• 2025年5月21日

石灰沈着性腱板炎の症状と治療法!痛みの軽減が期待できるセルフケアも解説

肩に強い痛みが生じて、腕を動かしにくくなる経験はありませんか?40〜60代の女性に多くみられる「石灰沈着性腱板炎」は、肩の腱板に石灰が沈着し、激しい痛みや運動制限を引き起こす疾患です。石灰沈着性腱板炎は、適切な治療を行わないと、肩関節が硬くなる可能性があります。

この記事では、石灰沈着性腱板炎の症状や原因、痛みを軽減するための5つの治療法などを解説します。肩の痛みに悩んでいる場合は、紹介しているセルフケアを取り入れ、痛みからの解放を目指しましょう。

石灰沈着性腱板炎の症状

石灰沈着性腱板炎は、糖尿病や甲状腺機能異常、更年期の内分泌系の変化などが要因となっている可能性があります。石灰沈着性腱板炎の主な症状は以下のとおりです。

  • 肩に突然激痛が走る
  • 肩が動かしにくい
  • 肩の夜間痛がある

肩に突然激痛が走る

石灰沈着性腱板炎の痛みは、突然、激しくなる特徴が挙げられます。多くの場合、前触れもなく、鋭い痛みが肩に生じます。急性期では、安静時でも強い痛みを感じる場合がありますが、特に肩を動かす際に激痛が走り、腕を動かすのも困難になる人もいます。

痛みは、焼けるような感覚や突き刺すような感覚など、患者さんによって表現が異なります。痛みの場所は肩関節に限らず、腕や首にまで広がる人もいます。特定の姿勢や動作によって痛みが誘発または増悪する場合もあります

肩が動かしにくい

石灰沈着性腱板炎を発症すると、肩関節の動きが悪くなり、腕を自由に動かすことが難しくなります。炎症によって肩関節周囲の組織が腫脹し、疼痛が増強することで、肩の運動が制限されるためです。以下の動きが難しくなる傾向があります。

  • 腕を上げる
  • 後ろに回す
  • 洗濯物を干す
  • 高いところのものを取る

日常生活において頻繁に行われる動作であるため、石灰沈着性腱板炎は日常生活に支障をきたす可能性があります。着替えや洗髪、車の運転などが困難になる人も少なくありません。長期間にわたって適切な治療を行わない場合、肩関節が硬くなり、拘縮になる可能性があります。

拘縮(こうしゅく)は肩関節の可動域を著しく制限し、日常生活に深刻な影響を与えるため、早期の診断と適切な治療が重要です

肩の夜間痛がある

石灰沈着性腱板炎の症状の一つとして、夜間痛が挙げられます。夜になると痛みが強くなり、寝返りを打つのも困難になる場合があります。夜間の姿勢や昼間の活動による疲労の蓄積、安静時に痛みへの意識が集中するなど、複数の要因が関与している場合があります。

夜間痛は、睡眠を妨げ、慢性的な睡眠不足を引き起こす可能性があります。睡眠不足は、日中の疲労感や倦怠感を増強させるだけでなく、集中力の低下やイライラ感などの精神的な症状につながりやすくなります。

石灰沈着性腱板炎の5つの治療法

石灰沈着性腱板炎は、適切な治療法を選択することで、痛みの軽減や肩の機能回復が期待できるという研究報告もあります。石灰沈着性腱板炎の主な治療法は以下の5つです。

  • 保存療法:痛み止めや安静で様子を見る
  • 理学療法:運動で肩の機能改善を目指す
  • 注射療法:ステロイド注射で痛みを軽減する
  • 体外衝撃波:石灰を破砕し自然排出を促す
  • 手術療法:他の治療で効果がない場合に検討する

保存療法:痛み止めや安静で様子を見る

保存療法は、手術を行わずに痛みや炎症を抑え、自然治癒を目指す治療法です。石灰沈着性腱板炎は多くの場合、時間経過とともに自然に軽快する傾向があるため、初期段階では保存療法が選択される場合が多いです。痛みや炎症を抑えるために、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などの痛み止めを服用する場合があります

炎症が強い時期は、薬剤によって痛みをコントロールし、日常生活を送りやすくする効果が期待できます。肩への負担を軽減するためには、安静を保つことも重要です。重いものを持ったり、腕を無理に動かしたりする動作は避け、炎症が治まるまで肩を休ませましょう。

痛みが強い場合は、三角巾で腕を固定し安静を保つことで、肩関節の負担軽減を図れます。炎症が強い急性期は、氷嚢などで患部を冷やすことで、痛みや腫れの軽減が期待できる場合があります。15分程度の冷却を2時間間隔で行うのが効果的です。冷却することで、炎症の広がりを抑え、痛みの悪化を防ぐ効果が期待できます。

痛みが慢性化している場合は、温めることで血行が促進され、痛みが和らぐ場合があります。入浴や蒸しタオルなどで温めるのが効果的です。温熱療法は、血流の改善を促し、肩関節周囲の筋肉の緊張緩和や、痛みの軽減につながる可能性があります。

理学療法:運動で肩の機能改善を目指す

理学療法とは、運動や物理療法を用いて、肩の機能回復を目指す治療法です。痛みが軽減してきたら、理学療法士の指導のもと、肩関節の柔軟性や筋力を改善するための運動を行うことが推奨されます。理学療法で行う運動の例としては、以下があります。

  • 振り子運動:肩甲骨の動きを滑らかにし、肩関節周囲の筋肉の緊張を和らげる
  • ストレッチ:肩関節周囲の筋肉の柔軟性を高め、可動域を広げる
  • 筋力トレーニング:肩関節周囲の筋肉を強化し、関節の安定性を高める

肩関節周囲の筋肉が弱化していると、肩関節が不安定になり、痛みや再発のリスクが高まります。筋力トレーニングで筋肉を強化することで、肩関節の安定性を高め、再発予防の効果が期待できます

注射療法:ステロイド注射で痛みを軽減する

注射療法は、肩関節に直接薬剤を注射する治療法です。痛みが強く、保存療法や理学療法などで効果が不十分な場合に検討されます。肩関節に抗炎症作用を持つステロイド薬を注射することで、炎症の抑制や痛みの軽減が期待できます。即効性は得られますが、効果が一時的な場合もあり、頻回の注射は推奨されません。

ヒアルロン酸注射は、関節液の粘性を補い、関節の動きの改善が期待できる場合があります。ヒアルロン酸注射は、関節液の減少や変性を補うことで、関節の動きを改善し、痛みを軽減する効果が期待できます。

局所麻酔薬注射は、痛みを一時的に麻痺させ、痛みの悪循環を断ち切る効果が期待できます。他の治療と併用されることが多いです。注射療法は即効性が得られますが、効果が一時的な場合もあります。注射による合併症のリスクもあるため、医師と相談したうえで治療を受ける必要があります。

体外衝撃波:石灰を破砕し自然排出を促す

体外衝撃波療法は、体外から衝撃波を当てて、腱板に沈着した石灰を破砕し、自然排出を促す治療法です。手術を行わずに石灰を除去できるため、低侵襲な治療法として注目されています。体外衝撃波は、石灰の破砕だけでなく、血流促進や組織修復の促進なども期待できます。

手術療法:他の治療で効果がない場合に検討する

手術療法は、他の治療法で改善が見られない場合や、石灰が大きい場合などに、医師と相談したうえで検討される場合があります。手術では、関節鏡を用いて石灰を除去します。手術には感染症などのリスクがあるため、医師と相談したうえで手術を受けるか判断する必要があります

石灰沈着性腱板炎のセルフケア5選

石灰沈着性腱板炎のセルフケアとして、以下の5つを解説します。

  • アイシング
  • 振り子運動
  • カルシウムの摂取
  • マッサージ
  • 痛み止めの活用

セルフケアは、医師に相談したうえで取り入れましょう。

アイシング

アイシングは炎症を抑え、痛みを和らげる効果が期待できます。発症初期の急性期や痛みが強い時期などには効果的です。保冷剤や氷嚢をタオルに包み、痛む部分に15分当てて冷やし、2時間おきに繰り返しましょう。凍傷防止のため、皮膚が赤くなったり、感覚がなくなったりする場合は、アイシングを中止しましょう。

皮膚の状態を確認して、腫れが引いてきたら、温熱療法に切り替えましょう。温めることで血行が促進され、痛みの緩和につながりやすくなります。入浴や蒸しタオルなどによる患部の温熱療法は、慢性期に適しています。

振り子運動

振り子運動は、肩の可動域を広げ、肩甲骨周囲の筋肉の緊張をほぐす効果的なエクササイズです。痛みを感じない範囲で、腕を下げ、体を前かがみにします。腕を前後に、左右に、そして円を描くようにゆっくり動かしましょう。振り子運動は、1日2~3セット行います。

無理に動かすと痛みが悪化する可能性があるため、痛みを感じない範囲で、ゆっくりと行うことが重要です。振り子運動は、肩関節周囲の筋肉の柔軟性を維持し、肩関節の可動域制限の予防・改善に役立ちます。

カルシウムの摂取

カルシウムは、骨や歯の形成に欠かせない栄養素です。カルシウム不足は骨を弱くし、他の病気のリスクを高める可能性があります。バランスの良い食事を心がけるには、以下の食品を取り入れましょう。

  • カルシウム:乳製品(牛乳、ヨーグルト、チーズなど)、小魚、緑黄色野菜など
  • ビタミンD:鮭、きのこ、卵黄など
  • ビタミンK:納豆、ほうれん草、小松菜など

ビタミンDやビタミンKは、カルシウムの吸収を促すため、普段からの摂取をおすすめします。

マッサージ

マッサージは、肩の筋肉の緊張をほぐし、血行を促進することで痛みを和らげる効果が期待できます。痛みが強い急性期にはマッサージを避け、痛みが落ち着いてきた慢性期に取り入れましょう。ご自身でマッサージを行う場合は、肩の筋肉を優しくもみほぐすように行いましょう。

痛みが強くなるマッサージは逆効果であるため、注意が必要です。専門家によるマッサージも効果的です。

痛み止めの活用

痛みが強い場合は、市販の鎮痛剤を活用することも方法の一つです。アセトアミノフェンやイブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、痛みや炎症を抑える効果が期待できます。薬には副作用があるため、用法・用量を守り、医師や薬剤師に相談しながら使用することが重要です

痛み止めなどの鎮痛剤を、自己判断で長期間使用するのは避けてください。

まとめ

石灰沈着性腱板炎は、肩の痛みや運動制限を引き起こし、日常生活に影響を及ぼす場合があります。医療機関では、以下の治療法を医師と相談したうえで導入します。

  • 保存療法:痛み止めや安静で様子を見る
  • 理学療法:運動で肩の機能改善を目指す
  • 注射療法:ステロイド注射で痛みを軽減する
  • 体外衝撃波:石灰を破砕し自然排出を促す
  • 手術療法:他の治療で効果がない場合に検討する

石灰沈着性腱板炎は、自宅でできるセルフケアを取り入れることで、痛みの早期改善に期待できます。肩に持続的な痛みがある場合は、医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが大切です。医師の指導のもと、紹介したセルフケアを取り入れ、一日も早く快適な生活を取り戻しましょう。

参考文献

Vito Chianca, Domenico Albano, Carmelo Messina, Federico Midiri, Giovanni Mauri, Alberto Aliprandi, Michele Catapano, Lorenzo Carlo Pescatori, Cristian Giuseppe Monaco, Salvatore Gitto, Anna Pisani Mainini, Angelo Corazza, Santi Rapisarda, Grazia Pozzi, Antonio Barile, Carlo Masciocchi, Luca Maria Sconfienza. Rotator cuff calcific tendinopathy: from diagnosis to treatment. Acta Biomed, 2018, 89(1-S), p.186-196

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