- 2025年1月21日
肘の痛みの原因
あなたは、朝顔を洗う時、服を着る時、あるいは食事をする時など、何気ない動作で肘に痛みを感じたことはありませんか? 1990年代にNirschlらが報告したように、肘の痛みは、外側、内側、後側など、痛む場所によって原因が異なり、日常生活に支障をきたすこともあります。
原因不明の肘の痛み、もしかしたら放っておくと悪化してしまうかも…と不安を感じている方もいるかもしれません。統計によると、テニス肘は人口の1~3%に発症すると言われており、決して珍しい症状ではありません。
この記事では、肘の痛みの原因を3つの分類に分け、さらに症状や家庭でできる応急処置、そして具体的な治療法と予防法まで、専門的な知見に基づいて詳しく解説します。肘の痛みを根本から理解し、一日も早く快適な日常生活を取り戻すためのヒントが満載です。さあ、一緒に肘の痛みとサヨナラしましょう。
肘の痛みの原因3つの分類
肘の痛み。朝、顔を洗う時、服を着る時、食事をする時…、何をするにも痛みがあると、一日憂うつな気持ちになってしまいますよね。そのお気持ち、よく分かります。私自身も、バスケットボールで肘を酷使した経験から、肘の痛みがどれほど辛いものか身にしみて感じています。
肘の痛みは、その原因によって適切な対処法が異なります。原因を正しく理解することで、適切な治療や予防に繋げることができ、日常生活への影響を最小限に抑えることができるのです。肘の痛みの原因は様々ですが、大きく分けて以下の3つの分類に分けられます。
腱の使い過ぎによる炎症(テニス肘、ゴルフ肘など)
腱とは、筋肉と骨をつなぐ丈夫な組織です。肘の関節周辺には、手首や指を動かすための多くの腱が集まっています。これらの腱は、日常生活での動作やスポーツなどで繰り返し使われることで負担がかかり、炎症を起こすことがあります。これが、いわゆる「使い過ぎ症候群」と呼ばれるものです。
代表的なものに、テニス肘とゴルフ肘があります。テニス肘は、正式には「上腕骨外側上顆炎」と言い、手首を反らす筋肉の腱が肘の外側で炎症を起こすことで痛みを生じます。タオルを絞ったり、ドアノブを回したり、フライパンを持ったりする動作で、肘の外側に鋭い痛みを感じることが多いです。私のクリニックにも、趣味でテニスを始めたばかりの40代男性がテニス肘で来院されたケースがありました。
一方、ゴルフ肘は、正式には「上腕骨内側上顆炎」と言い、手首を曲げる筋肉の腱が肘の内側で炎症を起こすことで痛みを生じます。ゴルフのスイングのように、手首を掌側に曲げる動作で痛みが強くなります。最近では、スマートフォンの使い過ぎでゴルフ肘になる若い方も増えています。
これらの名前から、テニスやゴルフをする人に特有の症状と思われがちですが、実際には、パソコン作業や家事、育児など、日常生活の何気ない動作で発症するケースが多いです。例えば、長時間のパソコン作業やスマートフォンの操作、料理、洗濯、掃除など、繰り返し行う動作によって肘の腱に負担がかかり、炎症を引き起こす可能性があります。特に、近年はリモートワークの普及により、パソコン作業によるテニス肘の患者さんが増加傾向にあります。
初期症状では、一時的な軽い痛みや違和感として感じる場合が多いですが、放置すると慢性化し、日常生活に支障をきたすこともあります。炎症が慢性化すると、安静時にも痛みを感じたり、肘の関節が動きにくくなることもあります。さらに、腱が断裂するケースも稀にあります。そのため、少しでも違和感を感じたら、早めに整形外科を受診することをお勧めします。
血管線維芽細胞性腱症、聞きなれない言葉ですよね。これは、炎症細胞の浸潤を伴わない、変性した腱組織に血管新生を伴う病態を指します。簡単に言うと、炎症ではなく、腱の組織が変性して新しい血管ができてしまう状態です。この病態理解は、適切な治療選択に繋がるため重要です。例えば、テニス肘の場合、炎症を抑える薬物療法だけでなく、段階的に強度を増していく抵抗運動によるリハビリテーションが有効です。
関節の炎症(変形性肘関節症など)
肘の関節は、上腕骨、橈骨、尺骨という3つの骨から構成されています。これらの骨の表面は、クッションの役割を果たす軟骨で覆われています。しかし、加齢や過去のケガ、過度な負担などによって、この軟骨がすり減ってしまうことがあります。すると、骨同士が直接こすれ合うようになり、炎症を起こして痛みや腫れが生じます。これが、変形性肘関節症です。
変形性肘関節症は、比較的高齢者に多い病気ですが、若い方でも発症する可能性があります。特に、野球やテニス、ゴルフなど、肘に負担のかかるスポーツをしている方、過去に肘を骨折したり脱臼したりした経験のある方は注意が必要です。私のクリニックでは、若い頃に野球をしていた50代男性が、変形性肘関節症と診断されたケースがありました。
関節リウマチも、関節に炎症を起こす病気の一つです。これは、免疫システムの異常によって自分の体の関節を攻撃してしまう自己免疫疾患です。肘だけでなく、手や足の関節など、複数の関節に左右対称性に症状が現れることが特徴です。朝のこわばりや、微熱、倦怠感などの症状を伴うこともあります。
神経の圧迫(肘部管症候群など)
肘の痛みは、神経の圧迫によって引き起こされることもあります。代表的なものに、肘部管症候群があります。肘の内側には、肘部管と呼ばれるトンネルがあり、その中を尺骨神経という神経が通っています。肘を曲げたり、肘を机の角などにぶつけたりすることで、この尺骨神経が圧迫され、小指側の手や腕にしびれや痛み、感覚の鈍さなどが現れます。
肘部管症候群は、デスクワークや手作業が多い方、肘を頻繁に曲げる動作をする方などに多く見られます。私のクリニックにも、長時間のデスクワークで肘部管症候群を発症した30代女性が来院されました。
外傷(骨折、脱臼、靭帯損傷など)
転倒やスポーツなどによる強い衝撃によって、肘の骨が折れたり(骨折)、関節が外れたり(脱臼)、靭帯が損傷したりすることがあります。これらの外傷は、強い痛みや腫れ、変形などを伴うため、すぐに医療機関を受診する必要があります。
その他の疾患(関節リウマチ、感染症など)
肘の痛みは、関節リウマチや感染症など、他の疾患が原因で起こることもあります。また、稀なケースですが、骨肉腫や軟部肉腫などの腫瘍が原因となることもあります。
肘の痛みは様々な原因で起こるため、自己判断せずに、医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが大切です。
肘の痛みの症状と対処法5選
肘の痛み。朝、顔を洗う時、服を着る時、食事をする時…、何をするにも痛みがあると、一日憂うつな気持ちになってしまいますよね。そのお気持ち、よく分かります。私自身も、学生時代に柔道で肘を痛めた経験があり、肘の痛みがどれほど辛いものか身にしみて感じています。
肘は、日常生活で非常に多くの動作に関わる重要な関節です。そのため、肘に痛みがあると、生活の質が著しく低下してしまいます。適切な対処法を知ることで、痛みを軽減し、快適な日常生活を送ることができるようになりますので、一緒に見ていきましょう。
痛み方の種類(ズキズキ、チクチク、シビレなど)
肘の痛みは、その原因によって「ズキズキ」「チクチク」「シビレ」など、様々な形で現れます。例えば、腱の炎症が原因で起こるテニス肘では、ズキズキとした拍動性の痛みを感じることが多いです。これは、炎症によって生じた発痛物質が、周りの組織を刺激するためです。
一方、肘部管症候群のように神経が圧迫されることで起こる痛みは、チクチクとした針で刺されるような痛みやしびれとして感じられます。これは、尺骨神経が圧迫されることで、神経伝達に異常が生じるためです。
私のクリニックにも、ピアノを長年続けている50代女性が、肘の内側の痛みやしびれを訴えて来院されたケースがありました。精密検査の結果、肘部管症候群と診断され、尺骨神経の圧迫を取り除く手術を行いました。術後は痛みやしびれが消失し、再びピアノを演奏できるようになりました。
このように、痛み方は原因によって大きく異なるため、ご自身の痛み方を把握することは、適切な診断と治療を受ける上で非常に重要です。
痛む場所(内側、外側、後ろ側など)
肘の痛みは、どの部位に現れるかによっても原因が異なります。肘の外側に痛みがある場合は、テニス肘、内側に痛みがある場合はゴルフ肘、後ろ側に痛みがある場合は上腕三頭筋腱炎などが疑われます。
テニス肘は、手首を反らす筋肉の腱が肘の外側で炎症を起こすことで痛みを生じます。ゴルフ肘は、手首を曲げる筋肉の腱が肘の内側で炎症を起こすことで痛みを生じます。上腕三頭筋腱炎は、肘を伸ばす筋肉である上腕三頭筋の腱に炎症が起こることで痛みを生じます。
Nirschlらの研究でも指摘されているように、肘の異常は、外側では短橈側手根伸筋(ECRB)と総指伸筋(EDC)複合体、内側では円回内筋と橈側手根屈筋、そして後側では上腕三頭筋に特異的に見られることが分かっています。
最近では、スマートフォンの長時間使用による肘の痛みに悩む方が増えています。これは、指を動かす筋肉を酷使することで、肘の内側や外側の腱に負担がかかり、炎症を起こしやすくなるためです。
痛みが起こる動作や状況
肘の痛みは、特定の動作や状況で悪化することがあります。例えば、テニス肘の場合は、タオルを絞ったり、ドアノブを回したりする動作で痛みが強くなります。これは、これらの動作で手首を反らす筋肉が強く収縮し、炎症を起こしている腱に負担がかかるためです。
ゴルフ肘の場合は、物を握ったり、手首を曲げる動作で痛みが強くなります。これは、これらの動作で手首を曲げる筋肉が強く収縮し、炎症を起こしている腱に負担がかかるためです。
また、肘部管症候群の場合は、肘を長時間曲げている姿勢や、肘を机の角などにぶつけることで痛みが悪化します。これは、これらの動作や姿勢によって尺骨神経が圧迫されるためです。
家庭でできる応急処置(RICE処置など)
肘に痛みを感じた際は、まずRICE処置を行いましょう。RICE処置とは、Rest(安静)、Ice(冷却)、Compression(圧迫)、Elevation(挙上)の4つのステップからなる応急処置です。
安静:痛む肘をできるだけ動かさないようにします。 冷却:氷水を入れた袋や保冷剤などをタオルで包み、痛む部分に15~20分程度当てます。 圧迫:弾性包帯などで痛む部分を軽く圧迫することで、腫れや内出血を抑えます。 挙上:痛む肘を心臓より高い位置に保つことで、血液の循環を良くし、腫れや痛みを軽減します。
RICE処置は、あくまでも応急処置です。痛みが続く場合は、必ず医療機関を受診しましょう。
症状を悪化させないための注意点
肘の痛みを悪化させないためには、日常生活での注意点を守ることが大切です。痛む肘を無理に動かさない、重い物を持ったり肘に負担がかかる動作を避ける、パソコン作業など同じ動作を長時間続ける場合はこまめに休憩を取りストレッチを行う、などが挙げられます。
また、肘を温めすぎたり冷やしすぎたりすることも、痛みを悪化させる原因となるため避けましょう。
肘の痛みは、適切な治療とケアを行うことで改善する可能性があります。自己判断で治療せず、専門医の診察を受けることをお勧めします。
肘の痛みの治療法と予防法4選
肘の痛みは、安静にしていてもズキズキ痛んだり、物を持つのも辛いなど、日常生活に大きな影響を与えます。適切な治療と予防法を知ることで、痛みを軽減し、快適な生活を取り戻すことができるのです。
整形外科医として20年以上、様々な肘の痛みを抱える患者さんを診てきました。その経験から、患者さんが最も知りたい情報、そして治療と予防の重要性についてお伝えします。
保存療法(薬物療法、注射、リハビリテーションなど)
保存療法は、手術をせずに痛みを和らげ、肘の機能を回復させるための治療法です。私のクリニックでも、まず保存療法から始めることが多いです。
保存療法には、薬物療法、注射、リハビリテーションなど、様々な方法があります。
薬物療法: 痛みや炎症を抑える消炎鎮痛剤を内服したり、湿布を貼ったりします。内服薬は、胃への負担を軽減するために、食後に服用することをお勧めします。
注射: 炎症が強い場合は、ステロイド注射をすることで痛みを素早く抑えることが可能です。痛みが強い部分に直接注射するので、効果が早く現れます。しかし、ステロイド注射は、腱を弱くする可能性があるため、頻回に注射することは避けなければなりません。医師の指示に従って適切な回数を守ることが重要です。
リハビリテーション: 専門の理学療法士の指導のもと、ストレッチや筋力トレーニングなどの運動療法を行います。肘だけでなく、肩や手首の筋肉もバランスよく鍛えることで、肘への負担を軽減し、機能回復を目指します。リハビリテーションは継続することが重要です。例えば、週に2回のペースで3ヶ月間継続することで、痛みの軽減や機能改善を実感する患者さんも多くいらっしゃいます。
例えば、趣味でバドミントンを始めた50代女性の場合、肘の外側の痛みを訴えて来院されました。診察の結果、テニス肘と診断し、保存療法として消炎鎮痛剤と湿布を処方、併せて理学療法士によるリハビリテーションを行いました。数週間後には痛みが軽減し、バドミントンを再開できるまでに回復しました。
手術療法の種類と適応
保存療法で効果が見られない場合や、靭帯損傷などの重症例には、手術療法が選択されることがあります。手術には、関節鏡手術や人工関節置換術など、様々な種類があります。
関節鏡手術: 内視鏡を用いて、関節内の損傷した組織を修復する手術です。傷口が小さいため、体への負担が少なく、回復も早いというメリットがあります。入院期間も短く済むことが多いです。
人工関節置換術: 損傷がひどい関節を人工関節に置き換える手術です。変形性肘関節症などの場合に行われます。手術後はリハビリテーションを行い、日常生活動作の改善を目指します。
手術療法が必要かどうかは、医師が症状や画像検査の結果などを総合的に判断します。不安な場合は、セカンドオピニオンを求めるのも良いでしょう。
予防のためのストレッチやエクササイズ
肘の痛みを予防するためには、ストレッチやエクササイズで肘周りの筋肉を柔らかくし、血行を良くすることが大切です。
ストレッチ: 肘を伸ばした状態で、手のひらを下に向け、反対の手で指先を引っ張るストレッチや、タオルを使って肩甲骨を動かすストレッチなど、様々な方法があります。1回につき15~30秒程度、1日数回行うのが効果的です。
エクササイズ: 手首に軽いダンベルを持って、手のひらを上に向けたり下に向けたりする運動や、ゴムチューブを使ったトレーニングなどがあります。無理のない範囲で、10~15回を1セットとして、1日2~3セット行うと良いでしょう。
特に、テニス肘では、短橈側手根伸筋(ECRB)と総指伸筋(EDC)複合体のストレッチが有効です。また、ゴルフ肘では、円回内筋と橈側手根屈筋のストレッチが有効です。
これらのストレッチやエクササイズは、入浴後など、体が温まっている時に行うと効果的です。毎日継続することで、肘の柔軟性を維持し、痛みを予防することができます。
再発防止策と日常生活での注意点
肘の痛みが治まっても、再発を防ぐためには、日常生活での注意点を守ることが重要です。
正しい姿勢: 猫背などの悪い姿勢は、肘への負担を増大させます。パソコン作業をする際は、肘を90度に曲げ、机と椅子の高さを調整するなど、正しい姿勢を意識しましょう。
適切な休息: 肘に負担がかかる作業を長時間続ける場合は、こまめに休憩を取り、肘を休ませるようにしましょう。30分ごとに5分程度の休憩を入れるのが理想的です。
サポーターの使用: スポーツや重労働をする際は、サポーターを着用することで肘への負担を軽減できます。サポーターは、ドラッグストアやスポーツ用品店などで購入できます。
日常生活の中で、肘を意識的にケアすることで、再発を予防し、健康な肘を維持することができます。肘の痛みは、早期に適切な治療を行うことで改善する可能性が高いです。少しでも違和感を感じたら、我慢せずに整形外科を受診することをお勧めします。
まとめ
肘の痛みは、腱の使い過ぎ、関節の炎症、神経の圧迫、外傷など、様々な原因で起こります。日常生活での動作やスポーツ、加齢、過去のケガなどが原因となることもあります。痛み方や痛む場所、痛みが起こる動作や状況を把握することで、原因を特定しやすくなります。家庭ではRICE処置などの応急処置を行い、痛みが続く場合は、医療機関を受診しましょう。適切な治療法としては、保存療法(薬物療法、注射、リハビリテーション)や手術療法があります。また、ストレッチやエクササイズ、日常生活での注意点を守ることで、肘の痛みを予防し、再発を防ぐことができます。肘の痛みは早期に適切な治療を行うことで改善する可能性が高いので、違和感を感じたら我慢せずに整形外科を受診しましょう。
参考文献
- Nirschl RP, Ashman ES. Elbow tendinopathy: tennis elbow. Clinics in sports medicine 22, no. 4 (2003): 813-36.
追加情報
[title]: Elbow tendinopathy: tennis elbow.,
テニス肘(肘部腱症):病態解剖と非手術的治療
【要約】
肘部腱症、特にテニス肘の病態解剖は、炎症を伴わない血管線維芽細胞性腱症(アンギオフィブロブラスティック・テンディノシス)である。
肘の異常は、外側では短橈側手根伸筋(ECRB)と総指伸筋(EDC)複合体、内側では円回内筋と橈側手根屈筋、そして後側では上腕三頭筋に特異的に見られる。
非手術的治療の目標は、痛みを引き起こす異常な腱症組織を修復することである。
非手術的治療の鍵は、段階的に強度を増していく抵抗運動によるリハビリテーションである。
リハビリテーションが失敗した場合、記載されている手術的介入は高い成功率を示す。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14560549,
[quote_source]: Nirschl RP and Ashman ES. “Elbow tendinopathy: tennis elbow.” Clinics in sports medicine 22, no. 4 (2003): 813-36.