- 2025年3月9日
変形性膝関節症の症状緩和に役立つストレッチ方法と痛みを和らげる正しい動き
膝の痛みや階段の上り下りのつらさ、椅子から立ち上がるのが億劫…そんなお悩みはありませんか?変形性膝関節症は、軟骨のすり減りによって炎症や痛みを引き起こす病気です。加齢とともに発症リスクが高まると言われています。
この記事では、変形性膝関節症の症状緩和に役立つストレッチ方法や痛みを和らげる正しい動きについて解説します。簡単なストレッチで、膝の痛みを軽減し、快適な日常生活を取り戻せる可能性があります。
変形性膝関節症の症状緩和に役立つ5つのストレッチ方法
適切なストレッチを行うことで、膝関節の柔軟性を高め、周囲の筋肉を強化し、関節への負担を軽減できる可能性があります。血行が促進されることで、痛みの軽減につながる場合もあります。変形性膝関節症に効果的な5つのストレッチについて解説します。
- 膝関節の屈曲・伸展運動
- 大腿四頭筋のストレッチ
- ハムストリングスのストレッチ
- 腓腹筋のストレッチ
- 内転筋のストレッチ
膝関節の屈曲・伸展運動
膝関節の屈曲・伸展運動は、膝関節の可動域を広げ、動きをスムーズにするための基本的な運動です。椅子に座った状態で行うため、体力に自信のない方や高齢の方でも安全に取り組めます。ストレッチのやり方は以下のとおりです。
- 椅子に浅く腰掛け、背筋を伸ばし、足を肩幅に開きます。足の裏全体が床につくように意識しましょう。
- 足首を軽く曲げ、つま先を少し上に向けます。
- 膝をゆっくりと伸ばし、太ももの前の筋肉が伸びているのを感じましょう。
- 膝を伸ばした状態を2~3秒キープし、ゆっくりと元の位置に戻します。
- 動作を10回繰り返します。慣れてきたら、回数を徐々に増やす、あるいは足を床につけた状態で行うなど、負荷を調整してみましょう。
ポイントは、ストレッチ中に自然な呼吸を続けることです。息を止めると筋肉が緊張しやすくなるからです。痛みを感じた場合はすぐに中断し、決して無理をしないようにしましょう。毎日続けることで、より効果を実感しやすくなります。
大腿四頭筋のストレッチ
大腿四頭筋は、太ももの前側にある大きな筋肉です。歩行や階段の上り下りなど、膝の動きに大きく関与しています。大腿四頭筋が硬くなると、膝関節の動きが悪くなり、痛みが出やすくなります。ストレッチのやり方は以下のとおりです。
- 立った状態で、壁や椅子などに片手を添えます。バランスを保つのが難しい場合は、必ず支えを利用しましょう。
- 反対側の手で、同じ側の足首を持ち、かかとをお尻に近づけるように曲げます。膝が前に出過ぎないように、身体の軸をまっすぐに保つことが重要です。
- 太ももの前側が伸びているのを感じながら、20~30秒間キープします。
- 反対側の足も同様に行います。
ポイントは、ストレッチ中は骨盤が前後に傾かないように注意します。身体が後ろに反らないように、お腹に軽く力を入れておきましょう。
ハムストリングスのストレッチ
ハムストリングスは、太ももの裏側にある筋肉です。硬いと、膝の動きが制限され、痛みが増す可能性があります。ストレッチのやり方は以下のとおりです。
- 床に座り、片方の足を伸ばし、もう片方の足を軽く曲げます。伸ばした足のつま先は天井に向けます。
- 伸ばした足のつま先を両手で持ち、息を吐きながらゆっくりと上半身を前に倒していきます。
- 太ももの裏側が伸びているのを感じながら、20~30秒間キープします。
- 反対側の足も同様に行います。
ポイントは、膝を曲げずにまっすぐ伸ばした状態を保つことです。無理に前に倒そうとせず、心地よいと感じる範囲で行いましょう。
腓腹筋のストレッチ
腓腹筋(ひふくきん)は、ふくらはぎにある筋肉で、つま先立ちをするときに使われます。硬くなると、足首の動きが悪くなり、膝にも負担がかかりやすくなります。ストレッチのやり方は以下のとおりです。
- 壁に手をついて、片足を後ろに引きます。後ろの足は、つま先を正面に向け、かかとを床につけた状態にします。
- 後ろの足の膝を軽く曲げ、かかとを床につけたまま、ゆっくりと上半身を前に倒していきます。
- ふくらはぎが伸びているのを感じながら、20~30秒間キープします。
- 反対側の足も同様に行います。
ポイントは、かかとを床から離さないようにすることです。
内転筋のストレッチ
内転筋は、太ももの内側にある筋肉です。ストレッチすることで、股関節の柔軟性を高め、膝への負担を軽減できます。ストレッチのやり方は以下のとおりです。
- 足を大きく開いて立ちます。肩幅の1.5倍程度を目安にしましょう。
- 片方の膝を曲げ、もう片方の足を伸ばします。
- 曲げた足のほうに体重をかけ、股関節の内側が伸びているのを感じながら、20~30秒間キープします。
- 反対側の足も同様に行います。
ポイントは背筋を伸ばし、姿勢を正しく保ちましょう。猫背にならないように注意しましょう。
症状が改善しない場合や痛みが増す場合は、自己判断せずに整形外科を受診することをおすすめします。
ストレッチ以外の治療法と日常生活の注意点
ストレッチだけで症状がすべて改善するわけではありません。ストレッチ以外の治療法も組み合わせていくことが重要です。ストレッチ以外の治療法と、日常生活で注意すべき点についてそれぞれ解説します。
- 薬物療法(鎮痛剤、ヒアルロン酸注射など)
- 装具療法(サポーター、足底板など)
- 運動療法(筋力トレーニング、水中運動など)
- 日常生活での姿勢や動作の注意点
薬物療法(鎮痛剤、ヒアルロン酸注射など)
変形性膝関節症の薬物療法は、炎症を抑え、痛みを和らげることを目的としています。主な薬物療法は以下のとおりです。
- 鎮痛剤
内服薬としては、アセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が用いられます。痛みや炎症を引き起こすプロスタグランジンという物質の産生を抑えることで効果を発揮します。NSAIDsは、炎症を抑える作用が強い一方、胃腸障害などの副作用が現れる可能性もあるため、医師の指示に従って服用することが大切です。 - ヒアルロン酸注射
ヒアルロン酸は、関節液の主成分であり、関節の動きを滑らかにする役割を果たしています。変形性膝関節症では、ヒアルロン酸が減少しているため、関節内に直接ヒアルロン酸を注射することで、関節の動きを改善し、痛みを軽減する効果が期待できます。注射は通常、週1回、計5回のペースで行われることが多いですが、治療の頻度や回数は医師の判断によります。注射部位の痛みや腫れなどの副作用が現れる場合もありますが、比較的安全性が高い治療法です。
装具療法(サポーター、足底板など)
装具療法は、膝関節にかかる負担を軽減し、関節の安定性を高めることを目的としています。装具には、以下の種類があります。
- サポーター
膝関節を外部から支えることで、安定性を高め、過度な動きを制限する効果があります。スポーツ用のサポーターのように、激しい動きに対応できるものから、日常生活での使用に適した薄手のものまで、さまざまな種類がありますので、生活スタイルや痛みの程度に合わせて適切なものを選ぶことが重要です。 - 足底板
足の裏のアーチをサポートすることで、足全体のバランスを整え、膝関節への負担を軽減します。扁平足やハイアーチ(土踏まずが高い状態)の方は、足底板を使用することで、膝の痛みが軽減されることがあります。既製品の足底板もありますが、より効果を高めるためには、患者さんの足の状態に合わせて作製するオーダーメイドの足底板がおすすめです。
運動療法(筋力トレーニング、水中運動など)
運動療法は、膝関節周辺の筋肉を強化し、関節の安定性を高めることで、変形の進行を抑制することを目的としています。以下の運動療法があります。
- 水中運動
水の浮力によって膝関節への負担を軽減しながら、筋力トレーニングを行うことができるため、変形性膝関節症の患者さんにも安全に取り組むことができます。水中ウォーキングや水中エアロビクスなど、さまざまな運動があり、無理なく筋力アップを図ることができます。 - 筋力トレーニング
膝関節周辺の筋肉を強化するうえで効果的です。大腿四頭筋やハムストリングス、内転筋、腓腹筋、中殿筋など、膝関節の動きに関わる筋肉をバランスよく鍛えることで、関節を安定させ、痛みを軽減することが期待できます。スクワットやレッグプレスなどのトレーニングが効果的ですが、痛みが出ない範囲で行うことが大切です。
日常生活での姿勢や動作の注意点
日常生活での何気ない姿勢や動作が、膝関節に大きな負担をかけている場合があります。変形性膝関節症の進行を遅らせるためには、日常生活の中で膝関節への負担を意識的に減らす工夫をすることが重要です。
椅子に座るときは、膝が内側を向かないように注意しましょう。立ち上がるときは、勢いよく立ち上がるのではなく、ゆっくりと時間をかけて立ち上がりましょう。階段の上り下りも、手すりを使うなどして、膝への負担を軽減することが大切です。
和式トイレの使用や正座は、膝関節に大きな負担がかかるため、できるだけ避けるようにしましょう。洋式トイレを使用したり、椅子に座る生活スタイルに変えたりするなど、生活環境を整えることも重要です。
変形性膝関節症の進行を遅らせるための4つのポイント
変形性膝関節症は進行性の病気であるため、早期発見・早期治療が重要です。軟骨のすり減りを最小限に抑え、痛みを管理し、快適に生活するための方法は複数あります。変形性膝関節症の進行を遅らせるための4つのポイントについて解説します。
- 定期的な運動習慣を身につける
- 適切な体重管理を心がける
- バランスの良い食事を摂る
- 専門医による適切な治療を受ける
定期的な運動習慣を身につける
運動不足は、膝関節周辺の筋肉も弱体化させます。筋肉は関節を支え、安定させる役割を担っているため、筋肉が弱くなると膝関節への負担が増大し、軟骨のすり減りが加速する可能性があります。
ウォーキングは、膝への負担が少ない運動でおすすめです。サイクリングも膝への負担が少ない有酸素運動として有効です。運動は1回に長時間行うよりも、短い時間でも毎日続けることが大切です。毎日15分程度のウォーキングでも、継続することで大きな効果が期待できます。
運動を始める際は、整形外科医や理学療法士に相談することをおすすめします。自分の身体の状態に合った運動プログラムを作成してもらうことで、安全かつ効果的に運動に取り組むことができます。
適切な体重管理を心がける
体重管理は、変形性膝関節症の予防と治療において重要な要素です。体重が増加すると膝関節への負担が大きくなり、痛みが増悪しやすくなります。適正体重を維持することで膝関節への負担を軽減し、変形性膝関節症の進行を抑制することができます。
BMI(ボディマス指数)は、体重と身長の関係から算出される肥満度を表す指標です。BMI = 体重(kg) ÷ 身長(m) ÷ 身長(m) で計算できます。健康的なBMIの範囲は18.5~24.9で、25以上は肥満とされています。BMIを計算し、適正体重の範囲内かどうかを確認してみましょう。
体重を減らすためには、バランスの良い食事と適度な運動が不可欠です。極端な食事制限は、栄養不足を引き起こし、かえって健康を害する可能性があります。栄養バランスに配慮したうえで、摂取カロリーをコントロールすることが重要です。
バランスの良い食事を摂る
バランスの良い食事は、健康な身体を維持するために不可欠であり、変形性膝関節症の予防・改善にも役立ちます。骨や軟骨の健康維持に欠かせない栄養素は以下のとおりです。
- カルシウム
骨や歯の形成に不可欠な栄養素です。牛乳やヨーグルト、チーズなどの乳製品、小魚、緑黄色野菜などに多く含まれています。 - ビタミンD
カルシウムの吸収を促進する働きがあります。鮭やさんまなどの魚類、卵、きのこ類などに多く含まれています。日光浴によっても体内で生成されます。 - タンパク質
筋肉や骨、軟骨を作るために必要な栄養素です。肉や魚、卵、大豆製品などに多く含まれています。
カロリーの摂りすぎに注意し、野菜や果物を積極的に摂るように心がけましょう。加工食品やインスタント食品、甘いお菓子などは控えめにしましょう。
専門医による適切な治療を受ける
膝の痛みや違和感を感じたら、自己判断せずに整形外科を受診しましょう。専門医による適切な診断と治療を受けることで、症状の悪化を防ぎ、より快適な生活を送ることができるようになります。
整形外科医は、レントゲン検査やMRI検査などを行い、変形性膝関節症の進行度や症状に合わせて、適切な治療法を提案します。近年、遠隔リハビリテーションが注目されています。インターネットを通じて自宅でリハビリテーションを行うことができる治療法です。痛みの緩和に効果があるとされており、今後の発展が期待されています。
まとめ
膝の痛みは日常生活に大きな支障をきたしますが、症状改善には以下のような方法が役に立つ可能性があります。
- 適切なストレッチで膝関節の柔軟性を高める
- 日常生活での姿勢や動作に注意を払う
- 定期的な運動習慣を身につける
- 適切な体重管理とバランスの良い食事を心がける
- 必要に応じて専門医の診察を受ける
痛みを感じたら我慢せずに、整形外科を受診し、専門医のアドバイスを受けることをおすすめします。
参考文献
- Xiang W, Wang JY, Ji BJ, Li LJ, Xiang H. Effectiveness of Different Telerehabilitation Strategies on Pain and Physical Function in Patients With Knee Osteoarthritis: Systematic Review and Meta-Analysis. J Med Internet Res, 2023 Dec 4;25:e40735.
- Ogawa W, Hirota Y, Miyazaki S, Nakamura T, Ogawa Y, Shimomura I, Yamauchi T, Yokote K; Creation Committee for Guidelines for the Management of Obesity Disease 2022 by Japan Society for the Study of Obesity (JASSO). Definition, criteria, and core concepts of guidelines for the management of obesity disease in Japan. Endocr J, 2024 Mar 28;71(3):223-231.