• 2025年3月22日

脊柱管狭窄症が手遅れになるリスクとは?知っておきたい初期症状と対処法

腰痛や足の違和感などは、脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)の可能性があります。脊柱管狭窄症とは、脊柱管が狭くなり、神経が圧迫されることで、痛みやしびれ、歩行困難などの症状を引き起こす疾患です。脊柱管狭窄症の初期症状は軽く、日常生活での些細な違和感から始まるため、見過ごしてしまう可能性があります。

「年のせい」と考える前に、この記事で症状について確認してみましょう。間欠性跛行や腰痛、足のしびれや痛みなど、主な症状と、判断基準をわかりやすく解説します。健康を守るために、脊柱管狭窄症について知っておきましょう。

脊柱管狭窄症の初期症状

脊柱管狭窄症の初期症状は、腰痛や足のしびれや痛みなど、多様な形で現れます。症状について以下にまとめました。

症状特徴
間欠性跛行しばらく歩くと足に痛みやしびれが出てくる可能性があります。数分休むと歩きやすくなります。休憩の間、前かがみの姿勢をとると、症状が早く軽減しやすくなるのが特徴です。
腰痛腰に鈍い痛みや重だるさを感じることがあります。痛みの程度は軽く、安静にしていると治まることが多いです。
下肢のしびれや痛み足の特定の場所に、ジンジンとしたしびれや、鋭い痛み、焼け付くような痛みなどを感じることがあります。左右どちらかの足に症状が現れる場合や、両足に症状が現れる場合もあります。
足の冷え・だるさ足が冷たく感じたり、だるさを感じたりすることがあります。慢性的な冷え感やだるさの場合、脊柱管狭窄症の可能性があります。

上記の初期症状は、老化に伴う体の変化に似ていることが多く、気づかずに過ごしてしまうこともあります。少しでも異変を感じたら、医療機関の受診を検討しましょう。

脊柱管狭窄症を放置してしまうリスク

脊柱管狭窄症を放置してしまうリスクとして、以下の内容が挙げられます。

  • 歩行障害や日常生活への影響
  • 神経障害によるしびれ・感覚異常の悪化
  • 重症化による排尿・排便障害のリスク

歩行障害や日常生活への影響

脊柱管狭窄症を放置すると、神経への圧迫が徐々に強まり、歩行時に痛みやしびれが悪化します。典型的な症状である「間欠性跛行(かんけつせいはこう)」は、少し歩いただけで脚の痛みやしびれが強まり、しばらく休まないと歩けなくなる状態です。外出が困難になり、日常生活の活動範囲が大幅に制限されます。

階段の昇り降りや買い物、家事などにも支障をきたし、生活の質(QOL)が低下します。早期の治療やリハビリによって進行を防ぐことが可能なため、軽い違和感の段階で専門医の診察を受けることが望まれます。

神経障害によるしびれ・感覚異常の悪化

脊柱管狭窄症の進行により、腰から足にかけて走る神経が圧迫され続けると、しびれや感覚異常が慢性化し、元に戻りにくくなることがあります。初期段階では一時的な違和感や軽いしびれにとどまりますが、放置することで神経のダメージが進行します。

感覚の鈍さや冷感、灼熱感(ヒリヒリした痛み)といった症状が強くなることがあります。神経の圧迫が長期間に及ぶと、神経そのものの機能が低下し、治療後も症状が残る「神経障害性疼痛」へと移行する場合もあります。早めの検査と治療により、神経障害のリスクを防ぐことが重要です。

重症化による排尿・排便障害のリスク

脊柱管狭窄症が重症化すると「馬尾神経(ばびしんけい)」と呼ばれる神経束が圧迫されることがあります。馬尾神経は排尿・排便や下肢の感覚、運動に関わる重要な神経です。障害が起こると、膀胱直腸障害(神経因性膀胱)が起こることがあり、尿意や便意が感じにくくなる、あるいは漏れてしまうなどの症状が生じます。

進行すると自力での排泄が困難になることもあります。排尿・排便障害は手術を含む早急な治療介入が必要な「赤信号」です。こうした状態に至る前に、違和感やしびれを放置せず、専門医に相談することが重篤な合併症を防ぐ鍵となります。

脊柱管狭窄症の症状管理と早期対応について

脊柱管狭窄症の症状管理と早期対応について、以下の内容を解説します。

  • セルフチェックを行う
  • 病院で検査を受ける

セルフチェックを行う

脊柱管狭窄症の初期症状は、他の病気と似ていることが多く、見逃してしまうケースもあるので、ご自身の体の変化に注意することが重要です。初期症状の段階の早期発見・早期治療が予後を左右する可能性があるため、少しでも気になる症状があれば、セルフチェックを行い、必要に応じて医療機関を受診するようにしましょう。

以下のチェックリストは、脊柱管狭窄症の初期症状を把握するのに役立ちます。

チェック項目具体的な症状の例日常生活への影響
間欠性跛行100mほど歩くとふくらはぎが痛くなり、少し休むとまた歩けるようになります。信号待ちで立ち止まっていると足が痛くなります。買い物や散歩など、長距離の歩行が困難になる可能性があります。
腰痛座っているときよりも立っているときのほうが腰が痛みます。腰が重だるく、長時間立っているのが辛いときがあります。前かがみになると腰痛が軽減する場合もあります。長時間立っている必要がある仕事や家事が辛くなる場合があります。
足のしびれや痛み片方の足、あるいは両足ともしびれます。足の裏がジンジンする、あるいはチクチクすることもあります。靴下の履き替えやペディキュアが難しくなることがあります。
排尿・排便障害トイレが近くなることや尿が出にくくなることがあります。排尿の我慢が難しくなったり、便秘気味になったりする場合もあります。トイレに行く回数が増えるため、外出が億劫になる可能性があります。

チェックリストの症状に複数当てはまる、症状が持続する場合は、脊柱管狭窄症の可能性を疑い、医療機関への受診を検討しましょう。「間欠性跛行」は脊柱管狭窄症を強く疑うサインです。

病院で検査を受ける

脊柱管狭窄症の診断には、問診や視診、触診に加えて、画像検査や神経学的検査が重要となります。検査によって、脊柱管の狭窄の程度や神経の圧迫の有無を確認し、確定診断へと導きます。病院で行われる検査は、主に以下の3つです。

  • MRI検査
    脊柱管狭窄症の診断に有効な検査です。強力な磁場と電波を用いて、脊髄や神経、椎間板などの状態を鮮明に映し出します。脊柱管の狭窄の程度や、神経が圧迫されている部位を正確に把握することができます。
  • CT検査
    X線を用いて脊柱の断層画像を撮影する検査です。骨の状態を詳細に確認できるため、骨のとげ(骨棘)や椎間板ヘルニアなど、脊柱管狭窄の原因となっている病変を特定するのに役立ちます。MRI検査に比べて、骨の状態をより鮮明に確認できるというメリットがあります。
  • 神経学的検査
    医師が、足の感覚や反射、筋力などを確認する検査です。脊髄神経が圧迫されることで、神経の伝達機能が低下し、感覚障害や筋力低下などの症状が現れることがあります。神経学的検査では、症状を客観的に評価し、神経の圧迫による機能障害の有無を判断します。

脊柱管狭窄症の治療法

脊柱管狭窄症の治療法について、以下の項目を解説します。

  • 保存療法
  • 手術療法

保存療法

保存療法は、手術をせずに薬物療法やリハビリテーション、注射などによって症状の改善を図る治療法です。体への負担が少ないという大きなメリットがあります。

保存療法で行われる薬物療法では、痛みやしびれに対する鎮痛剤や神経障害性疼痛治療薬などが処方されることがあります。神経の炎症に働きかける神経ブロック注射が用いられる場合もあります。理学療法士による運動療法では、腰や背中の筋肉のための運動やストレッチなどの指導を受けることがあります。脊柱の安定性に働きかけ、症状の管理を目指します。

治療期間は数週間〜数か月程度かかることが一般的です。費用は、健康保険が適用されるため、自己負担額は比較的少なくなります。一回の診察につき、数百円〜数千円程度が目安となります。

手術療法

手術療法は、手術によって脊柱管を狭窄させている原因を取り除き、神経の圧迫を解消する治療法です。保存療法では効果が得られない場合や、症状が重い場合に検討されます。

入院期間は1〜2週間程度、治療期間は数か月かかることがあります。費用は、手術の種類や入院期間によって異なりますが、高額療養費制度を利用することで自己負担額を抑えることができます。手術費用は数十万円程度が目安となりますが、高額療養費制度の利用により、自己負担額は数万円程度に抑えられる場合が多いです。

治療法は、患者さんの症状の程度や日常生活への影響、年齢、全身状態などを総合的に考慮して決定されます。

2016年のコクラン共同計画によるシステマティックレビューでは、腰部脊柱管狭窄症に対する手術療法と保存療法(手術以外の治療法)の比較において、明確なベネフィットの差は見られなかったと報告されています。

生活の質を向上させるためのアプローチ

脊柱管狭窄症の治療は、単に症状を改善させるだけでなく、患者さんの生活の質を向上させることも重要な目標です。患者さん自身が積極的に治療に取り組む姿勢が大切です。日常生活では、以下のことに注意しましょう。

  • 正しい姿勢を意識する
    猫背は脊柱管を狭くしてしまう可能性があります。背筋を伸ばすことを心がけてください。
  • 適度に運動する
    腰や背中の筋肉を強化し、脊柱の安定性を高める効果が期待できます。ウォーキングや水泳など、体に負担の少ない運動から始めてみましょう。
  • 体重管理をする
    過剰な体重は腰への負担を増大させ、症状を悪化させる可能性があります。バランスの良い食事と適度な運動を心がけ、適正体重を維持しましょう。
  • 安静にする
    痛みやしびれが強い場合は、無理をせずに安静にすることも大切です。しかし、痛みが強いからといって全く動かないでいると、かえって症状が悪化してしまう可能性があります。痛みの程度に合わせて、無理のない範囲で体を動かすようにしましょう。
  • ストレスを管理する
    精神的なストレスも症状を悪化させる要因となるため、リラックスできる時間を作る、趣味を楽しむなど、ストレスを軽減するための工夫も大切です。十分な睡眠時間を確保することも重要です。

まとめ

脊柱管狭窄症の症状に早めに気づき、適切な対応を行うことは、日常生活の質を維持するために重要です。適度な運動や体重管理、ストレス管理などが大切になります。積極的に生活に取り入れましょう。

腰痛や足のしびれ、間欠性跛行などの症状を感じたら「年のせい」と考える前に、専門家に相談することを検討しましょう。MRIやCTなどの検査による診断にもとづき、個々の状態に合わせた対応方法について相談できます。症状とうまく付き合いながら、生活の質を維持することを目指しましょう。

参考文献

Fabio Zaina, Christy Tomkins-Lane, Eugene Carragee, Stefano Negrini. Surgical versus non-surgical treatment for lumbar spinal stenosis. Cochrane Database Syst Rev, 2016, 2016(1), CD010264.

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