• 2025年5月21日

【医師監修】ぎっくり腰の注射治療について|適応症例と治療効果を詳しく解説

突然の激痛で動けなくなる「ぎっくり腰」は、急性腰痛症とも呼ばれ、多くの人が一度は経験する可能性のある身近な腰痛です。厚生労働省の調査によると、腰痛の有訴者率は男性91.6人、女性111.9人(人口1,000人あたり)とされ、多くの人が腰の痛みに悩まされています。

湿布や安静だけでは改善しにくいケースもあり、注射治療が有効な選択肢となることがあります。この記事では、ぎっくり腰の注射治療について、適応症例や治療効果、注射の種類、費用、再発予防のポイントまでを詳しく解説します。正しい知識を得て、自分に合った治療法を選び、ぎっくり腰の痛みや不安に対処しましょう。

ぎっくり腰で注射治療が適応される症例

ぎっくり腰は多くの場合、数日〜2週間ほどで自然に軽快しますが、痛みが強い場合は、仕事や育児、日常生活にも大きな影響を与えます。以下のケースでは、注射治療が適応となることがあります。

  • 湿布で痛みがコントロールできない
  • 骨折がない
  • 手術が必要ない

湿布で痛みがコントロールできない

痛みが強く、湿布ではほとんど効果が見られない、あるいは悪化している場合には、注射治療を検討する必要があります。ぎっくり腰の初期治療では、安静や市販の鎮痛薬、湿布が一般的に用いられます。多くのケースでは、痛みが徐々に軽減していきます。

夜も眠れないほどの激痛や、歩行が困難な場合には、注射による局所的な鎮痛が有効な場合があります。湿布は皮膚から吸収されるため効果が出るまでに時間がかかり、患部に直接作用するわけではないため、痛みに対して十分な効果が得られない場合もあります。

注射治療は薬剤を直接患部に届けることができるため、湿布と比べて速やかな鎮痛効果が期待できます。ただし、効果には個人差があります。

骨折がない

ぎっくり腰の中には、腰椎の圧迫骨折などが原因となっている場合もあります。注射治療を行う前には、レントゲンやMRIなどの画像検査を通じて骨折の有無を必ず確認する必要があります。骨折が見つかった場合は、注射治療ではなく、骨折に対する適切な処置が必要です。

骨折部位への注射は、症状の悪化や合併症を引き起こす可能性があります。安全に治療を進めるためにも、整形外科での診察と適切な検査が重要です。

手術が必要ない

ぎっくり腰の原因の中には、椎間板ヘルニアなど手術を要する疾患が含まれることがあります。多くのぎっくり腰は、手術をせずに、保存的治療で改善が期待できます。保存的治療には、以下の種類があります。

  • 安静
  • 薬物療法
  • 理学療法
  • 装具療法
  • 注射治療

手術が必要なほどの重症例では、注射治療だけでは根本的な改善には至りません。ヘルニアの状態や全身の健康状態に応じて、専門医による適切な診断と判断が求められます。

注射の種類ごとの効果

ぎっくり腰の治療で使用される代表的な注射の種類は、以下のとおりです。

  • 硬膜外ブロック注射
  • 椎間関節ブロック注射
  • 神経根ブロック注射
  • トリガーポイント注射

それぞれ異なる作用部位と効果を持っていますので、参考にしましょう。

硬膜外ブロック注射

硬膜外ブロック注射は、脊髄神経を包む膜の外側にある「硬膜外腔」に局所麻酔薬とステロイド薬を注射する治療法です。神経の炎症を抑え、痛みの信号をブロックすることで、ぎっくり腰の強い痛みを和らげる効果が期待されます。効果の持続期間には個人差がありますが、数日〜数週間続くこともあります。

激しい痛みやしびれを伴うケースでは、有効な治療法の一つとされています。日本整形外科学会の「腰痛診療ガイドライン2019(改訂第2版)」においても、有効性が示唆されています。整形外科医が専門的な技術で対応することで、安全性が高められています。

椎間関節ブロック注射

椎間関節ブロック注射は、背骨同士をつなぐ「椎間関節」に局所麻酔薬やステロイド薬を注射する方法です。椎間関節は背骨の可動性を保つ重要な関節で、ぎっくり腰の際に炎症が起こると、痛みの原因になることがあります。注射によって炎症が抑えられ、比較的早く痛みが緩和される傾向があります。

効果は数時間〜数日間程度持続し、椎間関節の異常が疑われる場合に有効です。

神経根ブロック注射

神経根ブロック注射は、脊髄から枝分かれした神経の根元(神経根)に局所麻酔薬とステロイド薬を注射する治療法です。ぎっくり腰によって神経根が圧迫され炎症を起こすと、痛みやしびれが生じることがあります。注射によって、神経根の炎症を抑え、神経の興奮を鎮めることで痛みを軽減します。

効果の持続時間は比較的長く、数日〜数週間続くこともあります。坐骨神経痛を伴う場合には、神経根の炎症が原因と考えられるため、神経根ブロック注射が選択される場合が多いです。

トリガーポイント注射

トリガーポイント注射は、筋肉にできた「硬結(トリガーポイント)」に局所麻酔薬を注射する治療法です。ぎっくり腰では、筋肉が過剰に緊張し、特定の部位に痛みを引き起こすことがあります。注射によって筋肉の緊張が緩和され、痛みの軽減が期待されます。比較的即効性があり、注射直後から改善が見られることもあります。

ステロイド薬を使用しないため、副作用のリスクが低く、安全性の高い治療法と言えます。

ぎっくり腰の注射治療で知っておきたいポイント

ぎっくり腰に対する注射治療を受けるにあたり、知っておきたいポイントは以下のとおりです。

  • 注射治療の流れ
  • 注射治療のリスク
  • 注射治療の費用

注射治療の流れ

注射治療を受ける際は、まず整形外科を受診します。医師による問診では、以下の内容を確認します。

  • 痛みの始まった時期や誘因
  • 痛みの種類
  • 日常生活への影響
  • 既往歴や健康状態

医師は患者さんの状態を的確に把握し、治療の方向性を判断します。続いて、身体診察が行われ、腰の動きや圧痛、神経症状の有無を確認します。必要に応じて、レントゲンやMRIなどの画像検査が追加され、骨折や椎間板ヘルニア、神経圧迫の有無が調べられます。

注射治療が適応と判断された場合は、注射部位の消毒と局所麻酔を行った後、症状に応じて適切な種類の注射(硬膜外ブロックや椎間関節ブロック、神経根ブロック、トリガーポイント注射など)を実施します。注射自体は5〜10分程度で終了します。

治療後は30分ほど安静にして経過観察を行い、異常がなければ帰宅が可能です。ただし、当日は車の運転を避けることが推奨されています。注射後は以下の点に注意しましょう。

  • 激しい運動や長時間同じ姿勢を避ける
  • 入浴はシャワー程度にとどめる
  • 飲酒を控える

注射治療のリスク

注射治療は比較的安全とされていますが、まれに副作用や合併症が生じることがあります。よく見られる副作用には、注射部位の痛みや腫れ、内出血などがあり、通常は数日以内に軽快します。感染や神経損傷、アレルギー反応などが起こる可能性もあります。糖尿病の方や抗凝固薬服用中の方、妊娠中の方などは注意が必要です。

ステロイド注射を繰り返し行うと、骨の脆弱化や感染リスクが高まる可能性があります。一般的には、月に1回、連続して3回までの注射が推奨されています。継続治療については医師とよく相談したうえで、他の治療法も含めて検討しましょう。

治療前は、リスクや副作用について医師から十分な説明を受け、不安や疑問があれば遠慮せず質問しましょう。

注射治療の費用

ぎっくり腰の注射治療には健康保険が適用されます。費用は注射の種類や使用薬剤、医療機関によって異なりますが、自己負担が3割の場合、1回あたり2,000〜5,000円が目安です。費用には初診料や再診料、検査費用が含まれることが多く、受診する医療機関によって総額は異なります。

高額療養費制度の対象となる場合もあるため、あらかじめ医療機関の窓口で確認しておくと安心です。

ぎっくり腰を再発させないための予防策

ぎっくり腰は、再発しやすい腰痛です。日常生活の中でできる3つの予防策を紹介します。

  • 適度に運動する
  • 適正体重を維持する
  • 十分な睡眠をとる

適度に運動する

運動は、ぎっくり腰の予防に役立つとされています。運動不足になると、腰を支える筋肉が弱くなり、ぎっくり腰のリスクが高まります。ウォーキングや水泳などの有酸素運動は血流を促進し、筋肉をほぐす効果が期待できます。体幹トレーニングによって腹部や背中の筋肉を強化することも、腰への負担を軽減するために有効です。

自宅でもできるトレーニングとして、以下の方法があります。

  • プランク
  • バックエクステンション

プランクは、うつ伏せの状態から肘とつま先で体を支え、姿勢を一直線に保つ運動で、体幹全体を鍛えることができます。バックエクステンションは、うつ伏せで上半身を反らせる動作により、背筋を強化できます。

プランクやバックエクステンションは特別な器具を必要とせず、週2〜3回の実施でも効果が期待できます。無理のない範囲で継続し、習慣化することが大切です。整形外科では、個々の状態に合わせた運動指導も行っているため、専門家に相談するのも良い選択です。

適正体重を維持する

体重の増加は腰への負担を増やし、ぎっくり腰の再発リスクを高める要因です。適正体重を保つことで、腰への負担を軽減し、再発を予防することが期待できます。バランスの良い食事を心がけ、脂肪分や糖分の多い食品・飲料の摂取を控えましょう。間食や夜食を控え、1日3食を規則正しく摂ることも体重管理に有効です。

適正体重の目安としては、BMI(ボディマス指数)を参考にします。BMIは、体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で計算できます。日本肥満学会では、BMIが18.5以上25未満を「普通体重」としています。BMIが25以上の場合は、減量を検討しましょう。

減量に関しては、医師や管理栄養士に相談しながら、健康的な方法を選ぶことが重要です。無理なダイエットは栄養バランスを崩し、逆に健康を損ねるおそれがあります。

十分な睡眠をとる

睡眠不足は筋肉の緊張を高め、疲労の蓄積や血行不良を招き、ぎっくり腰の引き金になる可能性があります。質の高い睡眠をとることで、筋肉が回復しやすくなり、再発予防に役立ちます。

睡眠中は成長ホルモンが分泌され、疲労回復や筋肉の修復が進みます。睡眠不足になるとホルモン分泌が減少し、体の修復機能が低下します。自律神経のバランスが乱れ、筋肉が緊張しやすくなることも指摘されています。質の高い睡眠のために、以下の点に気をつけましょう。

  • 就寝前のカフェイン摂取を控える
  • スマートフォンやパソコンの長時間の使用を控える
  • ぬるめのお風呂に入る
  • リラックスできる音楽を聴くなど、寝る前の習慣を整える

カフェインには興奮作用があり、睡眠の質を低下させる可能性があります。ブルーライトは、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を抑制する作用があるため、就寝前の使用は控えましょう。一般的に、1日7〜8時間の睡眠が適切とされています。

日中に強い眠気がある、集中力が続かないといった症状がある場合は、睡眠不足の可能性もあります。睡眠環境を整え、規則正しい生活を心がけることで、ぎっくり腰の再発予防だけでなく、日常の体調管理にもつながります。

まとめ

ぎっくり腰は、誰にでも起こりうる身近な腰痛です。湿布などの初期治療で十分な効果が得られない場合や、激しい痛みがあるときには、以下の注射治療が有効な選択肢となります。

  • 硬膜外ブロック注射
  • 椎間関節ブロック注射
  • 神経根ブロック注射
  • トリガーポイント注射

注射治療は、それぞれ作用する部位や持続時間が異なるため、医師と相談しながら症状に合った方法を選ぶことが大切です。比較的安全とされていますが、まれに副作用が起こることもあります。予防のためには、以下の点を心がけ、腰への負担を軽減しましょう。

  • 適度に運動する
  • 適正体重を維持する
  • 質の高い睡眠をとる

日常の積み重ねが、ぎっくり腰の再発防止につながります。

参考文献

もり整形外科 079-562-5169 ホームページ