- 2025年1月21日
腱鞘炎とは?
現代人の生活に欠かせないスマートフォンやパソコン。実は、それらの使用によって腱鞘炎のリスクが高まっていることをご存じでしょうか? 知らないうちに進行し、日常生活に支障をきたす可能性もある腱鞘炎。放っておくと手術が必要になるケースも。この記事では、腱鞘炎の基礎知識から、種類、なりやすい人の特徴、そして具体的な治療法や予防策まで、小学生でも理解できるよう3つのポイントに絞って分かりやすく解説します。 ご自身やご家族を守るためにも、ぜひ最後までお読みください。
腱鞘炎を理解する3つのポイント
腱鞘炎、耳にしたことはあっても、どんな病気か具体的にイメージできない方もいらっしゃるかもしれません。実は、スマートフォンやパソコンの普及に伴い、現代人にとって非常に身近な病気となっています。放置すると日常生活に支障をきたす可能性もあるため、軽視せずに適切な対処が必要です。この記事では、腱鞘炎の基礎知識、種類、なりやすい人の特徴を3つのポイントに絞って、小学生でも理解できるようにわかりやすく解説します。
腱鞘炎とは?
腱鞘炎は、骨と筋肉をつなぐ「腱」と、その腱を包み保護する「腱鞘」の間で摩擦が生じ、炎症を起こす病気です。腱は、筋肉の力を骨に伝える役割を担っており、腱鞘は腱がスムーズに動くように潤滑油の役割を果たしています。
指を曲げ伸ばしする動作を想像してみてください。この時、腱は腱鞘の中を滑るように動いています。しかし、この動作を過剰に繰り返すと、腱と腱鞘がこすれ合い、炎症を引き起こします。これは、何度も同じ場所をこすり続けると皮膚が赤くなってヒリヒリするのと似ています。炎症が起こると腱鞘が腫れて狭くなり、腱の動きが制限されます。その結果、痛みや腫れ、指の動きの悪さといった症状が現れます。
例えば、
腱鞘炎の種類と症状
腱鞘炎にはいくつかの種類があり、それぞれ症状や好発部位が異なります。代表的なものに「ばね指」と「ドケルバン病」があります。
種類 | 症状 | 起こりやすい場所 |
---|---|---|
ばね指 | 指の曲げ伸ばしの際に、カクンと引っかかったり、痛みを感じたりする | 親指、中指、薬指の付け根 |
ドケルバン病 | 手首の親指側が腫れる、痛みがある、親指を動かしにくい | 手首の親指側 |
ばね指は、指を曲げた状態から伸ばそうとするときに腱が引っかかり、ばねのように跳ね返るように伸び、同時に痛みを伴います。これは、腱鞘が狭くなり、腱がスムーズに動かなくなることが原因です。
ドケルバン病は、手首の親指側にある腱鞘が炎症を起こす病気です。親指を動かしたり、手首を小指側に曲げたりすると痛みが強くなります。更年期の女性に多く見られ、ホルモンバランスの変化も一因と考えられています。
その他にも、手首の過度な伸展運動による痛み、抵抗を加えた手首や肘の伸展による痛み、肘から前腕の背側へ放射する安静時の痛みなどを伴う外側上顆炎(テニス肘)も腱鞘炎の一種です。40~60歳の女性に多く見られる症状ですが、男性にも発症します。
腱鞘炎になりやすい人
腱鞘炎は、手や指をよく使う人に起こりやすい病気です。具体的には、パソコンやスマートフォンをよく使う方、ピアノやギターなどの楽器を演奏する方、野球やテニス、バドミントンなどのスポーツ選手が挙げられます。また、家事や育児、工場での反復作業など、日常生活でも手や指を酷使する場面は多く、それらも腱鞘炎のリスクを高めます。
特に、妊娠中や出産後、更年期の女性はホルモンバランスの変化により腱鞘が腫れやすくなるため、腱鞘炎を発症しやすくなります。
また、糖尿病患者や人工透析を受けている方も腱鞘炎のリスクが高いと言われています。
年齢や性別、生活習慣によって腱鞘炎のリスクは異なるため、それぞれに合った予防策を講じることが重要です。
腱鞘炎の治療法4つの選択肢と日常生活の注意点
腱鞘炎の痛みは、日常生活に大きな影を落とします。朝、指がこわばって動かしにくかったり、物を持つたびに痛みが走ったりすると、仕事や家事もままなりません。腱鞘炎は、適切な治療を行えば改善する可能性が高い病気です。しかし、放置すると慢性化し、手術が必要になるケースもあります。
腱鞘炎の治療は、大きく分けて「保存療法」と「手術療法」の2種類があります。今回は、それぞれの治療法について、そして日常生活での注意点について詳しく解説します。ご自身の症状や生活スタイルに合った治療法を選択するために、ぜひ参考にしてください。
保存療法(安静、固定、薬物療法、注射)
保存療法は、手術を行わずに腱鞘炎を治療する方法です。比較的症状が軽い場合に選択されることが多く、安静、固定、薬物療法、注射といった方法があります。
まず、「安静」は腱鞘炎治療の基本です。炎症を起こしている腱や腱鞘を休ませるために、痛みを誘発する動作や作業を控えましょう。例えば、パソコン作業が多い方は、こまめな休憩を挟む、キーボードやマウスの位置を調整するなど、作業環境を見直すことが重要です。
次に、「固定」は、サポーターやテーピングを用いて患部を固定し、腱や腱鞘への負担を軽減する方法です。炎症が強い時期には特に有効で、安静とともに治療の土台となります。
「薬物療法」では、痛みや炎症を抑える薬を使用します。湿布や塗り薬などの外用薬、痛み止めや炎症を抑える飲み薬など、症状に合わせて処方します。例えば、妊娠中や授乳中の方には、胎児や乳児への影響が少ない薬を選択するなど、患者さんの状況に合わせたきめ細やかな対応が重要です。
「注射」による治療では、腱鞘内にステロイド薬を注射します。ステロイド薬は強力な抗炎症作用を持つため、短期間で痛みや炎症を鎮める効果が期待できます。ただし、ステロイド注射は繰り返し行うと腱が弱くなる可能性もあるため、医師とよく相談の上で判断する必要があります。
手術療法
保存療法で十分な効果が得られない場合や、症状が重い場合は、手術療法が検討されます。手術では、狭くなった腱鞘を切開し、腱の動きをスムーズにすることで痛みや炎症を改善します。近年では、傷口が小さく、術後の回復も早い内視鏡手術が普及しています。
家庭でできるリハビリとストレッチ
腱鞘炎の治療や予防には、リハビリやストレッチも有効です。自宅でできる簡単な方法をいくつかご紹介します。
- 指の曲げ伸ばし: 指を優しく曲げ伸ばしすることで、腱や腱鞘の柔軟性を高めます。痛みのない範囲で、ゆっくりと行いましょう。
- 手首の回転: 手首をゆっくりと回す運動も効果的です。時計回り、反時計回り、両方行いましょう。
- 温熱療法: 温かいタオルやカイロなどで患部を温めることで、血行が促進され、痛みが和らぐことがあります。
- アイシング: 炎症が強い場合は、氷水で冷やしたタオルなどで患部を冷やすと、炎症を抑える効果が期待できます。
これらのリハビリやストレッチは、痛みを感じない範囲で行うことが重要です。無理に行うと症状が悪化する可能性があるため、注意が必要です。具体的な方法や回数については、医師や理学療法士に指導を受けることをお勧めします。
腱鞘炎を悪化させない日常生活の注意点
腱鞘炎を悪化させないためには、日常生活での注意点を守ることが大切です。
- 手や指の使いすぎに注意する: パソコンやスマートフォンの長時間使用、細かい作業の繰り返しなどは、腱鞘炎の悪化につながる可能性があります。こまめな休憩を挟む、作業環境を見直すなど、工夫してみましょう。
- 重いものを持つ時は注意する: 重い荷物を持つ際は、できるだけ両手で持ち、手首をまっすぐに保つように心がけましょう。また、リュックサックなど、両肩で重さを支えられるバッグを使用するのも良いでしょう。
- パソコンやスマートフォンの操作方法を見直す: デスクや椅子の高さを調整する、リストレストを使用する、正しい姿勢を保つなど、作業環境の改善を心がけましょう。
- 適切な環境を整える: 冷えは腱鞘炎を悪化させる要因の一つです。冬場は手袋やカイロなどで手を温めましょう。また、乾燥も腱鞘炎を悪化させる可能性があるため、ハンドクリームなどで保湿ケアを行うことも大切です。
これらの日常生活の注意点を守り、腱鞘炎を予防・改善に努めましょう。特に、40~60歳の女性は腱鞘炎のリスクが高いと言われています。手首の過度な伸展運動による痛み、抵抗を加えた手首や肘の伸展による痛み、安静時の肘から前腕の背側への放射痛など、少しでも気になる症状があれば、早めに医療機関を受診しましょう。
腱鞘炎の予防と再発防止策3選
腱鞘炎は、一度発症すると日常生活に支障をきたすだけでなく、再発しやすいという特徴があります。私のクリニックにも、再発を繰り返す腱鞘炎に悩まされている患者さんが多く来院されます。腱鞘炎の再発を防ぐためには、予防策を理解し、日常生活で実践することが重要です。
特に、手や指をよく使う作業をする人は腱鞘炎になりやすい傾向があります。例えば、デスクワークで長時間パソコン作業を行う人、スマートフォンを頻繁に利用する人、ピアノやギターなどの楽器を演奏する人、手作業の多い工場勤務の方などは注意が必要です。また、40~60歳の女性は、ホルモンバランスの変化や家事・育児による負担増加も影響し、腱鞘炎のリスクが高まります。手首の過度な伸展運動による痛みや、抵抗を加えた手首や肘の伸展による痛み、安静時の肘から前腕の背側への放散痛といった症状に心当たりがある方は、特に注意が必要です。
腱鞘炎を予防するための対策
腱鞘炎の予防には、日常生活での小さな工夫の積み重ねが大切です。具体的には、以下のような対策が有効です。
パソコン作業での対策: キーボードとマウスは、手首がまっすぐになる位置に配置し、リストレストを使用して手首を支えましょう。タイピングは力を抜いて行い、1時間に1回程度は休憩を取り、手首や指のストレッチを行いましょう。
スマートフォン操作での対策: スマートフォンは長時間同じ姿勢で使用せず、こまめに休憩を取りましょう。また、片手操作だけでなく、両手を使うことで手首への負担を軽減できます。さらに、画面をスクロールする際は指だけでなく、手のひら全体を使うように意識しましょう。
家事や育児での対策: 重いものを持つ時は両手を使用し、手首をひねらないように注意しましょう。洗濯物を干す、食器を洗うといった作業も、手首に負担がかかりやすい動作です。台や踏み台を活用して、手首の角度を調整することで負担を軽減できます。また、赤ちゃんを抱っこする際は抱っこ紐やスリングを使用し、授乳クッションを活用することで手首への負担を軽減できます。
スポーツでの対策: スポーツを行う際は、事前に適切なウォーミングアップと、運動後のクールダウンを欠かさずに行いましょう。特にラケットを使用するスポーツでは、グリップの太さや素材が自分に合っているかを確認し、必要に応じて調整することで手首への負担を軽減できます。また、運動中に痛みを感じた場合は、すぐに運動を中止し、安静にすることが重要です。
再発を防ぐためのケア
一度腱鞘炎を発症した方は、再発を防ぐためのケアが重要です。具体的には、以下の点に注意しましょう。
症状が治まっても油断しない: 腱鞘炎の症状が治まった後も、腱や腱鞘は完全に回復していない可能性があります。そのため、しばらくの間は手や指の使いすぎに注意し、再発を防ぎましょう。
定期的なストレッチ: 手首や指のストレッチを習慣化することで、腱や腱鞘の柔軟性を維持し、再発を予防できます。朝起きた時、お風呂上がり、寝る前など、毎日決まった時間にストレッチを行うようにしましょう。
負担を軽減する工夫: 日常生活で手や指に負担がかかる作業をする際は、サポーターや装具を使う、作業の合間に休憩を入れる、作業時間を短縮するなど、負担を軽減する工夫をしましょう。
生活習慣の改善: バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠など、健康的な生活習慣を心がけることは、腱鞘炎の再発予防に繋がります。特に、睡眠不足は腱鞘炎を悪化させる要因となるため、質の良い睡眠を十分に取るようにしましょう。
腱鞘炎が疑われる場合の相談先
腱鞘炎が疑われる場合は、整形外科を受診しましょう。整形外科では、問診、視診、触診、レントゲン検査などを行い、腱鞘炎の診断を行います。
受診の目安: 安静にしていても痛みが続く、腫れや熱感が強い、指の動きが悪くなっている場合は、早めに受診しましょう。
医療機関の選び方: 手の外科専門医がいる医療機関や、腱鞘炎の治療に力を入れている医療機関を選ぶと良いでしょう。インターネットで口コミや評判を調べてみるのも一つの方法です。
受診前の準備: いつからどのような症状があるのか、どのような時に痛みが強くなるのかなど、症状について詳しくメモしておきましょう。また、現在服用している薬があれば、医師に伝えられるようにしておきましょう。
整形外科を受診することで、適切な治療を受けることができます。自己判断で治療を行うと、症状が悪化したり慢性化したりする可能性がありますので、必ず専門医の診察を受けましょう。
まとめ
腱鞘炎は、手や指の使いすぎによって腱と腱鞘がこすれ合い炎症を起こす症状です。放っておくと日常生活に支障をきたすこともあるので、早期のケアが大切です。
腱鞘炎には「ばね指」や「ドケルバン病」などいくつかの種類があり、症状や好発部位も異なります。手や指をよく使う方、妊娠・出産後や更年期の女性、糖尿病患者などは特に注意が必要です。
治療法は、安静・固定・薬物療法・注射などの保存療法と、手術療法があります。症状に合った治療法を選択することが大切です。
日常生活では、手や指の使いすぎに気を付け、パソコン作業やスマホ操作時の姿勢、重いものを持ち上げる際の方法などに気を配りましょう。また、ストレッチや温熱・アイシング療法なども有効です。
腱鞘炎は再発しやすいので、症状が改善した後も油断せず、予防策を続けることが大切です。少しでも気になる症状があれば、早めに整形外科を受診しましょう。
参考文献
- Meunier M. Lateral Epicondylitis/Extensor Tendon Injury. Clinics in sports medicine 39, no. 3 (2020): 657-660.
追加情報
[title]: Lateral Epicondylitis/Extensor Tendon Injury.,
外側上顆炎(テニス肘)
【要約】
神経障害や肘の不安定性がないのに、肘の外側に痛みがある場合、外側上顆炎(一般的にはテニス肘と呼ばれる)と診断されることが多い。
40~60歳の女性に最も多く見られる一般的な症状だが、男性にも多く見られる。
典型的な症状としては、手首の過度な伸展運動による痛み、抵抗を加えた手首や肘の伸展による痛み、肘から前腕の背側へ放射する安静時の痛みなどがある。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32446581,
[quote_source]: and Meunier M. “Lateral Epicondylitis/Extensor Tendon Injury.” Clinics in sports medicine 39, no. 3 (2020): 657-660.