• 2025年10月12日

頸椎椎間板ヘルニアを医師が徹底解説

「ただの肩こり」と軽く考えていた首の痛みが、腕や指先にまで広がるしびれの原因かもしれません。そのつらい症状、もしかすると首の骨の間でクッションの役割を担う椎間板が神経を圧迫する「頸椎椎間板ヘルニア」のサインではないでしょうか。

この病気は、放置すると箸が使いにくくなる、足がもつれるといった深刻な麻痺につながる可能性も。この記事では専門医が、危険信号を見分けるセルフチェック法から、薬やリハビリ、最新の治療法までを徹底解説します。あなたの長引く不調の根本原因を突き止め、改善への正しい一歩を踏み出しましょう。

頸椎椎間板ヘルニアの主な症状と原因5つ

「ただの肩こりだと思っていたら、腕や指先までしびれてきた」 「首の痛みがひどくて、夜もぐっすり眠れない」

このようなつらい症状に、お悩みではありませんか。 もしかするとその症状は、頸椎椎間板ヘルニアが原因かもしれません。

頸椎椎間板ヘルニアは、首の骨の間でクッションの役割を担う椎間板が、 外に飛び出して神経を圧迫し、さまざまな症状を引き起こす病気です。

ここでは、頸椎椎間板ヘルニアの代表的な症状から、その原因、 ご自身でできるチェック方法、病院受診の目安まで詳しく解説します。

頸椎椎間板ヘルニアの主な症状と原因5つ
頸椎椎間板ヘルニアの主な症状と原因5つ

首の痛みや肩こりだけじゃない?腕や指先に広がるしびれ

頸椎椎間板ヘルニアの症状は、ヘルニアがどの神経を圧迫するかで、 大きく2つのタイプに分けられます。ご自身の症状がどちらに近いか確認してみましょう。

1. 神経根症(しんけいこんしょう)  背骨から枝分かれした直後の神経「神経根」が圧迫されるタイプです。  多くの場合、片側の首から肩、腕、指にかけて、  まるで電気が走るような鋭い痛みや、ジンジンするしびれが生じます。

  • 主な症状
    • 首や肩甲骨まわりの激しい痛み
    • 腕や特定の指先に痛みが広がる(放散痛)
    • 腕全体が重だるく感じる
    • ペットボトルの蓋が開けにくいなど、握力が低下する

どの神経根が圧迫されるかによって、症状が出やすい指が異なります。 診察の際にも、どの指にしびれがあるかは重要な情報になります。

圧迫される神経根 しびれや痛みが出やすい指
第6頸神経根(C6) 親指・人差し指
第7頸神経根(C7) 中指
第8頸神経根(C8) 薬指・小指

2. 脊髄症(せきずいしょう)  神経の大元である「脊髄」が圧迫されるタイプです。  神経根症よりも重い症状につながる可能性があり、特に注意が必要です。

  • 主な症状
    • 両手のしびれ(片側だけでなく、両側に症状が出るのが特徴)
    • 巧緻運動障害(こうちうんどうしょうがい)
      • 箸がうまく使えない、ボタンがかけにくい、字が書きにくくなったなど、
      • 指先の細かい動きがぎこちなくなる状態です。
    • 歩行障害
      • 足がもつれる、つまずきやすい、階段の上り下りが怖いなど。
    • 排尿や排便の異常(頻尿、残尿感など)

脊髄症は、初期症状は軽いしびれだけでも、放置すると症状が進行することがあります。 手足の動かしにくさを感じたら、できるだけ早く専門医に相談することが大切です。

頭痛・めまい・吐き気など、一見関係なさそうな自律神経症状

頸椎椎間板ヘルニアの症状は、首や腕だけにとどまりません。 一見すると関係なさそうに思える頭痛やめまい、吐き気なども、 首の問題が引き金となって現れることがあります。

特に、首の上の方(上位頸椎)で神経が圧迫されると、 後頭部から側頭部にかけての痛み(後頭神経痛)や、 目の奥の痛み、眼精疲労などが現れやすくなります。 首の凝りや痛みが強くなると、吐き気をもよおすことも少なくありません。

また、頸椎の変形によって首を通る大切な血管(椎骨動脈)の血流が悪くなると、 脳への血流が一時的に不足し、以下のような症状が出ることがあります。

  • めまい(特に首を曲げたり回したりしたときにクラっとする)
  • 頭のふらつき
  • 耳鳴り
  • 吐き気

さらに、最近の研究では、慢性的な首の痛みが呼吸のパターンと関連することが指摘されています。 首の痛みを持つ患者さんに対し、呼吸に深く関わる横隔膜へアプローチしたところ、 首の痛みや動きが改善したという報告もあります。 このことは、首の状態が自律神経や呼吸機能にまで影響を及ぼす可能性を示唆しています。

加齢や長時間のデスクワークが引き起こすヘルニアのメカニズム

背骨のクッションである椎間板は、残念ながら10代後半から少しずつ老化が始まります。 加齢とともに椎間板内部の水分が失われ、弾力性が低下してもろくなっていくのです。 この状態の椎間板に、日常生活でのさまざまな負担が加わることでヘルニアを発症します。

頸椎椎間板ヘルニアの主な原因

  • 加齢による椎間板の変性
    • 椎間板の水分が減り、クッション機能が低下して傷つきやすくなります。
  • 不良姿勢
    • 長時間のデスクワークやスマホ操作で首が前に突き出る「ストレートネック」の状態は、
    • 首の筋肉を常に緊張させ、椎間板への負担を著しく増加させます。
  • スポーツや労働による負荷
    • ラグビーなどのコンタクトスポーツでの衝撃や、
    • 重いものを繰り返し持ち上げる動作も原因となります。
  • 遺伝的要因
    • ご家族に椎間板ヘルニアの方がいるなど、
    • 生まれつき椎間板が弱い体質の方もいます。
  • 喫煙
    • ニコチンには血管を収縮させる作用があり、椎間板周囲の血流を悪化させます。
    • その結果、椎間板の変性を早めてしまうことが知られています。

これらの要因が複合的に絡み合い、ある日突然、あるいは徐々に症状が現れます。 原因を知ることは、治療だけでなく、再発予防のためにも非常に重要です。

危険信号を見分けるセルフチェックと似た病気との違い

ご自身の症状が頸椎椎間板ヘルニアによるものか、簡単な方法で確認してみましょう。 ただし、これはあくまで目安です。正確な診断には専門医の診察が必要です。

【頸椎椎間板ヘルニアのセルフチェック】 ※痛みやしびれが少しでも強くなる場合は、すぐに中止してください。

  1. スパーリングテスト

    1. 椅子に座り、頭を痛い方へ少し傾けます。
    2. そのまま、ゆっくりと首を後ろに反らします。
    3. 腕や手に痛みやしびれが走る場合、陽性の可能性があります。
  2. ジャクソンテスト

    1. 椅子に座り、首をまっすぐ後ろに反らします。
    2. その状態で、ご家族などに頭を真上から軽く押さえてもらいます。
    3. 腕や手に痛みやしびれが強まる場合、陽性の可能性があります。

これらのテストで症状が出る場合は、神経根が圧迫されているサインかもしれません。 しかし、自己判断は大変危険です。最近の調査では、整体やカイロプラクティックといった、 頸部への物理療法による重篤な健康被害が報告されています。 驚くべきことに、その多くは事前の診断ミスや危険因子の見落としなど、 不適切な判断が原因で「予防可能だった」と結論づけられています。 安易なセルフケアや無資格者による施術は避け、必ず専門医の診断を受けましょう。

受診の目安は?何科(整形外科・脳神経外科)に行けばいいか

「このくらいの症状で病院に行くのは大げさだろうか」と迷う方もいるかもしれません。 しかし、以下のような症状が一つでもあれば、早めに医療機関を受診することをおすすめします。

受診をおすすめする症状の目安

  • 首、肩、腕の痛みが数日経っても改善しない、または悪化している
  • 腕や指先にしびれを感じる
  • 箸が持ちにくい、ボタンがかけにくいなど、手の細かい作業がしづらくなった
  • 腕や手の力が入りにくい、明らかに握力が落ちた
  • 足がもつれる、何もないところでつまずくなど、歩きにくさを感じる
  • 痛みで夜眠れないなど、日常生活に支障が出ている

何科を受診すればよいか? 頸椎椎間板ヘルニアが疑われる場合、まずは整形外科を受診するのが一般的です。 整形外科は骨、関節、筋肉、神経といった運動器の専門家であり、 問診、診察、レントゲンやMRIなどの画像検査を通じて、的確な診断と治療を行います。

脊髄の症状(両手のしびれ、歩行障害など)が特に強い場合は、 脳神経外科が専門となることもあります。 どちらを受診すべきか迷った場合は、まずはお近くの整形外科を受診してください。 適切な診断に基づき、理学療法や徒手療法などの治療法が検討されます。 研究によれば、これらの治療も専門家の適切な判断のもとで行われてこそ、 安全かつ効果的に痛みを軽減できるとされています。 まずは正確な診断を受けることが、つらい症状からの回復への第一歩です。

整形外科で行う代表的な治療法4選

首の痛みや手のしびれが続くと、「この症状は本当に良くなるのだろうか」と、 不安な気持ちになりますよね。 ご安心ください。頸椎椎間板ヘルニアの治療法は、一つではありません。

多くの場合、手術をしない「保存療法」で症状の改善が期待できます。 治療の目的は、まず痛みやしびれといったつらい症状を和らげることです。 そして、日常生活の質を取り戻し、再発を防ぐ身体を作ることです。

ここでは、整形外科で行われる代表的な治療法を、症状の段階に合わせて解説します。 ご自身の状態と照らし合わせながら、どのような治療があるのかを知っていきましょう。

整形外科で行う代表的な治療法4選
整形外科で行う代表的な治療法4選

保存療法①:まずは薬と安静で痛みをコントロール

症状が強く出ている「急性期」は、いわば首で炎症という火事が起きている状態です。 この時期は、まず炎症を鎮め、痛みを抑えることが治療の第一歩となります。 無理に首を動かしたり、痛みを我慢したりすると、かえって症状を悪化させかねません。

1. 安静と生活指導 痛みが強い時期は、首に負担がかかる姿勢や動作を避けることが何より大切です。 特に、首を後ろに反らす(上を向く)動作や、重いものを持つことは控えましょう。 首の動きを制限し、安静を保つために「頚椎カラー」という装具を、 一時的に使用することもあります。

2. 薬物療法 痛みや炎症、しびれを和らげるために、お薬を使った治療を行います。 患者さんの症状に合わせて、以下のようなお薬を組み合わせて使用します。

  • 非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)
    • 炎症を抑え、痛みを和らげるお薬です。
    • 痛みや炎症の原因物質が作られるのをブロックします。
  • アセトアミノフェン
    • 脳にある痛みをコントロールする部分に作用し、痛みの感じ方を和らげます。
    • 炎症を抑える作用は弱いですが、副作用が比較的少ないのが特徴です。
  • 神経障害性疼痛治療薬
    • 神経が圧迫されることで生じる「ビリビリ」「ジンジン」といった、
    • 電気が走るようなしびれや痛みを緩和するお薬です。
    • 過剰に興奮してしまった神経を落ち着かせる働きがあります。
  • ビタミンB12製剤
    • 傷ついた末梢神経の修復を助ける働きがあり、しびれの改善が期待できます。

まずは安静とお薬でつらい症状をコントロールし、痛みの悪循環を断ち切ります。 これが、次のステップであるリハビリテーションに進むための大切な土台作りになります。

保存療法②:リハビリテーションで行う姿勢改善と筋力強化

急性期の強い痛みが落ち着いてきたら、根本的な原因にアプローチする治療を始めます。 それが、専門家である理学療法士の指導のもとで行うリハビリテーションです。 リハビリの目的は、痛みの再発を防ぎ、首に負担のかかりにくい身体を作ることです。

  • 運動療法
    • ストレッチで首や肩まわりの硬くなった筋肉をほぐし、血行を改善します。
    • また、首を支える深層筋(インナーマッスル)を鍛え、頚椎の安定性を高めます。
  • 物理療法
    • 患部を温めたり、電気刺激を与えたりすることで、痛みを和らげ、
    • 筋肉の緊張をほぐし、回復を促します。
  • 姿勢指導
    • 日常生活での無意識な癖が、首への負担を増やしていることは少なくありません。
    • 最近の研究では、首だけでなく身体全体のバランスを整える「グローバル姿勢再教育」が、
    • 首の痛みを和らげ、機能障害を改善するのに有効であると報告されています。
    • デスクワーク中の姿勢やスマホの持ち方など、具体的な改善点を指導します。

また、理学療法士などが手を使って関節の動きを改善する「徒手療法」も選択肢の一つです。 専門家による適切な手技(マニピュレーション)は、短期的に痛みを軽減する可能性がある、 という研究結果もあります。

しかし、首への施術は専門的な知識と技術を要するため、注意が必要です。 ある調査では、首への物理療法による重篤な健康被害の多くが、 事前の診断ミスや危険因子の見落としが原因で「予防可能だった」と結論づけられています。 必ず医師の正確な診断のもと、資格を持った専門家によるリハビリを受けることが大切です。

痛みが強い場合に検討するブロック注射の効果と注意点

お薬を飲んでも痛みがなかなか治まらない場合や、 夜も眠れないほどの激痛に苦しんでいる場合には、「ブロック注射」を検討します。 ブロック注射は、痛みの原因となっている神経の近くに、局所麻酔薬などを直接注入する治療法です。

痛みを脳に伝える神経の働きを一時的にブロックすることで、 つらい痛みを速やかに和らげる効果が期待できます。

ブロック注射の主な目的

  • 強い痛みの軽減
    • 痛みの信号を直接遮断するため、飲み薬よりも早く、高い鎮痛効果が期待できます。
  • 痛みの悪循環を断ち切る
    • 「痛みで筋肉がこわばる→血行が悪くなる→さらに痛みが強くなる」
    • という悪循環を断ち切るきっかけになります。
  • 血行の改善
    • 交感神経の緊張を和らげることで血管が広がり、血行が良くなります。
    • これにより、傷ついた神経や筋肉に酸素や栄養が届きやすくなります。

頸椎椎間板ヘルニアでは、痛みの原因神経を狙う「神経根ブロック」や、 首の交感神経に作用させる「星状神経節ブロック」などを、症状に応じて選択します。 痛みが和らいでいる間にリハビリを進めやすくなるという、大きな利点もあります。

手術は最終手段?手術の種類(前方固定術など)と入院期間

ほとんどの頸椎椎間板ヘルニアは、ご紹介した「保存療法」で症状が改善します。 しかし、以下のような場合には、神経へのダメージが元に戻らなくなるのを防ぐため、 手術が検討されます。

手術を検討するケース

  • 数ヶ月間、保存療法を続けても痛みやしびれが改善しない
  • 手の力が入りにくい、足がもつれるなどの麻痺症状が進行している
  • 筋肉がやせてきた(筋萎縮)
  • 排尿や排便に問題が出てきた(膀胱直腸障害)

代表的な手術方法

  • 頚椎前方除圧固定術
    • 最も一般的に行われる手術です。首の前側から切開し、
    • 原因となっている椎間板ヘルニアを摘出して神経への圧迫を取り除きます。
    • その後、骨盤などから採取したご自身の骨や人工スペーサーを移植し、
    • 上下の骨を金属のプレートなどで固定します。
  • 顕微鏡下椎間孔拡大術
    • 首の後ろから、顕微鏡で確認しながら神経の通り道(椎間孔)を広げ、
    • 神経への圧迫を取り除く手術です。

どちらの手術も、目的は神経への圧迫を取り除き、症状を改善させることです。 手術方法によって異なりますが、入院期間は1週間から2週間程度が目安となります。

手術はあくまで最終的な選択肢です。 医師と十分に相談し、メリットとデメリットをよく理解した上で、 ご自身にとって最善の治療法を一緒に見つけていきましょう。

症状を悪化させないための生活習慣とセルフケア3つのポイント

つらい首の痛みや手のしびれは、日常生活のささいな動作で悪化することがあり、 「このまま良くならないのでは」と不安な気持ちになりますよね。

しかし、ご自身の生活習慣を見直すことで、症状の悪化を防ぎ、 回復を後押しすることが可能です。 ここでは、ご自宅で今日から始められるセルフケアのポイントを、 「姿勢」「ストレッチ」「睡眠」の3つに分けて詳しく解説します。

無理のない範囲で、少しずつ生活に取り入れてみましょう。

症状を悪化させないための生活習慣とセルフケア3つのポイント
症状を悪化させないための生活習慣とセルフケア3つのポイント

やってはいけない姿勢・動作と、首に負担をかけない工夫

頸椎椎間板ヘルニアの症状を悪化させないためには、 まず、首に負担をかける姿勢や動作を避けることが何よりも大切です。

私たちの頭の重さは、約5kg(ボーリングの球ほど)もあります。 まっすぐ前を向いているときでも、首はその重さを支えています。 うつむくだけでその負荷は数倍にもなり、椎間板に大きなダメージを与えてしまいます。

ご自身の生活を振り返り、無意識のうちに首に負担をかけていないか確認しましょう。

【特に注意したい姿勢・動作】

  • 長時間のうつむき姿勢
    • スマートフォン操作やデスクワークは、首への負担が特に大きくなります。
  • 上を見上げる姿勢
    • 洗濯物を干す、高い棚の物を取るなど、首を後ろに反らす動作は神経を圧迫します。
  • 首をぐるぐる回す運動
    • 良かれと思って行いがちですが、首の関節や神経を傷つける可能性があります。
  • うつ伏せ寝
    • 首がねじれた状態が長時間続き、椎間板への負担が最大になります。

これらの動作を避けるために、日常生活で以下のような工夫を取り入れることが有効です。

場面 首に負担をかけない工夫のポイント
デスクワーク ・モニターを目線の高さ、または少し見下ろす位置に調整する
・椅子に深く座り、骨盤を立てて背筋を伸ばす
・30分に一度は立ち上がって、軽く体を動かす
スマホ操作 ・スマホを目線の高さまで持ち上げて操作する
・長時間連続での使用は避け、こまめに休憩を入れる
家事 ・洗濯物を干す際は、物干し竿を低くする
・アイロンがけは台の高さを調整し、前かがみにならない

重要なのは、首だけを意識するのではなく、体全体の姿勢を整えることです。 近年の研究では、体全体のバランスを包括的に見直すアプローチ(グローバル姿勢再教育)が、 首の痛みを和らげ、機能障害を改善するのに有効であると報告されています。 背筋を伸ばし、肩の力を抜くことを意識するだけでも、首への負担は大きく変わります。

再発予防に効果的なストレッチと筋膜リリースの方法

症状が落ち着いている時期には、適切なセルフケアを取り入れることで、 首周りの筋肉の緊張を和らげ、血行を促進し、再発しにくい身体を作ることができます。

ただし、痛みやしびれが強い急性期には絶対に行わないでください。 必ず医師に相談し、許可を得てから、心地よい範囲で開始しましょう。

ポイント1:首の痛みは「足元」から見直す 意外に思われるかもしれませんが、首の痛みは首だけの問題ではないことが少なくありません。 私たちの体は「筋膜」という全身タイツのような薄い膜で、頭のてっぺんから足の裏までつながっています。 特に、体の背面を走る筋膜のラインは、足裏からふくらはぎ、背中を通り、首の後ろへと連結しています。

ある研究では、足裏やふくらはぎといった首から離れた部分の筋膜をほぐすことが、 慢性的な首の痛みを和らげ、首の動く範囲を広げるのに効果的であったと報告されています。

  • 足裏の筋膜リリース
    • テニスボールを床に置き、椅⼦に座った状態で足裏で優しく30秒ほど転がします。
  • ふくらはぎのストレッチ
    • 壁に手をつき、片足を後ろに引きます。
    • かかとを床につけたまま、気持ちよく伸びるところで30秒キープします。

ポイント2:首と「呼吸」の深いつながり 「呼吸」も首の状態と深く関係しています。 呼吸に使う最も重要な筋肉である「横隔膜」は、筋膜を介して首の筋肉とつながっています。 実際に、横隔膜の動きを改善するアプローチが、 首の痛みや動きやすさの改善につながる可能性を示唆する研究結果も出てきています。

  • 横隔膜を意識した深呼吸
    1. 仰向けに寝て、軽く膝を立てます。
    2. 両手を肋骨の下あたり(みぞおちの横)に置きます。
    3. 鼻からゆっくり4秒かけて息を吸い込み、手の下が風船のように広がるのを感じます。
    4. 口からゆっくり8秒かけて息を吐ききり、お腹がへこんでいくのを感じます。
    5. この呼吸を数分間繰り返します。

これらのケアは、痛みを感じない範囲で、リラックスして毎日続けることが大切です。

専門家が教える枕の選び方と正しい寝方

人生の約3分の1を占める睡眠時間は、日中に負担がかかった首を休ませるための大切な時間です。 しかし、体に合わない枕を使っていると、寝ている間も首に負担がかかり続け、 症状を悪化させる原因になりかねません。

【枕選びの5つのチェックポイント】

  1. 高さ
    • 仰向けで寝たときに、立っているときと同じように首の骨が緩やかなS字カーブを保てる高さを選びましょう。高すぎると首が前に曲がり、低すぎると首が反ってしまいます。バスタオルを重ねて、ご自身に合う高さを探してみるのも良い方法です。
  2. 硬さ
    • 頭が沈み込みすぎず、かといって硬すぎて後頭部が痛くならない、適度な反発力があるものがお勧めです。
  3. 大きさ
    • スムーズな寝返りができるよう、頭が枕から落ちない十分な横幅(頭3つ分が目安)があるものを選びましょう。
  4. 形状
    • 後頭部の丸みにフィットし、首のカーブから肩にかけての隙間をしっかりと支えてくれる形状が理想的です。
  5. 素材
    • 通気性や耐久性などを考慮し、ご自身がリラックスできる素材を選びましょう。

【推奨される寝方と注意点】

  • 理想的な寝方(仰向け)
    • 首への負担が最も少ない寝方です。膝の下にクッションや丸めたタオルを入れると、腰への負担も軽くなります。
  • 横向きで寝る場合
    • 肩の高さがあるため、仰向け用より少し高めの枕が必要です。首の骨が背骨と一直線になる高さを選びましょう。
  • 避けるべき寝方(うつ伏せ)
    • 首を左右どちらかに限界までひねった状態が続くため、頸椎に極めて大きな負担をかけます。症状を悪化させる可能性が高いため、必ず避けるようにしてください。

まとめ

今回は、頸椎椎間板ヘルニアの症状や原因、ご自身でできるセルフケアまで詳しく解説しました。

つらい首の痛みや手のしびれは、日常生活に大きな支障をきたし、不安な気持ちになりますよね。 しかし、頸椎椎間板ヘルニアの多くは、手術をしない保存療法と正しい生活習慣の見直しで、改善が期待できる病気です。

最も大切なのは「ただの肩こり」と自己判断せず、専門医に相談することです。 特に、腕や指先に広がるしびれ、箸が使いにくい、歩きにくいなどの症状があれば、できるだけ早く整形外科を受診しましょう。 正確な診断に基づいた適切な治療とセルフケアで、つらい症状からの回復を一緒に目指していきましょう。

参考文献

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