- 2025年3月9日
前十字靭帯損傷の軽度症状と見逃せない初期サインの特徴
「膝がグラッとする」「痛みが引かない」スポーツ中や日常生活での膝の違和感、放置していませんか?もしかしたら、前十字靭帯損傷のサインである可能性があります。
前十字靭帯損傷は、アメリカでは発生率が増加傾向にあり、女子選手の増加と関連があると報告されています。接触プレーのあるスポーツでは、前十字靭帯損傷のリスクが高いことがわかります。
本記事では、前十字靭帯損傷の軽度症状や見逃しやすい初期サイン、ご自宅でできるセルフケアの方法を解説します。ご一読いただき、ご自身の膝の健康管理にお役立てください。
前十字靭帯損傷の軽度症状
前十字靭帯損傷の軽度の症状として、以下の2つを解説します。
- 膝の不安定感と痛み
- 腫れや内出血
膝の不安定感と痛み
前十字靭帯が損傷すると、膝の関節が不安定になり少しずれた感覚を覚え、痛みが伴います。膝の不安定感と痛みの詳細は、以下の表のとおりです。
症状 | 説明 | 正常な状態との比較 |
不安定感 | 膝がぐらつく、ずれる感じがする | 健康な膝は、しっかりと固定され、ぐらつきません |
痛み | 鋭い痛み、鈍い痛み、動作時の痛み | 健康な膝では、通常、運動時や日常生活で痛みを感じることはありません |
他の膝のけが(半月板損傷や内側側副靭帯損傷など)と似ている場合もあるので、自己判断は危険です。少しでも気になる症状があれば速やかに整形外科を受診し、経験豊富な医師の診断を受けましょう。
腫れや内出血
前十字靭帯が損傷すると、膝関節内で炎症反応(組織の損傷に対する体の防御反応)が起こり、腫れや内出血が生じることがあります。損傷によって毛細血管(細い血管)が破れ、血液や組織液が関節内に漏れ出すことが原因と考えられています。
軽度の損傷では、腫れや内出血がほとんど見られない場合もありますが、損傷後数日経ってから症状が現れることもあります。腫れや内出血の詳細は、以下の表のとおりです。
症状 | 説明 | 発症時期 | 正常な状態との比較 |
腫れ | 膝関節が腫脹する | 損傷直後〜数時間後 | 健康な膝は、腫れていません |
内出血 | 皮膚が赤紫色に変色する | 数日後 | 健康な膝は、変色していません |
見逃しがちな初期サインの特徴
膝の違和感や軽い痛みを放置してしまうと、症状が悪化する可能性があるので初期サインの特徴を把握しておきましょう。初期サインは、以下のとおりです。
- 動作時に少し膝がずれる感覚
- 腫れや痛みが一時的に治まる
- 違和感があっても気にならない
動作時に少し膝がずれる感覚
前十字靭帯は、膝関節の中にある太くて丈夫な靭帯で、大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)をつなぎ、膝の安定性を保つ重要な役割を担っています。靭帯が損傷すると、膝が不安定になり歩行時や走行時に「少しずれる感覚」や「グラつき」「カクンと抜ける感じ」を覚えます。
症状は、常に起こるわけではなく、時々感じる程度の場合もあります。軽度の損傷の場合、スポーツなどで膝に負担がかかったときに症状が現れ、安静にしていると症状が消失してしまうため見過ごしてしまいがちです。小さなサインを見逃すと、症状が悪化し他の膝の組織(半月板や軟骨など)を傷つけてしまう可能性があります。
腫れや痛みが一時的に治まる
前十字靭帯損傷では、損傷直後に膝の腫れや痛み、熱感などの炎症反応が現れます。体の中でけがを修復しようと炎症物質が分泌されるためです。損傷部位を触ると熱く感じ、赤く腫れ上がります。症状は数日~数週間で軽快することがあります。
軽度の場合、腫れや痛みが一時的に治まることがありますが、急性炎症反応が落ち着いただけであり、前十字靭帯の損傷自体は治っていません。痛みが引いても、損傷を放置すると、膝関節の軟骨や半月板などの組織にも負担がかかり、変形性膝関節症のリスクが高まります。
安静にして一時的に痛みが治まったとしても、再びスポーツなどを再開すると再発する可能性が高いです。痛みがなくなった後も、膝の違和感や不安定感が残る場合は、自己判断せずに医療機関を受診しましょう。
違和感があっても気にならない
膝に違和感や軽い痛みがあっても、日常生活に大きな支障がない場合は安易に考えてしまいがちです。頻繁に膝を酷使する人は多少の痛みや違和感には慣れてしまっている場合が多いです。
前十字靭帯損傷は、スポーツ活動中の以下の動作で生じることがあります。
- 膝が内側に捻れる
- ジャンプの着地時に膝が崩れる
- 相手と接触して膝に強い力が加わる
軽度の場合、日常生活にはそれほど支障がないため、放置してしまうケースが多く見られます。軽度の損傷でも、適切な治療を行わないと、将来的に膝関節の不安定性や変形性膝関節症のリスクが高まります。日常生活に支障をきたす場合もあります。
違和感や痛みを放置せずに、経験豊富な医師の診断を受けることが大切です。
軽度症状に対する治療法と回復期間
軽度症状に対する治療法と回復期間については、以下のことを解説します。
- 保存療法の選択肢と効果
- リハビリテーションのステップと期間
- 自宅でできるセルフケア方法
保存療法の選択肢と効果
軽度の損傷の場合、手術を行わずに保存療法を選択することが一般的です。保存療法とは、手術以外の方法で症状を改善させる治療法のことで、具体的な治療法は以下のとおりです。
- 薬物療法
- 注射療法
- 装具療法
- 運動療法
薬物療法とは、痛みや炎症を抑えるために、消炎鎮痛剤や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などを使用する治療法です。内服薬だけでなく、湿布や塗り薬などの外用薬を使用する場合もあります。
注射療法とは、ヒアルロン酸注射を用いて、関節の動きを滑らかにする治療法です。損傷によって減少したヒアルロン酸を補充することで、関節の機能改善を図ります。
装具療法とは、サポーターやブレースなどを用いて膝関節を固定し、安定性を高める治療法です。損傷した靭帯への負担を軽減し、治癒を促進する効果が期待できます。装具の種類や装着期間は、損傷の程度や患者さんの状態によって異なりますので医師の指示に従うことが重要です。
運動療法とは、リハビリテーションの重要な治療法です。理学療法士などの指導のもと、関節の可動域エクササイズや筋力トレーニングを行います。損傷した靭帯への負担が少ない水中運動を行うこともあります。運動療法は、痛みが軽減してきた時期から開始し徐々に負荷を上げていきます。
リハビリテーションのステップと期間
軽度の損傷であってもリハビリテーションは重要です。適切なリハビリテーションを行うことで関節の機能回復を促進し、再発を予防することができます。リハビリテーションのステップと期間は、患者さんの症状や回復状況に合わせて個別に設定されます。おおよその期間は以下のとおりです。
- 急性期(損傷直後~数週間)
痛みや腫れが強い時期です。RICE処置を行い炎症を抑えることに重点を置き、損傷部位を安静に保ちます。無理に動かすと、症状が悪化することがあるので注意が必要です。 - 回復期(数週間~数か月)
痛みや腫れが軽減してきたら、関節の可動域を広げる運動や、筋力トレーニングを開始します。ストレッチや軽い運動から始め、徐々に負荷を上げていきます。リハビリテーションは、日常生活への復帰をスムーズに進めるために重要です。 - 維持期(数か月~)
ほぼ正常な状態に戻ったら、再発予防のためのトレーニングや、スポーツへの復帰に向けた練習を行います。スポーツ復帰は、医師の指導のもとで慎重に進めることが重要です。
自宅でできるセルフケア方法
軽度の損傷の場合「RICE処置」を行いましょう。RICE処置とは、Rest(安静)、Ice(冷却)、Compression(圧迫)、Elevation(挙上)の4つのステップからなる応急処置です。
- 安静:損傷した膝をできるだけ動かさずに安静に保ち、負担をかけないようにしましょう。松葉杖などを使用するのも有効です。
- 冷却:氷水を入れた袋や保冷剤などで、損傷した部分を15~20分程度冷やしましょう。1~2時間おきに繰り返します。冷却により、炎症や痛みを和らげることができます。凍傷を防ぐため、直接皮膚に氷を当てないように注意し、タオルなどを巻いて使用してください。
- 圧迫:弾性包帯などで、損傷した部分を適度に圧迫しましょう。圧迫することで、腫れや内出血の進行を抑える効果があります。締め付けすぎると血行が悪くなるので、適度な圧迫を心がけてください。
- 挙上:損傷した膝を心臓よりも高い位置に上げて、安静に保ちましょう。クッションや枕などを使い、膝を高く保つことで重力によって腫れや内出血が軽減されます。
RICE処置はあくまで応急処置であり、根本的な治療ではありません。痛みが強い場合や症状が改善しない場合は、必ず医療機関を受診しましょう。自己判断で放置すると、症状の悪化や回復が遅れる可能性があります。適切な診断と治療を受けることが早期回復への近道です。
再発防止のための日常生活の注意点
前十字靭帯損傷は、一度損傷すると再発しやすいけがです。再発を予防するためには、日常生活で以下の点に注意することが大切です。
- 膝を急にひねることや無理な方向に曲げない
- スポーツをする際は、ウォーミングアップを十分に行い、膝周りの筋肉を強化する
- 段差やデコボコ道など、足元が悪い場所は注意して歩く
- 疲れが溜まっているときは、激しい運動を控える
- 適切な靴を選び、足首を安定させる
- 普段からストレッチを行い、体の柔軟性を保つ
- 自分の体のサインを無視しない
違和感や痛みがある際は、無理せず休息し、医療機関への受診を検討しましょう。注意点を守り、再発を予防することで健康な膝を維持しましょう。スポーツへの復帰を希望する場合も、医師と相談して、適切な時期や方法を検討することが重要です。
まとめ
前十字靭帯損傷は、軽度の症状でも放置すると症状が悪化する可能性があります。初期症状として、膝の不安定感や軽い痛みや腫れ、内出血などさまざまな兆候が見られることがありますが、見過ごしやすいのが特徴です。違和感があった場合は、早めに医療機関を受診することをおすすめします。
RICE処置などの応急処置を行いながら、適切な治療とリハビリテーションを受けることで、回復を促すことができます。再発予防のためには、日頃から膝の負担を減らし、筋力強化に努めることも重要です。あなたの膝の健康を守るために、専門家への相談を検討しましょう。
参考文献
Kaeding C C, Léger-St-Jean B, Magnussen R A. Epidemiology and Diagnosis of Anterior Cruciate Ligament Injuries. Clin Sports Med, 2017;36(1):1-8.