する場合も多く、患者さんの状態に合わせて最適な治療プランを立てます。

保存療法

保存療法は、手術を行わず、損傷した半月板の自然治癒を促す治療法です。軽度の半月板損傷の場合、最初の治療選択肢として保存療法が選択されることが多いです。保存療法の基本はRICE処置です。RICE処置とは、以下の4つの要素からなる治療法です。

RICE処置の4要素	説明
Rest(安静)	炎症の悪化を防ぎ、治癒を促進するために損傷した膝を安静にします。松葉杖の使用は、膝への負担を軽減するために効果的な方法です。
Ice(冷却)	冷却は、炎症を抑え、痛みを和らげる効果があります。氷や保冷剤をタオルに包んで、損傷部に15〜20分程度当てましょう。
Compression(圧迫)	弾性包帯などで損傷部を圧迫することで、腫れの進行を抑え、関節の安定性を高める効果を期待できます。きつく巻きすぎると血行が悪くなるので、適度な圧迫を心がけてください。
Elevation(挙上)	損傷した足を心臓より高く上げることで、血液の循環を良くし、腫れや痛みを軽減する効果があります。クッションや枕などを利用して、楽な姿勢で足を高く保ちましょう。

痛みや炎症を抑えるために、医師から消炎鎮痛剤が処方されることもあります。薬は、症状を一時的に緩和する効果がありますが、半月板損傷自体を治すものではありません。医師の指示に従って、適切な量と期間を守って服用することが大切です。

理学療法

理学療法は、体の機能回復を目的に、理学療法士が行います。軽度の半月板損傷では、損傷部位周辺の筋肉を強化し、関節の動きをスムーズにすることを目指します。

患者さんの状態に合わせた治療プログラムを作成するため、効果的な治療を期待できます。理学療法では、一般的に以下の方法が用いられます。

方法	説明
マッサージ	損傷部位周辺の筋肉をマッサージすることで、血行を促進し、筋肉の緊張を和らげます。マッサージは、痛みを軽減する効果も期待できます。
ストレッチ	関節の柔軟性を高め、可動域を広げます。日常生活の動作を改善することが期待できます。
電気治療	低周波や高周波の電気を用いて、痛みを軽減したり、筋肉を刺激したりします。電気治療は、損傷部位の治癒を促進する効果を期待できます。
温熱療法	ホットパックや赤外線ランプなどで患部の血行を促進し、痛みを和らげる効果があります。筋肉の緊張を和らげる効果も期待できます。

運動療法

運動療法は、軽度の半月板損傷の治療や再発予防のために重要です。適切な運動を行うことで、膝関節の安定性を高め、日常生活動作の改善を図ることができます。運動療法は、理学療法士の指導のもと、患者さんの状態に合わせて徐々に運動強度を高めていくことが大切です。

半月板損傷の程度や症状、年齢、体力などを考慮して、個別のプログラムを作成します。運動療法は、継続して行うことが重要です。定期的に運動を行う習慣を身につけることで、膝関節の健康維持や再発予防に役立つことが期待できます。運動療法では、一般的に以下の運動を行います。

運動	説明
筋力トレーニング	太ももの前側の筋肉(大腿四頭筋)や裏側の筋肉(ハムストリングス)など、膝関節を支える筋肉を鍛えることで、関節の安定性を高めます。正しいフォームで行うように注意しましょう。
ストレッチ	膝関節の柔軟性を維持・向上させ、けがの予防効果を期待できます。
バランス運動	片足立ちやバランスボールなどを用いたトレーニングでバランス能力を高め、膝関節への負担軽減を目指します。バランス能力の向上は、再発予防や日常生活動作の安定性向上につながります。

まとめ

軽度の半月板損傷は、適切なケアにより部分的に自然治癒する可能性があります。効果的な回復と再発予防のために、安静やアイシング、リハビリテーションを基本として取り入れてください。保存療法や理学療法、運動療法などの治療法を適切に組み合わせて行うと、症状の改善と長期的な膝の健康維持が期待できます。

症状が改善しない・悪化する場合は、速やかに専門医の診察を受けてください。放置すると症状が悪化し、変形性膝関節症などの合併症を引き起こす可能性があります。早期発見・早期治療が膝の健康を守るために重要です。

膝の状態を正しく理解し、適切な治療を受け、膝の健康と生活の質の向上を目指しましょう。

参考文献

Rubén Fernández-Matías, Fernando García-Pérez, Carlos Gavín-González, Javier Martínez-Martín, Homero Valencia-García, Mariano Tomás Flórez-García. Effectiveness of exercise versus arthroscopic partial meniscectomy plus exercise in the management of degenerative meniscal tears at 5-year follow-up: a systematic review and meta-analysis. Arch Orthop Trauma Surg, 2023, 143(5), p.2609-2620.