• 2025年3月22日

椎間板ヘルニアの手術適応と手術法選択の重要ポイント

椎間板(ついかんばん)ヘルニアは、背骨のクッションである椎間板が突出し、神経を圧迫することで発症する疾患です。多くの方が腰や首に症状を抱え、日常生活に支障をきたす可能性があります。痛みや痺れ、筋力低下などの症状が現れ、重症度によっては手術が必要な場合もあります。

この記事では、椎間板ヘルニアの手術適応と手術法を選択するうえで重要なポイントについて解説します。椎間板ヘルニアの治療法に悩んでいる方や手術を検討している方、症状の改善を目指している方は、ぜひ参考にしてください。適切な治療法の選択や生活上の注意点を理解することで、症状の改善や生活の質の向上につながる可能性があります。

椎間板ヘルニアの手術適応

椎間板ヘルニアで手術適応になるケースは、以下のとおりです。

  • 保存療法で改善しない場合
  • 神経症状が重い場合
  • 日常生活に支障がある場合

保存療法で改善しない場合

椎間板ヘルニアの初期治療では、保存療法を行います。保存療法とは、手術以外の治療法を指し、以下の方法が挙げられます。

  • 痛み止めや炎症を抑える薬の服用
  • 神経の働きを助ける薬の服用
  • 筋肉の緊張を和らげる薬の服用
  • 患部の安静
  • コルセットの装着
  • リハビリテーション(ストレッチや筋力トレーニング、温熱療法など)

保存療法は、ヘルニアの性質を理解し、痛みを軽減することで自然な回復を促す効果が期待できます。保存療法を数週間〜数か月間続けても症状が改善しない場合は、手術を検討する必要があります。

神経症状が重い場合

重度の神経症状がある場合は、症状の進行を防ぐために手術の検討が必要です。椎間板ヘルニアが進行すると、神経が圧迫され、足にしびれや麻痺、筋力低下などの神経症状が現れる場合があります。症状が重篤な場合は、排尿や排便の障害が生じることもあります。

下肢の麻痺や膀胱直腸障害(排尿・排便困難)を引き起こす馬尾(ばび)症候群も、緊急手術の対象となる重篤な神経症状です。馬尾症候群は、脊髄神経の束である馬尾がヘルニアによって圧迫されることで発生します。一刻も早く圧迫を除去する必要があるため、緊急手術が必要です。

重度の神経症状が現れた場合は、すぐに医師に相談し適切な治療を受けることが重要です。早期発見と治療開始によって、後遺症を残さず回復できる可能性が高まります。

日常生活に支障がある場合

椎間板ヘルニアの痛みやしびれにより、日常生活に支障がある場合は、手術を検討します。以下は、手術を検討すべき状況である可能性があります。

  • 歩行が困難
  • 長時間の座位保持が不可能
  • 階段の昇降が困難
  • 仕事や家事の遂行が困難
  • 趣味の継続が不可能

痛みやしびれが続くと、身体的負担だけでなく精神的負担も大きくなり、うつ病などの心の病気を併発するリスクが高まります。日常生活に支障がある場合は、我慢せずに医師に相談しましょう。適切な治療を受けることで、痛みや精神的負担が軽減され、生活の質の向上が期待できます。

椎間板ヘルニアの手術方法

椎間板ヘルニアの手術方法について、以下の項目に沿って解説します。

  • 手術の種類と特徴
  • 手術のメリットとデメリット
  • 手術のリスクと合併症

手術の種類と特徴

椎間板ヘルニアの手術には、主に以下の3種類があります。

  • 内視鏡を用いた手術
  • レーザーを用いた手術
  • 椎間板内酵素注入療法

それぞれの手術の特徴は以下のとおりです。

  • 内視鏡を用いた手術(MED:マイクロ内視鏡手術、FED:完全内視鏡下手術)
    小さな切開部から内視鏡を挿入し、ヘルニアを摘出します。傷口が小さく、術後の痛みや出血が少なく、回復も早い傾向があります。
  • レーザーを用いた手術(PLDD:経皮的レーザー椎間板減圧術)
    針を刺し、レーザーでヘルニアを蒸発させて小さくします。傷口は注射針の跡程度で、入院期間も短いです。
  • 椎間板内酵素注入療法(ヘルニコア)
    酵素を含んだ薬剤を椎間板に注入し、ヘルニアを縮小させます。傷口は注射針の跡程度です。

手術法ごとの入院期間や特徴などの詳細は、以下のとおりです。

手術法切開部入院期間特徴適応となる可能性のある症例
MED(マイクロ内視鏡手術)18~20mm4~6日小さな切開で行う手術法多くの一般的なヘルニア症例
FED(完全内視鏡下手術)8~10mm3~4日より小さな切開で行う手術法特定の条件を満たすヘルニア症例
PLDD(経皮的レーザー椎間板減圧術)注射痕半日~2日傷口は注射痕程度、入院期間が短い特定のヘルニア
ヘルニコア注射痕半日~2日傷口は注射痕程度、入院期間が短いアナフィラキシーの可能性、過去に受けた場合は再度受けられない

2024年の医学雑誌”Medicine”の報告によれば、高位腸骨稜腰椎椎間板(こういこつりょうようついついかんばん)ヘルニアによる痛みに対する新たな超音波ガイド下L5選択的神経根ブロックの穿刺アプローチが開発されています。

従来アプローチが困難であったL5神経根への正確な処置を可能にするものとされており、今後の研究の進展によっては椎間板ヘルニア治療の選択肢の一つとなる可能性があります。

手術のメリットとデメリット

椎間板ヘルニアの手術には、メリットとデメリットがあります。手術のメリットは、以下のとおりです。

  • 痛みが軽減または消失する可能性がある
  • しびれなどの神経症状が改善する可能性がある
  • 日常生活への復帰が早まる可能性がある

手術のデメリットは、以下のとおりです。

  • 手術に伴うリスク(感染や出血、神経損傷など)がある
  • 術後の痛みやリハビリが必要となる
  • すべてのケースで症状が完全に消失するとは限らない

手術により神経への圧迫が解除されることで、痛みやしびれなどの症状の改善、麻痺や筋力低下などの神経症状の改善が期待できます。日常生活動作の制限が改善され、より快適な生活を送れるようになる可能性があります。

手術後は、一定期間の痛みやリハビリテーションが必要な場合があり、手術の効果には個人差があります。すべての場合で症状が完全に消失するわけではありません。

手術のリスクと合併症

椎間板ヘルニアの手術には、以下のリスクと合併症が考えられます。

  • 感染:手術部位の感染
  • 出血:手術中の出血や術後の血腫形成
  • 神経損傷:手術操作による神経の損傷
  • 硬膜外血腫:硬膜外腔(脊髄を覆う膜)の外側に出血が起こる合併症
  • 椎間板炎:椎間板に炎症が起こる合併症

リスクや合併症は、手術の種類や患者さんの状態によって発生率が異なります。医師から詳しい説明を受け、疑問点や不安なことがあれば、遠慮なく質問しましょう。納得したうえで、手術を受けることが大切です。

椎間板ヘルニアの手術後の経過とリハビリ

椎間板ヘルニアの手術後の経過とリハビリについて、以下の項目に沿って解説します。

  • 術後の痛みと回復期間
  • リハビリテーションの内容と期間
  • 再発予防のポイント
  • 日常生活での注意点

術後の痛みと回復期間

手術直後は、傷の痛みや患部の違和感、手術による筋肉や組織への負担からくる痛みが残ります。MEDやFEDといった身体への負担が少ない手術方法では、従来の開腹手術と比べて、術後の痛みが少なく、回復も早い傾向があります。

痛みの感じ方には個人差があり、ヘルニアの状態や手術の方法によっても回復のスピードは異なります。症例によっては、手術後数日で歩行が可能になることもありますが、状態によって回復期間が数週間〜数か月と大きく変わることもあります。医師と相談しながら、ご自身のペースで回復を進めることが大切です。

高齢の方や持病のある方の場合、回復に時間がかかることもあります。同じ手術方法でも、ヘルニアの大きさや場所、神経の圧迫の程度などによって回復期間は変わります。

リハビリテーションの内容と期間

手術後のリハビリテーションは、日常生活への復帰と再発予防に重要です。適切なリハビリテーションにより、筋力回復や柔軟性向上、痛み軽減、再発予防が期待できます。リハビリテーションの期間には個人差があり、数週間〜数か月かかります。リハビリテーションの主な内容は、以下の2つです。

  • 運動療法
    ストレッチや筋力トレーニングで柔軟性回復と筋力強化を行います。腹筋や背筋などの体幹(たいかん)筋を鍛えることで、姿勢改善と腰への負担軽減に効果があります。
  • 物理療法
    温熱療法や電気刺激療法で痛みを和らげ、回復を促進します。

リハビリテーションは、病院やクリニック、自宅で行えます。医師や理学療法士の指導のもと、無理なく継続することが大切です。

再発予防のポイント

椎間板ヘルニアの再発予防には、日常生活での正しい姿勢維持や体幹強化、適切な運動、体重管理が重要です。再発予防のポイントは、以下のとおりです。

  • 良い姿勢を意識する(立位・座位)
  • 猫背を避け、腰への負担を軽減する
  • ウォーキングや水泳など、腰に負担の少ない運動を定期的に行う
  • バランスの良い食事と適度な運動で適切な体重を維持する

猫背は腰に大きな負担をかけるため注意が必要です。運動は無理なく継続できるものを選び、体幹を鍛えることで腰椎への負担を軽減できます。体重が増加すると腰への負担がさらに大きくなるため、日々の食事内容や活動量にも気を配りましょう。予防の取り組みを習慣化することで、ヘルニアの再発リスクを低減できます。

日常生活での注意点

手術後の日常生活で、腰への負担を減らすことが重要です。以下の点に注意しましょう。

  • 重いものを持ち上げない
  • 長時間同じ姿勢を続けない
  • 腰を冷やさない

重いものを持ち上げる際は、膝を曲げて腰を落とし、負担を軽減します。デスクワークでは、1時間に1回程度立ち上がり、ストレッチをして体を動かしましょう。

冬場は、腹巻きやカイロで腰を温めます。腰を冷やすと血行が悪くなり、痛みが悪化する可能性があります。腰に負担をかけないよう気をつけて生活し、気になることは医師に相談するようにしましょう。

まとめ

椎間板ヘルニアが、保存療法で改善しない場合や神経症状が重い場合、日常生活に支障がある場合は、手術が選択肢となります。手術には複数の種類があり、特徴やリスクが異なるため、医師と相談して最適な方法を選択しましょう。

手術後はリハビリテーションや日常生活での注意点を守り、再発予防に努めることが重要です。痛みやしびれなどの症状で悩んでいる方は、医療機関を受診し、専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。

参考文献

もり整形外科 079-562-5169 ホームページ