- 2025年3月9日
内側半月板損傷の特徴的な症状と効果的な治療法を解説
階段の上り下りやしゃがむ動作で膝に痛みを感じたり、膝に「カクッ」という音がしたりする場合、内側半月板損傷の可能性があります。内側半月板損傷は、膝のクッションの役割を果たす半月板が損傷することで起こる疾患です。
適切な治療を受けずに放置すると、日常生活に支障をきたすほど症状が悪化する可能性があります。この記事では、内側半月板損傷を以下の項目に沿って解説します。
- 内側半月板損傷の主な症状
- 日常生活への影響と症状の進行
- 内側半月板損傷の効果的な治療法
- 内側半月板損傷の診断方法と検査手段
膝に気になる症状がある方は、ご自身の症状と照らし合わせながら読み、疾患の知識と対処法の理解に役立ててください。
内側半月板損傷の主な4つの症状
半月板は、大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)の間にある軟骨です。膝関節の中でクッションの役割を果たし、関節の安定性にも寄与します。内側半月板は外側半月板に比べて可動性が低いため、損傷しやすい傾向があります。内側半月板損傷で起こる代表的な症状は以下の4つです。
- 膝の痛み
- 膝の腫れ
- 膝の引っかかり感
- 膝の不安定感
膝の痛み
内側半月板損傷で最も多い症状は、膝の痛みです。損傷した半月板が周囲の組織を刺激したり、炎症を引き起こしたりして痛みを生じます。膝の内側を押すと痛みを感じることが多く、膝の屈伸時や体重をかけたときにも痛みが強くなります。日常生活で痛みが強くなる傾向にある動作は、以下のとおりです。
- 階段の上り下り
- 正座
- しゃがむとき
スポーツ活動では、方向転換やストップ動作で鋭い痛みを感じることもあります。痛み方には個人差があり、損傷の程度や部位、日常生活における膝への負担の度合いによって異なります。鈍い痛みや鋭い痛み、常に感じる痛みや特定の動作で感じる痛みなど、症状はさまざまです。
膝の腫れ
半月板が損傷すると、炎症反応が起こり、膝関節内に炎症性物質や関節液が溜まって腫れることがあります。腫れは損傷直後に出る場合もあれば、数日後に徐々に現れる場合もあります。腫れの程度も人によって異なり、少し腫れる程度の人もいれば、パンパンに腫れてしまう人もいます。
半月板損傷による腫れは、炎症が原因であるため、患部を冷やすことで腫れや痛みの軽減が期待できます。
膝の引っかかり感
内側半月板が損傷し、半月板の一部が剥がれたりずれたりすると、膝を曲げ伸ばしする際に、関節内で引っかかり感を感じることがあります。「カクッ」「ゴリッ」などの音とともに、スムーズに膝が動かない感覚になります。
引っかかり感は、損傷した半月板が関節の動きを妨げることで発生します。特定の角度で膝を動かしたときだけ感じる場合もあります。症状が進行して、剥がれた半月板が関節の隙間に入り込んでしまうと、膝が動かなくなることもあります。
膝の不安定感
半月板は、膝関節の安定性を保つ役割も担っています。半月板が損傷すると安定性が損なわれ、膝のぐらつきや脱力感を感じることがあります。歩行中やスポーツ活動中に不安定感を覚えることが多く、転倒のリスクが高まります。
半月板根部(半月板が脛骨に付着している部分)が損傷すると、半月板全体の安定性が低下し、膝関節の不安定感が増強する傾向があります。
日常生活への影響と症状の進行
内側半月板損傷の症状は、日常生活にも大きな影響を及ぼします。症状が進行する過程は以下のとおりです。
- 初期
軽い痛みや違和感、軽い腫れが出現する。スポーツ活動や激しい運動時に症状が現れやすい。 - 中期
痛みが増強し、腫れが顕著になる。引っかかり感や不安定感も出現し、日常生活動作にも支障が出る。正座やしゃがむ動作が困難になることもある。 - 後期
日常生活に支障が出るほどの強い痛みや腫れが生じる。膝の可動域制限も起こり、歩行や階段の上り下りも困難になる。
内側半月板根部は、半月板を固定する役割を果たしており、損傷すると半月板が不安定になり、症状が悪化しやすくなります。文献においても、半月板小体断裂に比べて、半月板の突出や関節の不安定性を引き起こしやすいとされています。未治療のまま放置すると、変形性膝関節症に進行する可能性があると指摘されています。
早期に適切な治療を開始することで、日常生活への影響を最小限に抑え、長期的な合併症のリスクを低減できる可能性があります。
内側半月板損傷の効果的な治療法4選
内側半月板損傷の治療は、損傷の程度や年齢、生活スタイル、ご自身の希望を総合的に考慮して決定します。効果的な治療法として以下の4つを解説します。
- 運動療法
- ヒアルロン酸注射
- 手術療法
- 薬物療法
運動療法
運動療法は、保存療法の柱となる治療法です。特に、損傷の程度が軽度から中等度で有効な場合があります。運動療法の目的は、膝関節周辺の筋肉を強化することで関節の安定性を高め、痛みを軽減し、日常生活動作の改善を図ることです。強化する部位と、具体的なトレーニングの例は以下のとおりです。
部位 | トレーニング方法 |
大腿四頭筋(太ももの前の筋肉) | 椅子に座った状態で足をまっすぐ伸ばし、5秒間保持する運動を繰り返します。 |
ハムストリングス(太ももの裏の筋肉) | うつ伏せになり、膝を曲げる運動を繰り返します。 |
下腿三頭筋(ふくらはぎの筋肉) | 立ったまま、つま先立ちになる運動を繰り返します。 |
トレーニングは、決して無理をしてはいけません。痛みが出ない範囲で、徐々に負荷を上げていくことが大切です。自宅でも行えますが、自己流で行うと、かえって症状を悪化させる可能性もあります。必ず理学療法士の指導のもと、適切な運動方法や強度で行ってください。
運動療法の効果はすぐに現れるものではなく、数週間から数か月かかる場合もあります。焦らず根気強く続けることが重要です。
ヒアルロン酸注射
痛みが強い場合や運動療法だけでは十分な効果が得られない場合に、ヒアルロン酸注射が選択されることがあります。ヒアルロン酸は関節液の主成分で、関節の動きを滑らかにする役割を果たします。内側半月板損傷によって関節液の分泌が減少すると、関節の摩擦が増加し、痛みや炎症が悪化することがあります。
ヒアルロン酸注射は、関節の潤滑を助け、動きを滑らかにする治療法です。注射によって関節内のヒアルロン酸の濃度を高めることで、関節の動きを滑らかにし、痛みを軽減する効果が期待できます。
効果には個人差があります。ヒアルロン酸注射は、比較的安全性が高い治療法ですが、注射部位の痛みや腫れ、発赤などの副作用が生じる可能性もゼロではありません。効果の持続期間も個人差があり、通常は数週間〜数か月程度です。
手術療法
保存療法で効果が得られない場合や、半月板の損傷が重度の場合に手術が必要となる場合があります。手術では損傷した半月板を縫合したり、切除したりします。半月板の手術はほとんどの場合、関節鏡手術で行われます。
関節鏡手術は膝に小さな切開を加え、カメラや特殊な器具を挿入して行う手術です。術後の回復は個人差がありますが、一般的に従来の手術に比べて傷口が小さく、術後の痛みや腫れも少ない傾向があり、早期の社会復帰が期待できます。
薬物療法
薬物療法では、痛みや炎症を和らげるために、消炎鎮痛剤の内服薬や外用薬(湿布など)が使用されることがあります。よく使われるのがロキソプロフェン(ロキソニン)や、イブプロフェン(イブ)などのNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)です。
内服の他に、湿布や塗り薬の製剤もあります。NSAIDsは痛みを和らげるだけでなく、炎症を抑える効果も期待できます。胃が荒れたり腎臓に負担がかかったりする副作用があるため、長期間の使用には注意が必要です。
NSAIDsの副作用が気になるときは、アセトアミノフェン(カロナール)を使用する場合が多いです。NSAIDsほど抗炎症作用は強くありませんが、副作用が少なく、比較的安全に使用できる薬です。
内服や外用薬で痛みが抑えられないときは、関節内へのヒアルロン酸注射が有効な場合があります。どの薬が適切かは、痛みの程度や患者さんの状態、既往歴など総合的に考えて選択します。
内側半月板損傷の診断方法と検査手段
内側半月板損傷の診断方法と検査手段を、以下の項目に沿って説明します。
- 画像診断とMRIの役割
- 関節鏡検査の重要性
- 自宅でできる初期評価法
画像診断とMRIの役割
画像診断にはレントゲン検査やCT検査、MRI検査がありますが、内側半月板損傷の診断において、MRI検査は重要な役割を担っています。
MRI検査では、半月板の損傷の有無や程度、損傷部位などを詳細に確認できます。レントゲン写真では骨しか見えませんが、MRI検査では骨だけでなく、筋肉や靭帯、半月板などの軟骨組織も鮮明に映し出されます。半月板損傷以外にも、靭帯損傷や軟骨損傷、滑膜炎など、膝関節のさまざまな病気を診断できます。
MRI検査は、強力な磁場と電波を使って体の断面を画像化します。CT検査と同様に体の内部を画像化できますが、CT検査で用いるX線ではなく、磁場と電波を用いることが大きな違いです。MRI検査は膝の内部の状態を詳しく把握できるため、治療方針を決めるうえで欠かせない検査です。
関節鏡検査の重要性
関節鏡検査は、細いカメラを関節内に挿入して、関節内部の状態を直接観察する検査です。小さな傷からカメラを挿入し、モニターに映し出された画像を見ながら検査や治療を行います。MRI検査より詳細な情報を得ることができ、半月板の損傷の形状や大きさ、周辺組織の状態などを直接確認できます。
関節鏡検査は診断だけでなく、同時に治療を行うこともできます。損傷した半月板の一部を切除したり、修復したりする手術も行えます。関節鏡手術は、一般的に従来の手術に比べて傷口が小さく、術後の痛みや腫れも少ない傾向です。早期の社会復帰が期待できますが、術後の回復は個人差があります。
自宅でできる初期評価法
医療機関を受診する前に、自宅でできる簡単な評価法は以下のとおりです。
- McMurrayテスト
膝を90度に曲げた状態で、足を内外に回転させます。クリック音や痛み、引っかかり感があれば、半月板損傷の可能性があります。 - Apleyテスト
うつ伏せになり膝を90度に曲げた状態で、下腿(膝から足首まで)を上から押さえつけながら内外に回転させます。痛みが増強すれば、半月板損傷の可能性があります。
自宅でできるテストは、あくまで初期評価であり、確定診断を行うものではありません。ご自身で判断せず、少しでも膝に違和感や痛みを感じたら、整形外科を受診し、専門医による適切な診断と治療を受けてください。自己判断で放置すると、症状が悪化したり、回復が遅れたりする可能性があります。
まとめ
内側半月板損傷は膝の痛みや腫れ、引っかかり感、不安定感などの症状があります。MRI検査や関節鏡検査などの精密検査で、損傷の程度や部位を正確に診断して、適切な治療計画を立てます。治療法は、運動療法や手術療法などがあり、損傷の程度や状態に合わせて最適な方法を選択することが大切です。
少しでも膝に痛みや違和感があったら、自己判断せず、早めに整形外科を受診しましょう。早期発見・早期治療により、日常生活への影響を最小限に抑え、長期的な合併症のリスクを低減できる可能性があります。
参考文献
Bhatia S, LaPrade CM, Ellman MB, LaPrade RF. Meniscal root tears:significance, diagnosis, and treatment. Am J Sports Med, 2014;42(12):3016-30.