• 2025年4月23日

仙腸関節性腰痛の特徴と症状とは?原因と治療方法も解説

腰やお尻の痛みがあり、朝や長時間座っていた後に悪化する場合は、仙腸関節性腰痛の可能性があります。仙腸関節性腰痛は、腰痛の中でも特徴的な症状を示す疾患です。左右どちらかの腰やお尻、足の付け根に痛みが出て、しびれや違和感、冷えを伴うことがあります。一部の研究によると、関節の動きの異常や骨盤のずれが原因とされています。

放置すると慢性化し、日常生活に影響を及ぼすおそれもあるため注意が必要です。この記事では、仙腸関節性腰痛の症状や原因、治療方法、自宅でできるセルフケア方法についても解説します。つらい痛みの軽減を目指し、快適な生活を送るための第一歩を踏み出しましょう。

仙腸関節性腰痛の特徴と症状

仙腸関節性腰痛は、他の腰痛とは異なる特徴を持つため、正しい理解が重要です。仙腸関節性腰痛の特徴と症状について以下の内容を解説します。

  • 痛みの特徴:場所、種類、時間帯
  • 関連症状:下肢のしびれ・違和感

痛みの特徴:場所、種類、時間帯

仙腸関節性腰痛の場合、左右どちらか片方の腰やお尻、足の付け根あたりに痛みを感じることが多いです。お尻の上の骨の出っ張っているあたりに相当します。

痛みの種類は、重だるい鈍痛や鋭くズキズキするなど、さまざまです。痛みが常に続く場合もあれば、断続的に痛む場合もあります。朝起きたときや長時間デスクワークをした後に立ち上がろうとすると、腰やお尻にズキッとした痛みを感じることが特徴です。

同じ姿勢を長時間続けた後、動き始めるときに強くなる傾向があります。同じ姿勢を続ける間に仙腸関節への負担がかかり、炎症が悪化するためと考えられます。少し動くと楽になることもありますが、再び同じ姿勢を続けると痛みがぶり返すこともあります。

関連症状:下肢のしびれ・違和感

仙腸関節性腰痛では、腰やお尻の痛みだけでなく、足にしびれや違和感、冷え、だるさなどを伴うこともあります。仙腸関節の炎症が神経を刺激し、血流を阻害することで起こると考えられています。

  • しびれ:足の裏やふくらはぎ、太ももにピリピリとしたしびれを感じる
  • 違和感:足が重だるく、むくんでいるように感じる

しびれは、電気が走るような感覚や皮膚の表面がチリチリするように感じる場合もあります。違和感は、靴がきつく感じたり、足を引きずるような感覚が生じたりすることもあります。下肢のしびれや違和感は、腰痛と同時に出現することもあれば、腰痛が治まった後も続くことがあります。

歩行困難や仕事や家事ができなくなるなど、日常生活に支障をきたす可能性があるため、症状が軽いうちに治療を受けることが大切です。足にしびれや違和感がある場合は、他の疾患の可能性も考えられるため、早めに医師の診察を受けましょう。

仙腸関節性腰痛の原因3選

仙腸関節性腰痛の主な3つの原因は以下のとおりです。

  • 姿勢不良や急な動作
  • 妊娠・出産・加齢による変化
  • スポーツ、事故などによる外傷

姿勢不良や急な動作

仙腸関節性腰痛の原因の一つは、日常生活における姿勢の悪さや急な動作です。私たちの体は、骨盤を基盤としてバランスを保っています。デスクワークで長時間同じ姿勢を続けていると、骨盤が後傾し、仙腸関節が圧迫されやすくなります。足を組む癖は骨盤の左右のバランスを崩し、片側の仙腸関節に負担が偏る原因です。

重い物を持ち上げる際、腰を曲げたまま持ち上げると、仙腸関節に大きな力が加わり、炎症や痛みを引き起こす可能性があります。急な動作も同様に、仙腸関節への負担を増大させ、損傷のリスクを高めます。具体的には、以下のような姿勢や動作に注意が必要です。

  • 長時間同じ姿勢での作業(デスクワーク、車の運転など)
  • 猫背、前かがみの姿勢
  • 足を組む、横座り
  • 重い物を持ち上げる、中腰での作業
  • 急な体のひねり、スポーツ時の無理な動作

普段から正しい姿勢を意識し、急な動作を避けるよう心がけましょう。

妊娠・出産・加齢による変化

妊娠中は、リラキシンというホルモンが分泌され、靭帯が緩むことがあります。出産に備えて骨盤を広げるために起こる変化ですが、同時に仙腸関節の安定性に影響を与え、腰痛のリスクが高まる可能性があります。妊娠中は、大きくなるお腹を支えるために腰への負担が増加し、仙腸関節にも大きなストレスがかかります。

加齢に伴い、骨や軟骨、靭帯は弾力性を失い、周りの筋肉も衰えるため、仙腸関節の安定性が低下し、痛みが出やすくなります。女性は、閉経後に骨密度が低下しやすいため、より注意が必要です。骨密度の低下は、骨折のリスクを高めるだけでなく、仙腸関節の支持機能も低下させ、痛みや不安定性を招く可能性があります。

妊娠中や産後、加齢による体の変化が見られる時期には、適切なケアや運動を取り入れることで、仙腸関節性腰痛の予防につながります。

スポーツ、事故などによる外傷

スポーツや事故による強い衝撃は、仙腸関節に直接的なダメージを与え、激しい痛みを引き起こすことがあります。コンタクトスポーツでの衝突や転倒、交通事故などが原因となる場合があり、外傷は、靭帯の損傷や仙腸関節の亜脱臼、骨折などを引き起こす可能性があります。

ラグビーやアメフト、バスケットボールなどの激しいスポーツをしている方は、仙腸関節を痛めるリスクが高いため、十分な注意が必要です。急な方向転換やジャンプ、タックルなど、仙腸関節に大きな負担がかかる動作が多く含まれています。

仙腸関節を痛めた経験がある方は、再発しやすいため、普段から予防を心がけることが大切です。スポーツによるけがは、競技レベルや練習量、個々の身体的特徴など、さまざまな要因が複雑に絡み合って発生します。けがを完全に防ぐことは難しいものの、以下のような対策でリスクを減らすことが期待できます。

  • 適切なウォーミングアップとクールダウンの実施
  • 安全な練習環境の確保
  • 専門家による指導

予防意識を高め、継続的なケアを行うことで、仙腸関節への負担を軽減し、外傷を防ぐことが可能です。

仙腸関節性腰痛の治療方法

仙腸関節性腰痛の治療方法は、大きく分けて保存療法と手術療法の2種類があります。保存療法には、装具療法や薬物療法、ブロック注射などがあります。それぞれの治療方法について解説します。

  • 装具療法
  • 薬物療法
  • ブロック注射
  • 手術療法

装具療法

骨盤ベルトは、仙腸関節を安定させることを目的とした装具です。コルセットのように骨盤を包み込み、安定性をサポートすることが期待されます。妊娠中や産後の女性、立ち仕事や重いものを持ち上げる作業が多い方におすすめです。

骨盤ベルトにはさまざまな種類があります。マジックテープで簡単に着脱できるものや、体にフィットしやすい素材のものなど、患者さんの体型や生活スタイルに合わせて選ぶことができます。前締めタイプと後締めタイプがあり、症状や体型に合ったタイプを選ぶことが重要です。

前締めタイプは腹部への圧迫が少ないため、妊娠中の方にも安心して使用できます。後締めタイプは腰部をしっかりとサポートするため、腰痛が強い方におすすめです。

骨盤ベルトの効果を高めるためには、正しい装着方法を身につけることが重要です。装着位置がずれていたり、締め付けが強すぎたりすると、かえって痛みが増悪する可能性があります。医師や理学療法士に相談し、適切な装着方法を指導してもらいましょう。

骨盤ベルトはあくまで補助的な役割を果たすものです。装着するだけでなく、ストレッチや筋力トレーニングなどの運動療法と組み合わせることで、より効果的に痛みを改善できます。

薬物療法

仙腸関節性腰痛の薬物療法では、主に痛みや炎症を抑える薬が用いられます。痛みを和らげ、日常生活を送りやすくする効果が期待できる場合があります。代表的な薬としては、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)であるロキソニン、ボルタレンなどです。炎症を引き起こす物質の生成を抑えることで、痛みや腫れを軽減します。

筋肉の緊張が強い場合は、筋弛緩薬が処方されます。筋弛緩薬は、筋肉の緊張を和らげることで、痛みを軽減する薬です。神経障害性疼痛が疑われる場合には、プレガバリンなどの神経障害性疼痛治療薬を用いることもあります。神経障害性疼痛とは、神経が損傷したり圧迫されたりすることで起こる痛みです。しびれや焼けるような感覚を伴うこともあります。

副作用が現れた場合は、すぐに医師に相談しましょう。自己判断で薬の服用を中止することは危険です。高齢の方や持病のある方は、副作用が出やすい傾向があるため注意が必要です。妊娠中の方は、服用できる薬が限られているので、必ず医師に相談しましょう。

ブロック注射

ブロック注射は、仙腸関節に直接薬剤を注射する治療方法です。炎症を抑えるステロイド薬や痛みを麻痺させる局所麻酔薬を注射することで、ピンポイントでの痛みの緩和が期待できます。効果は比較的早く現れる場合があり、痛みが軽減される方もいますが、効果の持続期間は個人差があり、数日〜数週間程度です。

ブロック注射は、痛みの原因を特定する診断としても用いられます。注射によって痛みが軽減されれば、仙腸関節が痛みの原因である可能性が高いと判断できます。腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症など、他の疾患が原因で腰痛が生じている場合、仙腸関節ブロックを行っても痛みが軽減されないことがあります。

ブロック注射は、比較的安全な治療方法ですが、まれに感染や出血などの合併症が起こることがあるため注意が必要です。合併症などのリスクについて説明を受けたうえで、納得して治療を受けましょう。

手術療法

仙腸関節性腰痛の手術は、保存療法で効果が得られない場合に検討されます。手術療法としては、仙腸関節固定術が一般的です。仙腸関節を金属製のインプラントで固定し、関節の動きを制限することで痛みを軽減する手術です。人工関節に置き換える手術を行う場合もあります。

手術には傷口が小さい低侵襲手術と、傷口が比較的大きい従来の手術があり、患者さんの状態に適した方法を選択することが重要です。低侵襲手術は、入院期間や術後の回復期間が従来の手術と異なる場合があり、適応が限られる場合があります。

手術にはリスクも伴うため、医師とよく相談し、受けるかどうかを判断しましょう。手術後には、リハビリテーションが必要になる場合もあります。リハビリテーションは、関節の可動域を回復し、筋力を強化するために行います。

自宅でできるセルフケア

自宅でできる簡単なセルフケアは、以下のとおりです。

  • ストレッチ
  • 筋力トレーニング
  • 姿勢改善

ストレッチ

仙腸関節性腰痛の痛みを和らげるには、骨盤周辺の筋肉の柔軟性を高めるストレッチが効果的です。梨状筋などの深部の筋肉が硬くなっていると、仙腸関節に負担がかかりやすくなり、炎症を悪化させてしまいます。梨状筋は、お尻の深部に位置する筋肉で、股関節を外側に回す働きをしています。梨状筋ストレッチの手順は以下のとおりです。

  1. 仰向けに寝て、両膝を立てる
  2. ストレッチする側の足首を反対側の膝の上に乗せる
  3. 反対側の太もも裏を持ち、息を吐きながら胸の方へゆっくりと引き寄せる
  4. 30秒間維持し、反対側も同様に行う
  5. 1日3回繰り返す

大殿筋は、お尻の表面にある大きな筋肉で、股関節を伸展させる働きをしています。大殿筋ストレッチの手順は以下のとおりです。

  1. 仰向けに寝て、両膝を立てる
  2. ストレッチする側の足首を反対側の膝の上に乗せる
  3. 反対側の手でストレッチする側の膝の外側を持ち、息を吐きながらゆっくりと反対方向へ倒す
  4. 30秒間維持し、反対側も同様に行う
  5. 1日3回繰り返す

ハムストリングスは、太ももの裏側にある筋肉で、膝を曲げる働きをしています。ハムストリングのストレッチの手順は以下のとおりです。

  1. 床に座り、片方の足を伸ばし、もう片方の足を曲げる
  2. 伸ばした足のつま先に向けて、息を吐きながら上体をゆっくりと倒す
  3. 30秒間維持し、反対側も同様に行う
  4. 1日3回繰り返す

ストレッチは、痛みを感じない範囲で行うことが大切です。無理に伸ばすと、逆に痛みを悪化させる可能性があります。ストレッチを行う際の呼吸も重要です。息を吸いながら準備し、息を吐きながらゆっくりと伸ばすようにしましょう。症状が強い場合や不安がある場合は、医師や理学療法士に相談しながら行いましょう。

筋力トレーニング

仙腸関節を安定させるためには、体幹や骨盤周辺の筋肉を鍛えることが重要です。筋肉が弱いと、仙腸関節が不安定になり、痛みが出やすくなります。筋力トレーニングは、インナーマッスルと呼ばれる深層筋を鍛えることで、関節の安定性を高める効果が期待できます。

ドローインは、腹横筋という深層筋を鍛えるトレーニングです。腹横筋は、お腹を包み込み、体幹を安定させる役割を担っています。ドローインの手順は以下のとおりです。

  1. 仰向けに寝て、両膝を立てる
  2. 息をゆっくりと吐きながら、お腹をへこませる
  3. 10秒間維持し、10回繰り返す
  4. 1日3セット行う

ブリッジでは、大殿筋やハムストリングス、体幹の筋肉をまとめて鍛えられます。ブリッジの手順は以下のとおりです。

  1. 仰向けに寝て、両膝を立てる
  2. お尻を持ち上げ、体幹を一直線にする
  3. 5秒間維持し、10回繰り返す
  4. 1日3セット行う

痛みを感じない範囲で行うようにしましょう。最初は少ない回数から始め、徐々に回数を増やしていきましょう。

姿勢改善

日常生活での姿勢や動作に気をつけることも、仙腸関節性腰痛の予防や改善に役立ちます。長時間同じ姿勢を続けることは、仙腸関節への負担を増大させるため、注意が必要です。日常生活で以下の動作をする際に備えて、ポイントを把握しておきましょう。

  • 立つとき:背筋を伸ばし顎を軽く引き、左右の足に均等に体重をかける
  • 座るとき:深く椅子に腰掛け、背もたれに寄りかかる
  • 仰向けで寝るとき:膝の下にクッションを置く
  • 横向きで寝るとき:両膝の間にクッションを挟む

座るときに足を組むのは避けましょう。足を組むと、骨盤が歪み、仙腸関節に負担がかかりやすくなります。こまめに姿勢を変えたり、休憩を取ったり、軽いストレッチを行うなど、工夫をしてみましょう。

セルフケアは、医療機関での治療と並行して行うことで、より効果を発揮します。症状が改善しない場合や悪化する場合は、自己判断せずに医療機関を受診しましょう。

まとめ

仙腸関節性腰痛は、お尻の上の方の骨の出っ張り付近に痛みを感じ、長時間同じ姿勢をとった後や、動き始めるときに痛みが強くなる傾向があります。原因は、以下が挙げられます。

  • 姿勢不良や急な動作
  • 妊娠・出産、加齢
  • スポーツ外傷

治療方法には、以下の方法があります。

  • 装具療法
  • 薬物療法
  • ブロック注射
  • 手術療法

自宅では、ストレッチや筋力トレーニング、正しい姿勢を意識することで、症状の緩和や再発予防が期待できます。痛みが改善しない場合は、医療機関に相談し、専門家のアドバイスを受けましょう。医療機関での相談を通じて、あなたの状態に合った治療方法を検討できます。

参考文献

Ariella Gartenberg, Adam Nessim, Woojin Cho. Sacroiliac joint dysfunction: pathophysiology, diagnosis, and treatment. Eur Spine J, 2021, 30, 10, p.2936-2943

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