• 2025年3月10日

前十字靭帯の損傷と断裂の違い!診断と適切な治療選択 

階段を下りるときやジャンプをしたときに膝に激痛が走る場合、前十字靱帯(ぜんじゅうじじんたい)の損傷が疑われます。前十字靱帯損傷は、軽度の痛みや膝の不安定感、日常生活への支障が出るなど、症状の程度が異なります。断裂時には「ブチッ」という音を伴う激痛や膝のぐらつきが特徴的です。

この記事では、前十字靱帯の構造を解説し、損傷と断裂の違いについて解説します。MRIやレントゲン検査による診断方法、保存療法と手術療法の選択基準、回復を促進するリハビリテーションまで、軽度の損傷から完全断裂まで、症状に応じた最適な対処法をお伝えします。

膝の健康を守るために、早期診断と適切な治療選択が重要です。現在の膝の状態を正しく把握するため、医療機関での検査受診を推奨します。専門医の診断を受け、個々の状態に合った治療計画を立てることが、将来の膝機能維持につながります。

前十字靭帯の構造と損傷と断裂の違い

前十字靭帯の構造と役割、損傷と断裂の違いについて解説します。

  • 前十字靭帯の構造と役割
  • 損傷と断裂の具体的な違い
  • 損傷及び断裂時の症状と特徴

前十字靭帯の構造と役割

前十字靭帯は、膝関節中央に位置する強靭な紐状組織です。大腿骨(だいたいこつ)と脛骨(けいこつ)を連結し、膝関節の安定維持に重要な役割を担っています。膝の曲げ伸ばしを滑らかにし、前後左右への過度な動きを制限する機能を持ちます。

前十字靭帯は「前内側束(ぜんないそくそく)」と「後外側束(こうがいそくそく)」の2つの束で構成されています。側束が協調して働くことで、膝のあらゆる方向への動きに対応し、張力バランスを保ち、歩行やジャンプ時の衝撃吸収と関節保護を可能にしています。

損傷と断裂の具体的な違い

「損傷」と「断裂」は、どちらも靭帯が傷ついた状態を表す言葉ですが、組織の損傷程度には明確な違いがあります。組織の損傷程度の違いから、治療法や回復期間にも差が生じます。

損傷とは、靭帯が伸びたり、一部が切れたりした状態を指します。靭帯の一部が損傷している状態から、ほとんど切れてしまっている状態まで、損傷の程度はさまざまです。軽度の損傷では、痛みがあっても靭帯の機能が保たれている場合があります。中程度以上になると、腫れや可動域の制限が見られることがあります。

断裂は、靭帯が完全に切れて、つながりがなくなった状態を指します。断裂には、部分的に切れている「部分断裂」と、完全に切れてしまっている「完全断裂」の2種類があります。断裂では、靭帯の機能が失われるため、関節が不安定になり、日常生活や運動に支障をきたすことがあります。

損傷および断裂時の症状と特徴

前十字靱帯を損傷または断裂すると、さまざまな症状が現れます。損傷時には、膝の中で「ブチッ」という音が聞こえることがあります。靱帯が引き伸ばされたり切れたりする瞬間に発生する音です。靱帯の損傷は、組織への強い衝撃を伴うため、激しい痛みを感じることがあります。

痛みは損傷直後に最も強く、その後も続きます。損傷後は、関節内に出血が起こるため、数時間で膝が腫れてきます。靱帯が損傷すると膝関節の安定性が失われ、膝がグラグラする状態になる場合があります。「膝崩れ」と呼ばれ、歩行や階段の上り下りなど日常生活の動作に支障をきたす可能性があります。

スポーツ中に膝をひねったり、急な方向転換をしたりした際に症状が現れた場合、前十字靱帯の損傷または断裂の可能性が高いです。自己判断せずに、速やかに整形外科を受診することをおすすめします。放置すると、膝の不安定性が慢性化し、半月板や軟骨といった他の組織にも損傷が広がり、将来的に変形性膝関節症を引き起こすリスクが高まる可能性があります。

前十字靭帯損傷・断裂の診断方法

前十字靭帯損傷・断裂の診断方法について、詳しく説明します。

  • 徒手検査
  • MRI検査
  • レントゲン検査

徒手検査

膝の状態を直接確認するための徒手検査(としゅけんさ)を行います。医師が手で膝を動かしたり、特定の部位を押したりすることで、靱帯の状態をチェックする検査です。徒手検査は、医師が五感を研ぎ澄ませて行う重要な検査ですが、損傷の程度や周囲の組織の状態は、詳細に把握できません。より精密な診断のためには、画像検査が必要となります。

検査方法には、前方引き出しテストや後方引き出しテスト、Lachman(ラックマン)テストがあります。前方引き出しテストでは、膝を軽く曲げた状態で、下腿(かたい)を前方に軽く引く検査方法です。脛骨が前方へ異常に動く場合は、前十字靱帯の損傷が疑われます。正常な膝では、脛骨の前方への動きはごくわずかです。

後方引き出しテストは、下腿を後方に軽く押します。後十字靱帯の状態をチェックするための検査ですが、前十字靱帯損傷との鑑別に重要です。Lachmanテストは、膝を約20〜30度に曲げた状態で、下腿を前方に引きます。前方引き出しテストよりも損傷の初期段階や軽度の損傷を検出する感度が高いと期待される検査方法です。

MRI検査

損傷の程度や半月板、軟骨など周囲の組織の状態を正確に把握するには、画像検査が不可欠です。MRI検査では、強力な磁場と電波を用いて、膝関節の断面画像を撮影します。靱帯や軟骨、半月板など、骨以外の軟部組織の状態を詳細に確認できます。前十字靱帯の損傷の程度だけでなく、合併する損傷の有無の診断に役立つ検査方法です。

MRI検査は、非侵襲的な方法であり、患者さんへの負担が少ないことが特徴です。急性期には、レントゲンでは確認できない軟部組織の損傷を正確に把握できるため、有用性が高いとされています。

レントゲン検査

レントゲンも主要な画像診断の一つです。レントゲン検査では、X線を用いて膝関節の骨の状態を撮影します。靱帯そのものは写りませんが、骨折の有無や前十字靱帯損傷に合併しやすい剥離骨折(はくりこっせつ:靱帯が付着している骨の一部が剥がれる骨折)を確認できる可能性があります。変形性関節症の評価にも役立ちます。

医師は、画像検査の結果と徒手検査、患者さんのお話にもとづき、総合的に判断して最適な治療方針を決定します。前十字靱帯損傷の治療は、損傷後3〜4週間以内の早期手術で良好な結果が得られる可能性が高まります。

前十字靭帯の治療法とリハビリの選択肢

保存療法の特徴と適用ケースと手術療法の種類と特徴、リハビリテーションの効果と期間について詳しく解説します。

保存療法の特徴と適用ケース

保存療法は、手術を行わずに装具や運動療法、薬物療法などを用いて痛みや腫れを抑え、関節の機能を回復させる治療法です。比較的軽度の損傷や高齢者、手術リスクが高い方、スポーツをあまり行わない方に適しています。保存療法の具体的な方法は、以下の表のとおりです。

方法説明メリットデメリット
装具療法関節を固定する装具をつける安静を保ち、痛みや腫れを軽減できる可能性がある長期にわたる使用で関節が硬くなる可能性がある
運動療法関節の周りの筋肉を鍛える関節の安定性を高め、再発予防につながる可能性がある誤った方法で行うと痛みが悪化する可能性がある
薬物療法痛みや炎症を抑える薬を服用する痛みや炎症を抑える効果が期待できる副作用が生じる可能性がある(頻度は低い)

保存療法のメリットは、身体への負担が少なく、日常生活への影響も抑えられる可能性があることです。回復に時間がかかる場合や重度の損傷では、十分な効果が得られないこともあります。

手術療法の種類と特徴

手術療法は、損傷した靱帯を再建する治療法です。以下の方が主な対象です。

  • スポーツ選手や高いレベルでスポーツに復帰したい方
  • 重度の損傷で関節が不安定な方
  • 保存療法で効果が得られない方

日常生活で膝がグラグラして不安定感を強く感じる場合も、手術が選択されることがあります。手術には「自家組織移植」と「同種組織移植」の2種類があります。自家組織移植は、自分の腱の一部を移植する方法です。同種組織移植は他人の腱を移植する方法で、それぞれメリット・デメリットがあります。

手術療法のメリットは、損傷した靱帯の再建を目指すことで、スポーツへの復帰の可能性を高められることです。関節の安定性向上が期待でき、再発リスクを下げることができます。デメリットとしては、手術による身体への負担や入院の必要性、リハビリテーションに時間が必要となることが挙げられます。

医師とよく相談し、ライフスタイルや希望に合った方法を選択することが重要です。

リハビリテーションの効果と期間

リハビリテーションは、保存療法と手術療法のどちらの場合も必要です。リハビリテーションの目的は、痛みや腫れの軽減、関節の可動域の拡大、筋力の回復を図り、最終的にはスポーツや日常生活への復帰を目指すことです。

リハビリテーションの内容は、損傷の程度や治療法によって異なります。一般的には、ストレッチや筋力トレーニング、関節運動などを行います。初期のリハビリテーションでは、痛みや腫れが強い場合は、アイシングや安静も重要です。

リハビリテーションの期間は、損傷の程度や治療法、個々の回復状況によって大きく異なります。数か月〜1年以上かかる場合もあるため、焦らず取り組むことが大切です。リハビリテーションの効果を高めるためには、医師や理学療法士の指示に従って、適切な運動を行うことが重要です。無理をせずに自身のペースで進めていくことも大切です。

まとめ

前十字靱帯の損傷と断裂した場合、適切な治療法を選択することが、膝の健康を守るうえで重要です。軽度の損傷であれば、装具や運動療法などの保存療法で十分な効果が期待できます。激しい痛みや膝の不安定感が強い場合、スポーツ復帰を目指す場合は、手術療法も選択肢となります。

MRIやレントゲンなどの画像検査と、医師による丁寧な診察が、最適な治療法を選択するうえで欠かせません。初期の対応が、将来的な変形性膝関節症のリスク軽減にもつながる可能性があります。膝に痛みや違和感を感じたら、すぐに整形外科を受診し、専門医に相談することをおすすめします。

参考文献

仲里整形外科 079-562-5169 ホームページ