• 2025年1月8日

変形性膝関節症の保存療法について

「最近、階段の上り下りがつらい」「立ち上がるときに膝に違和感がある」と感じていませんか?実はそれ、変形性膝関節症の初期症状かもしれません。

変形性膝関節症は、加齢や肥満などが原因で、膝関節の軟骨がすり減り、痛みや腫れ、動かしにくさが現れる病気です。進行すると歩くことすら困難になる場合もあります。

初期症状は、日常生活で特に支障がないため、放置してしまう方が少なくありません。しかし、変形性膝関節症は放置すると徐々に進行する病気です。

この記事では、変形性膝関節症の症状や原因、そして、手術ではない保存療法を中心とした治療法について詳しく解説します。

ご自身の膝の状態を知り、適切な治療とケアを始めるために、ぜひ最後まで読んでみてください。

変形性膝関節症の症状と原因

「変形性膝関節症」は、膝関節のクッションの役割を果たす軟骨がすり減ったり、変形したりすることで、痛みや腫れ、動かしにくさが現れる病気です。私たちの体も、長年使っていると、どうしてもガタがきてしまうものです。特に、体重を支え、常に動き続ける膝関節は、負担が大きくなりやすい場所です。

初期症状

初期には、階段の上り下りや立ち上がりなど、膝に負担がかかる動作をした時だけ、軽い痛みや違和感を感じることがあります。「あれ?ちょっと膝が重いかな?」「なんか、いつもと違う感じがするな」といった、ほんの小さなサインです。

例えば、朝起きた時に膝がこわばって動きにくい、歩き始めに膝が痛むけれど、しばらくすると楽になる、といった症状も初期に見られます。これは、まるで、長年使い込んだ自転車のチェーンが、動き始めに少し引っかかるようなものです。使い始めは少しぎこちなくても、使い続けるうちに滑らかに動くようになるのと同じように、これらの症状も、動いているうちに自然と軽くなることが多いです。

しかし、ここで注意が必要です。これらの初期症状は、日常生活で特に支障がないため、放置してしまう方が少なくありません。「そのうち治るだろう」と軽く考えてしまいがちですが、変形性膝関節症は、放置すると徐々に進行していく病気です。初期の段階で適切なケアを行うことが、将来の健康な膝を守るために非常に大切です。

中期症状

中期になると、初期に見られた痛みが強くなり、安静にしていても痛むようになります。これは、軟骨のすり減りが進行し、骨と骨が直接ぶつかり合うことで炎症が起こるためです。炎症が起きると、膝に関節液が溜まって腫れ、熱を持つこともあります。

さらに、膝を動かすと「ゴリゴリ」「カクカク」といった音がしたり、膝が突っ張って曲げ伸ばしがしづらくなったりします。これは、すり減った軟骨によって関節の表面が粗くなり、スムーズに動かなくなるために起こります。まるで、使い古したドア hinges が、開け閉めのたびに「キーキー」と音を立てるようなものです。

中期になると、日常生活にも支障が出始めます。歩くのが遅くなったり、長い時間立っていることが辛くなったり、正座が難しくなったりします。このような症状が現れたら、日常生活に大きな支障をきたす前に、早めに医療機関を受診しましょう。

末期症状

末期になると、膝の痛みが非常に強くなり、歩くことすら困難になる場合があります。これは、軟骨がほとんどすり減ってしまい、骨同士が直接こすれ合うようになるためです。

また、膝関節の変形が進行し、O脚(がに股)になることもあります。O脚は、見た目の問題だけでなく、体のバランスを崩し、腰痛や股関節痛の原因になることもあります。

さらに、膝が完全に伸びなくなったり、杖や歩行器がないと歩けなくなったりすることもあります。末期の変形性膝関節症は、日常生活に大きな制限をもたらし、生活の質を著しく低下させてしまいます。

変形性膝関節症は進行性の病気であるため、末期になると治療が難しく、生活の質を維持することが困難になります。早期発見・早期治療によって、進行を遅らせ、日常生活の質を維持することが重要です。

変形性膝関節症になりやすい人の特徴

変形性膝関節症は、誰でもかかる可能性のある病気ですが、特に以下のような人は注意が必要です。

  • 年齢を重ねた人: 特に40歳以上は要注意です。年齢を重ねるとともに、軟骨の弾力性が失われ、すり減りやすくなります。
  • 肥満の人: 体重が重いほど膝への負担が大きくなります。これは、重い荷物を常に持ち歩いているようなもので、膝関節への負担は相当なものになります。
  • 女性: 男性に比べて発症率が高い傾向にあります。これは、女性ホルモンの減少により、骨や軟骨が弱くなりやすいためと考えられています。
  • 家族に変形性膝関節症の人がいる人: 遺伝的な要因も考えられています。
  • スポーツなどで膝を酷使している人: 過度な負担は膝を痛める原因になります。特に、ジャンプや着地を繰り返すスポーツは、膝関節への負担が大きいため注意が必要です。
  • O脚の人: 膝の内側に負担がかかりやすくなります。

これらの特徴に当てはまる人は、日頃から膝のケアを心がけ、変形性膝関節症の予防に努めることが大切です。もし、膝に違和感を感じたら、我慢せずに早めに医療機関を受診しましょう。

近年では、若年層でも半月板損傷による膝の症状を抱える患者において、リハビリなどの運動療法よりも手術の方が、膝の引っかかりなどの機械的な症状の改善に効果的であるという研究結果が出ています。しかし、この研究では、手術をしても痛みや日常生活の質の改善には効果がないという結果も出ています。

つまり、変形性膝関節症の治療において、手術が必ずしも最善の選択とは限らないということです。変形性膝関節症の治療は、患者さんの年齢、症状、生活スタイルなどを考慮した上で、医師と相談しながら慎重に決めていく必要があります。

変形性膝関節症の保存療法

変形性膝関節症と診断された後、どのように治療を進めていけば良いのか、不安に感じている方もいるかもしれません。 「手術」という言葉が頭をよぎる方もいらっしゃるかもしれませんが、まずは、手術ではなく、薬や運動療法で症状を和らげ、進行を遅らせる「保存療法」について詳しく見ていきましょう。保存療法でどこまで改善できるか、目標を共有しながら治療を進めていきましょう。

薬物療法の種類と効果

薬物療法は、痛みや炎症を抑え、変形性膝関節症の進行を遅らせることを目的としています。痛みを抑えることで、日常生活での活動性を維持し、運動療法を行いやすい状態を作ることも期待できます。

薬には、大きく分けて、「飲む」「塗る」「注射する」の3つの種類があります。

  1. 飲み薬:

    • 痛みや炎症を抑える薬(非ステロイド性消炎鎮痛薬): 痛みや炎症の原因となる物質の生成を抑え、つらい症状を和らげます。胃への負担を考慮し、胃薬と一緒に処方されることもあります。胃の調子が悪い方は、主治医に伝えてくださいね。
    • 軟骨を保護する薬: 軟骨の分解を抑えたり、生成を促したりする薬も開発されています。効果や副作用には個人差がありますので、医師とよく相談しながら使用するようにしましょう。
  2. 塗り薬や貼り薬:

    • 痛みのある部分に直接塗ったり貼ったりすることで、炎症を抑え、痛みを和らげます。皮膚から吸収されるため、胃腸への負担が少なく、体への負担が少ないというメリットがあります。
  3. 注射:

    • ヒアルロン酸注射: 関節内の潤滑剤であるヒアルロン酸を補給することで、関節の動きを滑らかにし、痛みを軽減します。潤滑油が減って動きが悪くなった関節に、直接潤滑油を注入するイメージです。
    • ステロイド注射: 炎症を抑える効果の高いステロイドを関節内に注射することで、強い痛みや炎症を素早く抑えます。効果が強い半面、頻回に注射すると関節を傷める可能性もあるため、使用回数には注意が必要です。

薬の種類や量、服用期間は、患者さんの症状や体質、年齢に合わせて医師が決定します。自己判断で服用を中止したり、量を変更したりすることは避けましょう。副作用が心配な方や、他の病気で薬を服用中の方は、必ず医師に相談してください。

運動療法の種類と効果

運動療法は、変形性膝関節症の症状改善にとても効果的です。「え?膝が痛いのに運動なんてできるの?」と不安に思う方もいるかもしれません。確かに、激しい運動は逆効果になってしまいます。しかし、適切な運動は、膝周りの筋肉を鍛え、関節を支える力を強くすることで、痛みを軽減し、進行を遅らせる効果が期待できます。

どんな運動をすればいいの?

運動療法というと、激しいトレーニングを想像する方もいるかもしれませんが、ご安心ください。変形性膝関節症の運動療法は、決して無理をする必要はありません。

  • 筋力トレーニング: スクワットのように膝を曲げ伸ばしする運動や、つま先立ちでふくらはぎの筋肉を鍛える運動は、膝関節の安定性を高め、痛みの軽減に効果的です。これらの運動は、自宅でも簡単に行うことができます。無理のない回数から始め、徐々に回数を増やしていくようにしましょう。
  • ストレッチ: 太ももの前側や裏側、ふくらはぎなどを中心にストレッチを行いましょう。筋肉の柔軟性を高めることで、関節の動きがスムーズになり、痛みを予防することができます。お風呂上がりなど、体が温まっている時に行うと、より効果的です。
  • 水中歩行: 水中では浮力が働くため、膝への負担を軽減しながら運動できます。水の抵抗を利用することで、筋力強化にも効果的です。プールがなくても、自宅の浴槽で足踏みをするだけでも効果があります。

運動は、痛みが出ない範囲で、無理なく行うことが大切です。ウォーキングや水中歩行など、比較的負担の少ない運動から始め、徐々に強度や時間を増やしていくと良いでしょう。痛みが出た場合は、無理をせず、運動を中止してください。

薬物療法と運動療法の比較

薬物療法は、痛みや炎症を抑え、症状を速やかに改善する効果がありますが、根本的な治療法ではありません。あくまで、痛みを一時的に抑えるための対症療法という位置付けになります。また、薬の種類によっては、胃腸障害や眠気などの副作用が現れることもあります。高齢の方や持病のある方は、特に注意が必要です。

一方、運動療法は、副作用のリスクが少なく、長期的な視点で症状の改善や進行抑制効果が期待できます。筋肉を鍛え、関節を支える力を強化することで、根本的な改善を目指します。しかし、効果が出るまでに時間がかかることや、運動の種類や強度によっては、膝への負担が大きくなってしまう可能性もあるため注意が必要です。

最近では、若年者の半月板損傷とそれによって起こる、膝の引っかかりなどの症状に対して、早期の手術が運動療法よりも効果的である可能性が示唆されています。これは、半月板という膝関節内の重要な組織が損傷することで、関節の動きが制限され、痛みが生じるためです。しかし、この研究では、手術をしても痛みや日常生活の質の改善には効果がないという結果も出ています。

つまり、変形性膝関節症の治療において、手術が必ずしも最善の選択とは限らないということです。変形性膝関節症の治療は、患者さんの年齢、症状、生活スタイルなどを考慮した上で、医師と相談しながら慎重に決めていく必要があります。

どちらの治療法が適しているかは、患者さんの症状や生活習慣、年齢などを考慮して、医師と相談しながら決めるようにしましょう。自分の膝の状態を理解し、医師とよく相談しながら、治療方針を決めていくことが大切です。

変形性膝関節症の治療で大切なこと

変形性膝関節症は、まるで長年使い込んだ歯車のように、膝関節の軟骨がすり減り、痛みや動きにくさを引き起こす病気です。進行すると、歩くのもつらくなり、日常生活に大きな支障が出てしまうこともあります。

「まだ若いから大丈夫」「ちょっと痛むくらいなら…」と安易に考えていませんか? 変形性膝関節症は、放置するとどんどん進行してしまう病気です。初期の段階で適切な治療やケアを始めれば、進行を遅らせ、健康な状態を長く保つことができます。

日常生活での注意点

変形性膝関節症の治療は、病院での治療だけでなく、日常生活での心がけも非常に大切です。毎日の生活の中で、膝への負担を減らし、膝周りの筋肉を鍛えることを意識しましょう。

1. 負担を減らす

  • 体重コントロール: 体重が増えると、膝への負担も大きくなります。肥満は変形性膝関節症のリスクを高める大きな要因の一つです。体重が1kg増えるごとに、膝への負担は3~6kgも増加すると言われています。
  • 姿勢: 猫背などの悪い姿勢は、膝関節への負担を増大させます。日頃から背筋を伸ばし、正しい姿勢を心がけましょう。
  • 動作: しゃがんだり、重いものを持ち上げたりする際は、膝に負担をかけないよう注意が必要です。例えば、重い荷物を持つ時は、両手に均等に持つ、リュックサックを使用する、荷物を分割して持つなど工夫してみましょう。また、高いヒールの靴は膝への負担が大きいため、なるべく避けるようにしましょう。
  • 運動: 激しい運動は控えるようにしましょう。ウォーキングや水中ウォーキングなど、膝への負担が少ない運動を選び、無理のない範囲で行うようにしてください。

2. 膝周りの筋肉を鍛える

膝周りの筋肉、特に太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)を鍛えることは、膝関節の安定性を高め、痛みを軽減するために非常に効果的です。

  • 筋トレ: 椅子に座ったまま足を上げる運動や、壁に手をついてスクワットをする運動など、自宅で簡単にできる運動も効果的です。
  • ストレッチ: 運動の前後には、ストレッチを行いましょう。太ももの前側、裏側、ふくらはぎなどを中心に、ゆっくりと筋肉を伸ばすことで、柔軟性を高め、怪我の予防にもつながります。

3. 冷えを防ぐ

冷えは、血行を悪くし、痛みやこわばりを悪化させる原因になります。特に冬場は、膝を冷やさないよう注意が必要です。

  • 保温: 冷えやすい人は、レッグウォーマーやサポーターなどで膝を温めましょう。
  • 入浴: ぬるめのお湯にゆっくりと浸かることで、血行が促進され、筋肉の緊張が和らぎます。

専門医による治療の重要性

「膝が痛い」「動きが悪い」と感じたら、自己判断せずに、早めに整形外科を受診しましょう。専門医による適切な診断と治療を受けることが、変形性膝関節症の進行を遅らせ、日常生活の質を維持するために非常に大切です。

なぜ専門医の診断が必要なの?

膝の痛みは、変形性膝関節症以外にも、様々な原因で起こります。自己判断で間違ったケアをしてしまうと、症状が悪化してしまう可能性もあるため、注意が必要です。専門医は、レントゲン検査やMRI検査などを用いて、痛みの原因を正確に診断します。

例えば、若年者の半月板損傷とそれによって起こる、膝の引っかかりなどの症状に対して、近年では早期の手術が従来の運動療法よりも効果的である可能性が示唆されています。これは、半月板という膝関節内の重要な組織が損傷することで、関節の動きが制限され、痛みが生じるためです。

専門医による治療のメリット

  • 痛みの原因に合わせた適切な治療法を選択できる。
  • 薬物療法、運動療法、装具療法、手術療法など、様々な治療法の中から、患者さん一人ひとりの状態に最適な治療法を提案してもらえる。
  • 治療内容や日常生活での注意点について、専門家の立場から詳しく説明を受けられる。

将来を見据えた治療選択

変形性膝関節症の治療は、現在の痛みの改善だけでなく、将来を見据えて、自分の足で歩き続けられるように、膝の機能を維持していくことを目標にすることが重要です。

治療法を選択する際には、現在の症状だけでなく、年齢や生活習慣、仕事、趣味、将来的な目標などを考慮し、医師とよく相談することが大切です。最新の研究では、若年者の半月板損傷に対して、早期の手術が運動療法よりも効果的である可能性が示唆されていますが、手術をしても痛みや日常生活の質の改善には効果がないという結果も出ています。

そのため、患者さんの状態によっては、手術が必ずしも最善の選択とは限らないのです。医師とじっくりと話し合い、納得のいく治療法を選択しましょう。

変形性膝関節症は、適切な治療と日々の心がけによって、進行を遅らせ、症状をコントロールすることができます。専門医と連携し、ご自身で積極的に治療に取り組むことが、快適な日常生活を長く続けるために重要です。

まとめ

変形性膝関節症は、膝関節の軟骨の摩耗・変形により痛みや動きの制限が生じる病気です。
初期は軽い痛みや違和感から始まり、進行すると歩行困難になることもあります。
治療法は、薬物療法や運動療法などの保存療法が中心ですが、症状や進行度合いによっては手術も検討されます。
日常生活では、体重コントロールや適切な運動、膝への負担を減らす工夫など、セルフケアが重要です。
専門医の診断のもと、適切な治療と生活習慣の改善を図ることで、進行を抑制し、日常生活の質を維持することが可能です。

参考文献

  • Damsted C, Thorlund JB, Hölmich P, Lind M, Varnum C, Villumsen MD, Hansen MS and Skou ST. “Effect of exercise therapy versus surgery on mechanical symptoms in young patients with a meniscal tear: a secondary analysis of the DREAM trial.” British journal of sports medicine 57, no. 9 (2023): 521-527.

追加情報

若年患者の半月板損傷における運動療法と手術の効果の比較:DREAM試験の二次解析

【要約】

  • 患者の自己報告に基づき、18-40歳の半月板損傷と機械的な膝の症状を抱える121人を手術または12週間の監視下の運動療法と教育に無作為割り付けを行った。
  • 基線の機械的な症状を報告した63人を対象に、主要アウトカムである患者自己報告による機械的症状、およびKOOSの1つのアイテムを用いた自己評価を3、6、12ヶ月に評価した。
  • 補助的アウトカムには、KOOSサブスケールとWOMETがあった。
  • 12か月時点で、手術群の26人中9人(35%)、運動療法群の29人中20人(69%)が機械的症状を報告。
  • 運動療法群と比較して、手術群の機械的症状報告リスク差と相対リスクはそれぞれ28.7%と1.83であった。
  • 補助的アウトカムにおいては、群間差は検出されなかった。
  • これらの結果から、若年患者の半月板損傷と機械的症状に対しては、早期の手術が運動療法よりも効果的であることが示唆されたが、痛み、機能、QOLの改善には効果がないことが示された。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36878666

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[quote_source]: Damsted C, Thorlund JB, Hölmich P, Lind M, Varnum C, Villumsen MD, Hansen MS and Skou ST. “Effect of exercise therapy versus surgery on mechanical symptoms in young patients with a meniscal tear: a secondary analysis of the DREAM trial.” British journal of sports medicine 57, no. 9 (2023): 521-527.

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