手の症状について

腱鞘炎
腱鞘炎は手の使い過ぎなどによって、指や手首の関節に痛みが生じる疾患です。骨と筋肉をつなぐ「腱」と、その腱を包む「腱鞘」という組織の間で摩擦が起こり、炎症を発症することが原因です。腱鞘は腱がスムーズに動くように支える滑車のような役割をしているものです。手首や指に症状の現れることが多いのは、これらの部位が他の部位に比べて細かな動きが多くなっているからです。
腱と腱鞘に過剰な摩擦が生じる動きの例としては、パソコン作業でのキーボードやマウスの操作、楽器演奏、何かものを握るスポーツなどがあります。また、加齢に伴い腱鞘が硬くなることや女性ホルモンのバランスの変化も発症に関係していると考えられています。近年では、スマホを長時間操作することも腱鞘炎のリスクを高めると言われていますので、注意が必要です。
腱鞘炎の主な症状は、炎症を起こした部分が赤くなる、痛む、腫れる、などです。 腱鞘が腫れて狭くなることで腱がスムーズに動かなくなり、指や手首の動きが悪くなります。腱鞘炎にはいくつか種類がありますが、代表的なものとしては、親指を伸ばしたり広げたりする腱に炎症が起きる「ドケルバン病」と、指の腱鞘に炎症が起き指の曲げ伸ばしの際に引っ掛かりが生じる「ばね指」があります。ばね指は進行すると指が曲がったまま伸びなくなる場合もあります。
腱鞘炎の治療法としては、安静、湿布や塗り薬といった外用薬による治療、ステロイド剤の注射、手術などがあります。 初期には、患部を安静にして、指の曲げ伸ばしをあまり行わないようにすることが重要です。腱鞘炎の予防としては、指や手首の使い過ぎを避け、ストレッチや休憩を挟むなど、日頃からケアをすることが大切になります。
手根管症候群
手根管症候群は、手首にある「手根管」というトンネル状の部分で、正中神経という神経が圧迫されることによって、手にしびれや痛み、運動障害などの症状が現れる疾患です。手根管は、手首の骨と靭帯に囲まれた空間です。また正中神経は、親指から薬指の親指側までの感覚と、親指の動きをつかさどっている神経です。手根管の中には、この正中神経と、指を動かすための腱が通っています。
手根管内で正中神経が圧迫される原因は様々で、手首の曲げ伸ばしを繰り返すなど手首の使い過ぎや、ホルモンバランスの変化、基礎疾患の影響が挙げられます。たとえば、更年期や妊娠による女性ホルモンの変化は、腱鞘炎のリスクを高め、手根管症候群を発症しやすくします。そのため、中年の女性に発症が多くみられます。
また、糖尿病の方や人工透析を受けている方、関節リウマチの方などにおいても、神経や関節への影響から発症を促す可能性があることがわかっています。さらに、手首の骨折や腫瘍が神経を圧迫するケースや、手根管が生まれつき狭い方など、体質的な要因で発症する場合もあります。
手根管症候群の主な症状は、正中神経がつかさどる領域、つまり親指、人差し指、中指にしびれや痛みが現れることです。夜間や明け方に症状が強くなることが多く、手を振ることで楽になる場合もあります。
治療法としては、初期の軽症の場合には、手首の安静を保ち、ビタミンB12や鎮痛剤などによる薬物療法、ステロイド剤の注射、手首を固定する装具の着用などが行われます。これらの保存療法で効果がない場合や、症状が進行している場合には、手根管のトンネルの屋根にあたる靭帯を切開し、正中神経の圧迫を取り除くという手術を行います。
橈骨遠位端骨折
橈骨遠位端骨折は、転倒して手をついた際に発生しやすい骨折で、前腕の親指側にある骨である橈骨(とうこつ)が、手首付近で骨折するものです。とくに高齢の女性で骨粗しょう症のある方は骨がもろくなっており、通常、交通事故などの強い外力で骨折するところを、ほんの軽い転倒でも発症することが多くなっています。
この部位を骨折した時の症状としては、手首の痛みと腫れ、親指・人差し指・中指・薬指の手のひら側のしびれ、手首を曲げたり手のひらを返したりする運動が困難になることなどが挙げられます。場合によっては、手首がぶらぶらしたり、手の向きが異常になったりすることもあります。
診断に際しては、骨折していることが外見から容易に判断できることも多くありますが、レントゲン検査を行って、骨折の有無をはじめ、骨のずれを確認します。また、手首の関節に多数の骨片を伴う場合などは、CTやMRIによる精査が行われることもあります。レントゲンでは診断できないような細かい骨折の場合、さらにMRIを追加することで診断することもあります。
橈骨遠位端骨折の治療法は、骨折の程度によって異なります。骨折のずれが小さい場合は、整復し、ギプス固定などで安静を図るなど、保存療法が行われます。しかし、骨折のずれが大きい場合や関節内にまで骨折が及んでいる場合は、手術が必要となります。手術では、プレートやスクリューを用いて骨折部を固定します。
またリハビリテーションを行うことも重要で、手術の有無にかかわらず、早期から開始することが大切です。手術をした場合は、リハビリテーションの内容は、時期によって異なりますが、初期は腫れをとることを目標とし、その後、手首の可動域や筋力を回復させるための訓練を行います。
橈骨遠位端骨折は、適切な治療とリハビリテーションを行うことで、多くの場合、良好な経過をたどります。ただし、骨折の状態や治療のタイミングによっては、後遺症が残る可能性もあります。そのため、転倒などで手首を痛めた場合は、早めにご受診ください。
変形性関節症
変形性関節症は加齢や使い過ぎなどのほか、何らかの理由で、関節の軟骨がすり減るなどし、関節の骨が変形してしまう病気です。起こりやすい部位としては、指の第一関節、親指の付け根、膝、股関節などがあげられます。手指に関わる変形関節症による疾患としては、へバーデン結節、ブシャール結節、母指CM関節症などがあります。
へバーデン結節
へバーデン結節は、指のDIP関節(指先より第一番目の関節)が変形し、曲がってしまう病気です。手をよく使う人がなりやすく、40歳以上の女性に多く発症する傾向があります。へバーデン結節の初期症状としては、関節の痛み、腫れ、赤み、熱感などがあります。進行すると、痛みが強くなり指の動きが制限され、ものをつかみにくくなります。最終的には関節が固まってしまい、日常生活に支障をきたすこともあります。
原因は明らかになっていませんが、女性ホルモンの減少や遺伝なども関係していると考えられています。関節リウマチと間違われることもありますが、関節リウマチにみられる「朝のこわばり」がなく、また関節リウマチが主に第2関節に発症するのに対し、へバーデン結節は第1関節に発症します。また、へバーデン結節は骨棘など骨が増殖するのに対し、関節リウマチは骨が溶けていくという違いもあります
ブシャール結節
ブシャール結節とは、指のPIP関節(指先より第二番目の関節)の軟骨がすり減ることで起こる、へバーデン結節と同様の変形性関節症です。こちらも40代以上の女性に多く、症状としては関節の腫れや痛み、動かしにくさなどが現れます。
原因も同様にはっきりとは分かっておらず、遺伝や加齢、ホルモンバランスの変化、手先の使い過ぎなどが関係していると考えられています。関節リウマチも関節の腫れや痛みを引き起こしますが、ブシャール結節とは異なり、血液検査で免疫の異常が認められます。
母指CM関節症
母指CM関節症は、親指の付け根にあるCM関節の軟骨がすり減り、骨同士が摩擦を起こすことで発症する変形性関節症の一種で、やはり親指を酷使する動作を繰り返すことや、加齢に伴い関節軟骨が摩耗することで発症します。閉経後の女性に多く見られることから、女性ホルモンの減少も関与していると考えられています。
主な症状は、親指の付け根に生じる痛みで、瓶の蓋を開ける、物をつまむなど、親指に力を入れる動作で痛みが強くなり、これらの動作がしづらくなります。初期は安静にすることで痛みが治まりますが、進行すると安静時にも痛みや腫れが生じ、関節が変形することもあります。さらに進行すると、親指が外側に開きにくくなる、親指の付け根が手のひら側に入り込んで「白鳥の首」と呼ばれる変形が生じるといった特徴も見られます。ドケルバン腱鞘炎やリウマチによる関節炎と症状が似ているため、見極めが重要になります。
これらの手指の変形性関節症の治療は、基本的には保存療法で、テーピング、サポーター、装具などで患部を安静にし、薬物療法で痛みを軽減します。ステロイド剤を関節内に注射することもあります。保存療法で効果が不十分な場合や、変形が強い場合は、関節を固定する手術や損傷した骨を切除する手術が必要となることもあります。
キーンベック病
キーンベック病は、「月状骨」という手首の付け根にある骨への血流が低下することで、骨が壊死して潰れていく病気です。初期の症状としては、手首の痛みや腫れ、握力の低下、手首が動きにくくなるといったものがあります。とくに手を使った後や、起床時、作業後に痛みが強くなる傾向があります。
キーンベック病の原因は、まだはっきりとはわかっていません。月状骨は周囲をほぼ軟骨で覆われており、もともと血流が少ないため、血流障害を起こしやすい骨とされています。そこへ軽微な外傷の繰り返しや、小さな骨折などが加わることで、発症の原因となる可能性が指摘されています。主に20~30歳代の働き盛りの男性に多く、スポーツ選手や建築業、農業、漁業など、手をよく使う職業の人に多くみられます。しかし、手を酷使する職業ではない高齢女性にも発症することがあります。
キーンベック病の診断には、レントゲン検査やMRI検査が行われます。初期段階ではレントゲン検査で異常が見られないこともありますが、MRI検査ではより詳細な情報を得ることができ、早期診断に役立ちます。
治療法としては、初期段階で症状が軽い場合は、手首を安静にするためにギプスや装具で固定する装具療法や、痛みを抑えるために消炎鎮痛剤を使用する薬物療法による保存療法が行われます。保存療法で効果が見られない場合や、骨の変形が進んでしまった場合は、手術が必要になる場合もあります。手術には、月状骨への負担を減らす手術、血流を改善する手術、壊死した月状骨を摘出する手術などがあります。
ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)
ドケルバン病は狭窄性腱鞘炎とも呼ばれるもので、手首の親指側に痛みや腫れが生じる病気です。親指近くには、親指を広げる腱と親指を曲げ伸ばしする腱という2つの腱(長母指外転筋腱と短母指屈筋腱)があり、1つの共通の腱鞘(さや)に納まっています。この腱鞘が何らかの理由で厚くなるなどして狭くなると、摩擦が起こりやすくなり、炎症が発症します。
ドケルバン病の主な症状は、親指の付け根の痛みと腫れです。親指を動かしたり、物をつかんだりすると痛みが強くなる傾向があります。また、親指にしびれを感じたり、動かしにくくなったりすることもあります。
この病気は女性に多く、とくに妊娠・出産後の女性や更年期の女性に多く見られます。これは、ホルモンバランスの変化や、育児などで親指を酷使すること(授乳の際に新生児の頭部を保持するなど)が原因と考えられています。また、パソコンのキーボード操作やスマートフォン操作など、親指を頻繁に使う作業をする人にも多く発症します。さらにスポーツ選手でもよくみられます。
治療法としては、まず保存療法が行われます。これは親指を安静にするためにサポーターやテーピングで固定したり、炎症を抑える非ステロイド性抗炎症薬を内服したり、ステロイドに麻酔薬を混ぜたものを腱鞘内に注射するといったものです。これらの保存療法で効果がない場合や、症状が再発を繰り返す場合は手術が検討されます。手術では、腱鞘を切開して腱の引っかかりをとり、腱の動きをスムーズにすることで、痛みや腫れを改善します。
ガングリオン
ガングリオンは、関節を包む「関節包」や腱を包む「腱鞘」に、ゼリー状の物質が詰まった腫瘤です。主に手首や指の関節周辺に発生しやすく、20~50歳の女性に多く見られます。大きさは米粒大からピンポン玉大まで様々で、硬さも柔らかいものから硬いものまであります。多くの場合、ガングリオン自体は無症状ですが、神経の近くにできたガングリオンが大きくなると神経を圧迫し、しびれや痛み、運動麻痺などを引き起こすことがあります。また、関節の動きを制限することもあります。
ガングリオンは、関節包や腱鞘の一部が損傷し、その突起状になった部分に関節液や滑液が流れ込み、濃縮されてゼリー状になることで形成されると考えられています。しかし、どのような仕組みで関節包や腱鞘に変形が生じるのかは、まだはっきりと解明されていません。
ガングリオンの診断は、腫瘤に注射針を刺し、ゼリー状の内容物が吸引できれば確定します。MRI検査や超音波検査を行うこともあります。ガングリオンと診断された場合、基本的に無症状であれば経過観察になります。痛みやしびれ、運動障害などの症状がある場合や、見た目が気になる場合は治療を行います。
保存的療法としては、注射器でガングリオンの内容物を吸引する方法や、外力を加えて押し潰す方法があります。これらの方法で改善することもありますが、再発してしまうことも少なくありません。繰り返し再発する場合や、神経症状が強い場合は、手術でガングリオンを摘出します。手術は再発の可能性を低減できますが、完全に再発を防ぐためには、ガングリオンの根元から切除する必要があります。
ガングリオンは良性のものですが、症状が似ている別の疾患である可能性もありますので、気になる症状がある場合は、お早めにご受診ください。
マレット変形
マレット変形とは、指の第一関節が木槌のように曲がったまま伸びなくなる状態になるものです。突き指の一種で、槌指(ついし、つちゆび)とも呼ばれます。指先にボールなどが当たって強い衝撃が加わったり、腱が切れたりすることで起こります。とくにボールを使う競技中に起こりやすく、中指と薬指に多く見られます。
マレット変形には、「腱性マレット」と「骨性マレット」の二つのタイプがあります。腱性マレットは、指を伸ばす伸筋腱が切れた状態で、痛みはあまりありませんが、指が曲がったまま伸びなくなります。また骨性マレットは、第一関節の関節内で骨折が起こり、伸筋腱が付着している骨がずれた状態です。痛みや腫れを伴い、指が曲がったまま伸びなくなります。
マレット変形かどうかは指の形状や動きで判断できますが、正確な診断にはX線検査を行います。X線写真を見ることで、骨折の有無を確認し、腱性マレットか骨性マレットかを判別します。
治療法は、マレット変形のタイプや症状によって異なります。腱性マレットの場合は、装具を装着して腱を固定し、自然に癒合するのを待ちます。しかし、損傷してから時間が経過している場合は、手術が必要になることもあります。骨性マレットの場合も、装具による保存療法を行うことが有効ですが、重症度によって骨折の整復手術が必要になる場合もあります。手術では、皮膚を切開せずに細い鋼線を挿入して骨を固定する方法が一般的で、体への負担は比較的少なくなっています。
マレット変形を放置すると、回復に時間がかかるだけでなく、指の機能が低下する可能性があります。また、しっかりと完治しないままスポーツなどを再開すると、腱の再断裂や骨折部の再離開が起こる危険性があります。そのため、指先に痛みや腫れがあり、第一関節が曲がったまま伸びない場合は、早めにご受診ください。
デュピュイトラン拘縮
デュピュイトラン拘縮は、手のひらの皮下にある手掌腱膜という組織が厚くなり、指が曲がって伸ばしにくくなる病気です。手掌腱膜は線維性のもので、ほかの部分に比べて手のひらの皮膚が移動しにくい構造になっており、これによって物が握りやすくなっています。この手掌腱膜にコラーゲンが異常に蓄積して、厚くなってしまうのです。
症状としては、初期段階では手のひらにしこりやコブができますが、痛みはあまりありません。病気が進行すると、指が引っ張られるようになり、最終的には指が曲がったまま伸びなくなってしまいます。とくに薬指と小指に症状が出やすいとされ、両手に発症する場合も少なくありません。
原因は完全には解明されていませんが、加齢、遺伝的要因、生活習慣の欧米化などが考えられています。 高齢の男性や糖尿病の患者さまに多く見られるのも特徴です。従来はアジアではまれであると考えられていましたが、近年、日本でも患者数が増えつつあります。
治療法としては、手術と薬物療法があります。軽症の場合は経過観察することもありますが、日常生活に支障が出るほど指が曲がった場合は、手術が選択されます。手術では、厚くなった手掌腱膜を切除します。手術後は、リハビリや装具の着用を行います。また近年では、コラゲナーゼというコラーゲンを分解する薬剤を用いた治療法も登場しました。患部に注射し、弱くなったところで、強制的に指を伸ばして拘縮している部分を切るというもので、手術よりは患者さまの負担が少なくなっています。
デュピュイトラン拘縮は進行性の病気であり、そのままにしていてもしこりやコブは小さくならず、放置すると指が完全に曲がったままになり、日常生活に大きな支障をきたす可能性がありますので、気になる場合はお早めにご受診ください。
ばね指
ばね指とは、指の使い過ぎなどによって指の付け根にある腱鞘というトンネルのような部分と、その中を通る屈筋腱との間に炎症が起こり、指の動きが悪くなる病気です。指を曲げ伸ばしするときに引っ掛かりを感じたり、指がばねのように跳ね返ったりするのが特徴です。
とくに、パソコンのキーボード操作や楽器演奏など、指をよく使う人に多く見られます。また、女性ホルモンのエストロゲンが減少する更年期や妊娠出産期の女性にも多く、ホルモンバランスの変化も関係していると考えられています。その他、糖尿病やリウマチのある方、人工透析治療を受けている方なども、ばね指になりやすいと言われています。
症状は、初期には指の付け根の痛みや腫れ、熱感などが現れます。朝方に症状が強く出ますが、日中は使っているうちに軽くなるケースも多くみられます。進行すると次第に指がスムーズに曲げ伸ばしできなくなり、ばね現象が現れます。さらに悪化すると、指が動かなくなることもあります。
治療法としては、安静にし、消炎鎮痛剤、ステロイド注射などによる薬物治療を行います。軽症の場合は、温熱療法やストレッチも有効です。ステロイド注射は高い効果が望めますが、繰り返すと腱が損傷するリスクもあるため、
慎重に行っていきます。これらの治療で改善が見られない場合や再発を繰り返す場合は、腱鞘を切開する手術が行われることもあります。手術は局所麻酔で行われ、傷口も小さくて済みます。ただし重要な神経が近くにあるため、こちらも慎重に検討する必要があります。肘の症状について

- 肘部管症候群
- 上腕骨外側上顆炎(テニス肘)
- 上腕骨内側上顆炎(ゴルフ肘)
- 上腕骨離断性骨軟骨炎(外側型野球肘)
- 肘内側側副靱帯損傷(内側型野球肘)
- 肘頭疲労骨折(後方型野球肘)
- 変形性肘関節症
- 肘内障
肘部管症候群
肘部管症候群は、手の指先の運動や感覚を司る尺骨神経が、肘の内側にある肘部管と呼ばれるトンネルで圧迫されることで起こる神経障害です。この圧迫や牽引により、手指のしびれや痛み、運動障害といった症状が現れます。
主な症状としては、小指と薬指、そして手の小指側のしびれや痛みが挙げられます。とくに肘を曲げている時など、尺骨神経への刺激が強い時に症状が強くなる傾向があります。肘部管症候群が進行すると、薬指と小指が完全に伸ばせなくなる、手の小指側の筋肉が痩せ細ってくる、手の骨が浮き出て見えるようになるなど、運動機能にも影響が出始めます。それにより、箸やボタンの扱いが難しくなる、顔を洗う時に水を手に貯められないなど、日常生活にも支障をきたすようになります。
肘部管症候群の原因は、肘への慢性的な負荷であるため、建設業や製造業など、長時間、肘を酷使する仕事に従事している人に多く発症します。過去に肘関節の外傷歴があり肘関節の変形がある方にとくに生じやすいことも分かっています。また、野球や柔道などのスポーツでの障害、子供の頃の骨折による肘の変形、交通事故による外傷、ガングリオンと呼ばれる腫瘤なども原因となることがあります。
治療法としては、初期段階では保存療法が選択されます。具体的には、肘の安静、消炎鎮痛剤やビタミン剤の投与、日常生活での肘への負担軽減などです。保存療法で効果が見られない場合や、症状が進行している場合には手術療法が検討されます。手術では、尺骨神経を圧迫している靭帯を切離する肘部管開放術や、尺骨神経を前方に移動させる尺骨神経前方移動術などが行われます。
上腕骨外側上顆炎(テニス肘)
いわゆるテニス肘と呼ばれるものは、医学的には上腕骨外側上顆炎と言います。これは手首を伸ばす働きをする筋肉に炎症が起き、肘関節の外側部分に痛みが現れる状態を指します。テニスをプレーする方に多いことからこの名がつけられていますが、テニス以外でも、バドミントンや卓球、ゴルフ、剣道など、手首を繰り返し使うスポーツで発症することがあり、パソコンのキーボード操作で指を伸ばす動きを繰り返す仕事などでも、発症リスクが高くなっています。
発症の仕組みはまだよくわかっていませんが、主に上腕の骨と指の骨をつなぐ短橈側手根伸筋という筋肉に炎症が起きるためと考えられています。テニスではラケットを振ったりボールを握ったりする動作、日常生活では重いものを持ち上げたり、腕を回したりする動作などが原因となることがあります。
症状としては、物をつかんで持ち上げたり、タオルを絞ったりする動作に伴って、肘の外側から前腕にかけて痛みが生じます。安静時や筋肉を動かさない時には痛みは生じないことが多いですが、悪化すると安静時にも痛みが続くようになります。30~50歳代に多く、とくに利き手側に発生する頻度が高いのが特徴です。
治療としては保存的治療が中心となります。まず患部を安静にし、手首周辺の筋肉のストレッチを行うようにします。さらに消炎鎮痛剤の湿布や外用薬を用います。テニス肘用のバンドの装着も有効です。痛みが強い場合はステロイドの注射を行う場合もあります。このような治療で効果がない場合や痛みが強い場合、手術療法が検討されます。
テニス肘を予防するためには、スポーツや作業などを過度に行わないようにし、手首や指のストレッチをこまめに行うことが重要です。また、あらかじめテニス肘用のバンドを装着することも予防に繋がります。テニス肘は再発しやすい病気でもあるため、治療後も予防策を継続することが大切です。
上腕骨内側上顆炎(ゴルフ肘)
ゴルフ肘(医学的には上腕骨内側上顆炎と呼ばれます)は、肘の内側にある骨のでっぱり部分(上腕骨内側上顆)に付着する筋肉や腱に炎症が起き、痛みやしびれが生じる病気です。肘に繰り返し負担がかかる動作を続けることで、筋肉や腱に炎症が起きることで発症します。ゴルフ肘と名前はついていますが、ゴルフ以外にもテニス、野球など、手首を繰り返し使うスポーツ、重いものを運ぶ、物を引っ張る、パソコン作業などが原因で発症することが多くなっています。
とくにゴルフ初心者や、フォームが安定していない人は、肘に負担がかかりやすいとされており、注意が必要です。また中高年の方は、加齢による筋力の低下、筋や腱の柔軟性の低下も原因となり、発症リスクが高まると言われています。
ゴルフ肘の主な症状としては、肘の内側の痛みがあります。物を握って持ち上げたり、タオルを絞ったりする動作で肘の内側から前腕にかけて強い痛みが出ます。また肘の内側には、薬指や小指の感覚をつかさどる尺骨神経が通っているため、重症化すると、薬指や小指にしびれが出ることもあります。
ゴルフ肘では保存的治療が中心となります。手首や肘を動かさないように安静にし、痛みや炎症を抑えるために、消炎鎮痛剤の外用薬、内服薬、注射薬などを使用します。また肘への負担を軽減するために、サポーターやテーピングを使用する場合もあります。ストレッチや筋力トレーニングで、肘や手首周りの筋肉の柔軟性を高め、筋力を強化するリハビリテーションを行うことも重要になります。
ゴルフ肘を予防するためには、肘への負担を減らすことが大切です。たとえば、ゴルフやテニスなど、スポーツをする際は、肘に負担がかからない正しいフォームを身につける、肘や手首周りの筋肉を柔らかく保つために、日頃からストレッチを行う、練習のしすぎや、無理な運動は避け適切な運動量を維持するといったことに気を付けましょう。
上腕骨離断性骨軟骨炎(外側型野球肘)
上腕骨離断性骨軟骨炎は、野球肘の外側型障害の代表的なもので、繰り返し行う投球動作の際、肘関節の外側に圧迫力が働くなどして生じる肘の障害です。肘離断性骨軟骨炎、上腕骨小頭骨軟骨障害とも呼ばれます。小学校高学年から中学生に発症することが多く、上腕骨小頭の骨軟骨が変性・壊死を起こし発症します。
主な症状としては、肘関節の動きに伴う痛みや動きの制限があります。症状が進行すると、損傷した骨軟骨片が関節内を移動するようになり、肘関節に引っ掛かり感や、ロッキングと呼ばれる、ある角度で動かなくなる症状が現れることもあります。
初期段階であれば、投球を中止し安静にすることで完全に治ることも期待できます。しかし、実際には6か月から1年、場合によってはそれ以上の長期にわたって投球を禁止する必要があり、投球を再開することで再発する可能性もあります。そのため、初期段階であっても長期の投球禁止が難しい場合、あるいは再発した場合は、手術が検討されます。手術では、遊離した骨軟骨片の摘出、遊離しかけた骨軟骨片の再固定、他の部位から骨軟骨を移植して関節面を形成する関節形成術などが行われます。手術後のリハビリテーションも重要です。
予防として重要なのは、練習日数や時間、投球数の制限です。また、肘に負担がかかる投球フォームを改善することも大切です。場合によってはポジション変更することも検討します。正しい練習スケジュールと適切な技術指導によって野球肘の発症を防ぐことができます。
離断性骨軟骨炎は、まだ骨・軟骨組織が成長段階にある小児期における関節の酷使を原因として発症します。酷使し続けると病状が悪化し、手術でないと治らない状況になることもあり、最悪の場合は、選手生命が絶たれることもあります。投球時に肘の痛みを訴える場合は、早めに受診することをお勧めします。
肘内側側副靱帯損傷(内側型野球肘)
肘内側側副靭帯損傷は、野球肘の原因の一つとして知られており、肘関節の内側にある靭帯が損傷した状態を指します。肘尺側側副靭帯損傷ともいわれます。また、内側型野球肘とも呼ばれます。この靭帯は、上腕骨と肘から手首にかけての尺骨をつなぎ、肘関節が横方向に曲がらないように安定させる役割を担っています。
とくに野球やテニスなどのスポーツで、肘関節に繰り返し負担がかかることで発症しやすく、若年者に多く見られます。投球動作では、加速期に腕が前方に振り出される際に肘に強い外反ストレス(肘を外側に広げようとする力)がかかり、このストレスが繰り返し加わることで靭帯が損傷します。外側型野球肘(上腕骨離断性骨軟骨炎)よりも、この内側型野球肘の方が、頻度が高いと言われています。
肘内側側副靭帯損傷の主な症状は、投球時や投球後に肘の内側に痛みが生じることです。肘の腫れや肘周囲の筋力低下、肘の可動域の限定などが現れる場合もあります。とくに、ボールを投げる動作や物を掴む動作で痛みが強くなります。重症の場合には、肘の腫れや肘周囲の筋力低下、肘の可動域の限定などが現れる場合もあり、日常生活でも肘の不安定感や痛みを感じることがあります。
肘内側側副靭帯損傷の治療は、損傷の程度によって異なります。軽度の場合には、ギプスや三角巾を用いて安静にし、投球禁止、アイシング、消炎鎮痛剤の内服などの保存療法が中心となります。重症の場合や保存療法で改善が見られない場合には、靭帯を再建する手術が行われることもあります。手術には、自分の腱を移植する方法や人工靭帯を用いる方法などがあります。
野球肘を予防するためには、投球フォームの改善や適切な投球数の制限、体の柔軟性を高めることが重要です。肘に痛みを感じたら、早めに受診をお勧めします。
肘頭疲労骨折(後方型野球肘)
肘頭疲労骨折は、野球やハンドボールなどの投球動作を繰り返すことで、肘頭と呼ばれる肘の先端部分に疲労が蓄積し、骨折してしまうスポーツ障害です。後方型野球肘とも呼ばれ、とくに野球の腕を振り下ろす動作で、肘頭と上腕骨の肘頭窩が衝突するストレスが繰り返しかかることが原因となります。この障害は、小学生の野球少年、とくに投手に多く見られます。
肘頭疲労骨折の主な症状は、投球動作時の肘の後ろから内側にかけての痛みです。具体的には、肘を押すと痛みを感じ、肘の可動域が制限されます。また、多くの場合、肘を完全に伸ばした際に痛みが誘発されます
肘頭疲労骨折は、レントゲン検査では骨折線が見えにくい場合があり、診断が難しいことがあります。そのため、スポーツ歴や症状から疲労骨折が疑われる場合は、MRIやCT検査など、より詳細な検査を行う必要があります。
治療は、基本的には保存療法が選択されます。これはスポーツ活動を休止し、患部を安静にして負担がかからないようにすることで、自然治癒を促す方法です。症状によっては、数週間の外固定を行うこともあります。また保存療法では、理学療法士によるリハビリテーションも重要になります。体の使い方やバランスの改善、自主トレーニング方法の指導など、多角的なアプローチで、疲労骨折の再発防止を目指します。
肘頭疲労骨折は、適切な治療を行えば、ほとんどの場合、スポーツ復帰が可能です。ただし、痛みがある状態で無理に投球動作を続けると、骨折が治りにくくなり、手術(骨折部を金属プレートやネジで固定する手術や、骨移植を行う手術など)が必要になる場合もあります。そのため痛みを少しでも感じたら、早めにご受診ください。
変形性肘関節症
変形性肘関節症は、肘関節の軟骨がすり減ったり、骨が変形したりすることで、痛みや動きの制限が生じる病気です。肘関節は、上腕骨、橈骨、尺骨の3つの骨から構成され、それぞれが組み合わさって腕橈関節、腕尺関節、近位橈尺関節という3つの関節を作っています。これらの関節面の軟骨が変性することで変形性肘関節症が起こります。変形性肘関節症は、股関節や膝関節などの体重がかかる関節に比べて発症頻度は低いものの、肩関節や手関節といった他の非荷重関節よりも発症頻度は高いとされています。
変形性肘関節症の原因は、ひとつには加齢による変性が挙げられます。さらに肘に負担のかかる動作を日常的に行っていることも変性を招いてしまいます。重いものを運ぶなど肘を使う仕事や、激しいスポーツ(とくに野球のピッチャーやテニスなど)を行う方は注意が必要です。また肘関節の外傷も原因となる場合があり、骨折などの後に続発症として発症することがあります。
主な症状としては、肘関節の痛み、腫れ、動きの制限などがあります。初期は安静にすると痛みが軽減するため、放置されてしまう場合もありますが、進行すると日常生活に支障をきたすこともあります。肘を動かすと痛みが強くなり、安静にすると痛みが軽減するのが特徴です。また肘の曲げ伸ばしが制限され、場合によっては、口に手が届かない、肘が完全に伸びきらないなどの症状が現れることもあります。
変形性肘関節症の治療は、保存的治療と手術療法があります。日常生活に支障がない場合、保存療法が選択されます。主な方法としては、三角巾やシーネ、装具などを用いて肘を安静に保ち、消炎鎮痛剤の内服や関節内注射で痛みを軽減します。また理学療法として、温熱療法やレーザー治療、筋力トレーニングやストレッチなどで肘関節の機能を改善します。保存治療で効果がない場合や、日常生活に支障がある場合は、手術療法が検討されます。骨棘を取り除く手術や、人工関節置換術などがあります。
肘内障
肘内障とは、いわゆる「腕が抜ける」「肘が抜ける」状態のことです。医学的には「肘関節の亜脱臼」とも呼ばれます。とくに5歳以下のお子さまに多く、7歳以上になるとほとんどみられなくなります。これはお子さまの肘の骨が未発達で、多くの部分が軟骨でできており、また肘の骨を固定する「輪状靭帯」と呼ばれる組織の固定力が弱いことが原因と考えられています。そのため強い力が加わると、骨が靭帯から外れかけてしまうのです。
肘内障の原因は、主にお子さまの手を強く引っ張ったり、ひねったり、不自然な形で手をついてしまうことなどがあげられます。遊んでいる最中などに起こる場合もあります。肘内障になると、腕が内側を向いたまま下に垂れ、肘を完全に伸ばすことができなくなります。また、肘を動かそうとすると痛みが生じ、お子さまは痛がって腕を動かさなくなります。
肘内障の治療は、医師による整復が基本です。整復とは、肘の骨の位置を正しい位置に戻す処置のことです。整復は基本的には麻酔なしで、その場ですぐに行うことができ、整復が成功すれば痛みはすぐに消えて、腕を自由に動かせるようになります。ただし時間が経過すると整復が困難になる場合がありますので、早めにご受診ください。
肘内障は、一度起こると再発しやすいという特徴があります。とくに幼児期には再発を繰り返すことが多くみられますが、成長とともに靭帯がしっかりしてくるため、6~7歳を過ぎるとほとんど起こらなくなります。10歳を過ぎても肘内障を繰り返す場合などには、骨や腱などに異常がある可能性もあります。気になる症状があれば、お気軽にご相談ください。